井上士朗

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士朗の句

果しなき水のくもりや啼蛙


月雪の夜をあらそへる風情かな


ほとゝぎす山は女松の景色哉


花さくら身に請ぬ人はなかりけり

『風羅念仏』(法会の巻)

秋の夜の明てもしばし月夜哉


植て去る山田を鹿の通りけり


庵にあれハ山時鳥山になく


殻蠣も音をや鳴らん芦の雨


おくるゝときくもうれしき桜哉


老の身の作り出したるかゝしかな


ゆふかけや鴫のすれ行荻の声


萬代や山のうへよりけふの月


つくつくと見て居れは散る桜かな


梅柳きのふの枝はなかりけり


あまの川飛(ひ)こすほとに見ゆる哉

万代や山のうへよりけふの月


大仏の雨を見に行春辺哉


夕影や鴫のすれ行荻の声


このもしき庵や桜にさひかへり


侘つくしつくしてぞ花の春


いくほとの世をあさ顔の松の枝


冬がれて烏もくハぬいのち哉


わか影はなへて桜の木の間かな


柿寺ややぶの中にも鳴ちどり


松原にゆりこむ冬の月夜哉


大としにおゝきな雪のふりにけり


初鴈の己が空問ふ夕ぐれや


かまきりの風に身を置く芒哉

世を捨にありく桜の木の間哉


月影もはらはすなりの苔の花


月華を捨てミたれば松の風


こぞの秋月下の飲に歯はじめておつ。こと
しやよひ歯ふたゝび落ぬ。かなしみ動てた
のしみまたあらた也。月雪を膾炙して長く
こゝに老を侘ん。

しはぶるもあはれなりけり月と花


走り出て月に雨はく小庭かな


遠里や花の余波(なごり)を鳩が啼


夕時雨するや山家の小石壁


はつ秋の川瀬に立る小笹哉


陽炎を淋しき物としらざりし


(よい)月が出よふ(う)とするぞ秋の暮


世を捨に歩行桜の山路哉


しくれてそいかにも出たる不破月


時雨をながめくらしつけふの月


   鶴龜の齡にくらぶる年ふりしひさ
   ごと、西山の枇杷の木釖とは、常
   に愛するのふたつ也。

なでしこの露をれしたる川原哉


月と水とともゝたれする夏の夜や


はしり出て月に雨はく小庭かな


(つくづく)と見て居ればちるさくらかな


灯の見ゆる戸も正月の宵寝哉


棚橋やひよひよ草にうく蛙


花咲て梅折ぬ日はなかりけり


あらけなき音聞雨の蓮哉


柳青し水長し笠を手に提て


冷々と蕣のさく垣ねかな


何をして人は暮すぞ須磨の秋


后の月雨もなんぞの名残哉

山の端をころげて落る月もみつ

雨晴て木の間にうかぶ月夜哉


沢山な月日が出来て梅の花


あく迄に閑にふたり冬の月


鳥雲に入熊谷のつつみかな


ゆかしきはたた鶯のこころ哉


春をだに水はとゞめずすみだ川


春の草の雨にあうたる景色かな


沢山な月日か出来て梅の花


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