白 老

『世美冢』


高藏寺の俳僧白老芭蕉句碑建立記念句集。

文化10年(1813年)秋、随斎成美序。今日庵一峨跋。

芭蕉の句碑


やかて死ぬけしきはみえす蝉の声

吾友白老法師こゝにかくれすむ事年あり。此お山の花ちり、わか葉にうつれる頃より、なは蝉・うませみ・寒せみ・日ぐらし・くつくつほうしなど、耳もとにかしがましきをきくにも、これらの虫の春秋をしらぬもあはれに、かつ觀念のたよりともなりぬべしとおもひそめしより、はせをのおきなの句に感ずる所ありて、やがて石のおもてにかの句をゑり付て、まうでする人々にも、しりがほにしてしらぬなり、とよめる無常の心をもおどろかさむとなり。

はせを
やがて死ぬけしきはみえず蝉の聲

   何わすれ草あかあかと咲
  白老

むら雨の臼十ばかり月さして
  一茶

   秋のはじまる番袋かな
  老



霞む日や田中の松も祭らるゝ
  雨十

   おてらわかしよとやまふいははな
   はさゑともみやならぬと高くうた
   ひ、麥つくも鄙のむかしぶりとや

夕すゞみ蛙まじりの蟹の足
  砂明

藻の花やありたけ伸す馬の首
  里丸
亡人女
庵の夜をくるりくるりと螢かな
  花嬌

冬枯の背戸にかけたる鵜繩哉
  一瓢

青芒不二の烟りの根がはへて
  郁賀

青あらし淡路の島の鷄うたふ
  鳥周

大礒や小磯の波も卯月めく
  杉長
しもつふさ
ひたひたと潮にとらるゝ清水哉
  雨塘

三日月は高野聖の背屓行
  兄直

星合の沙汰も明行楸(ひさぎ)かな
  素迪

   みちのくへ行を送りて
亡人
松しまにいふて下され我老ぬと
  恒丸

露の世と見えてさつさと蓮の花
  車兩

入梅も終わるかはきや猿すべり
  護物

名月や晴ての後の氣草臥
  午心

花見てぞおもへ椿の咲どころ
  完來

八条の薄垣くゞる十夜かな
  素玩

晝顔や二尺すさらば山の影
  對竹

梓にもかゝるべらなり雨の鴫
  一峨

胡麻三粒はねても嬉し霜の朝
  一瓢

梵論の行ふもとしづかに落葉哉
  巣兆

(あさがお)に寄麗な人や髭宗祇
  道彦

淺草やすゑは稲葉にみかの月
  成美
むさし
山茶花や三日月過の鳥のこゑ
  寶水

とても行年なら春もしかるべし
  星布

椎の戸や昼の椿の落るおと
  利角

嬉しくて耻しきものは炭だはら
  洞々

此雨をたのまずとても梅の花
  (雉)

七夕のさゝ水いはへ孕牛
  他阿

名月や老を名のりて高笑ひ
  葛三
しなの
寐て起て手柄がましや今朝の秋
  素檗

山里やいかい事ある冬の空
  嵐外

なかなかに人と生れて秋の暮
  一茶
ひたち
笠おけば草のうへよりあきの風
  由之

假初に見て行人や花すゝき
  隨和

椴の木に蜩啼て日の暮し
  掬明

案山子にはなられじと泣和尚哉
  冥々

花ざかりおもひ出しては風のふく
  雨考

園へ散松葉踏ても深山めく
  曰人

   宮城野にて

降はづの雨にあひけり萩の花
  雄淵

大寺や疊に遊ぶはるの鳥
  巣居

友ほしき日も九ッや松の花
  平角

降雨に位つけたりほとゝぎす
  乙二

   草まくらはるかにたのめてし信夫
   山も雨につゝまれて、月のあすも
   いはざりければ

柿ぬしのむしろたてたる苅穂哉
  幽嘯

嬉しさを包む艸ならかきつばた
  可都里

名月をうしろに庵の曲突哉
  玄蛙

筑波へものぼるこゝろか蝸牛
  閑斎

はつ雪のおとついは雪の見もの也
  一艸

春の日は毎日ながら惜みけり
  升六

梅ぬる(マゝ)む人はおほかた月夜哉
  岳輅
亡人
柳青し水長し笠を手に提て
  士朗

しら波の上まで露の夜明かな
  樗堂

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