吉川五明

『佐夜の月』(渭虹編)



 文政2年(1819年)、吉川五明十七回忌の発句集。『佐夜の月』(渭虹編)成立。翌3年、刊行。

土肥渭虹は秋田藩士。虫二坊四世。

天保5年(1834年)4月17日、81歳で没。

五明と交遊のあった諸国俳人の句が収録されている。

稲妻やきのふは東けふは西
 晋子

枯蓮の起てたゝかふ時雨かな
 淡々

十三夜千鳥のはつ音聞にけり
 渭北

耳も眼も老が秋たつ露時雨
 素堂

さくさくと粟搗[く]師走月夜哉
 暁台

千葉殿の仮家ひけたりかれ尾花
   
 蕪村

価ある黄鳥雪に高音かな
   
 蘭更

我魂を啼減らしけり枝の蝉
   
 重厚

沢山な月日が出来て梅の花
 士朗

人ごゝろ同じ桜に深く入る
 春鴻

名月やかねて葎の中の宿
 葛三

朝露や鶴のふみこむ藤ばかま
 巣兆

簔と笠持て千鳥をこゝろかな
 月巣

ねむたげに葵かけたり児の皃
   
 宗讃

雛さまも侘住居かな浪の音
   
 素月

まつ風や恋を忘れし瓢汁
   
 恒丸

芒より生れし山よ芒より
   
 素郷

蝶の飛[ぶ]渉りもあらん天の川
 一草

あすこにと廻はるゝかな雨の月
   
 成美

ゆさゆさと桜持て来る月夜哉
   
 道彦

親のある鳥か冬すむ北の海
   
 吾長

象潟は昼の露見る処かな
   
 長翠

ぐらつゐて梅折にくき小舟哉
   
 雪雄

近江中夜の世の中月ひとつ
   摂津
 三津人

雨の景ひとかど持や麻畑
 奇渕

秋のほたる啼はいかなる草の露
   播磨
 玉屑

蝶鳥につけ廻されて傀儡(ママ)
   安芸
 玄蛙

我老てことしも殖る芒かな
   信州
 素檗

雨二日蚕のきげんとはれけり
   
 如毛

はつものや雪も仏に作られし
   
 一茶

小手鞠の花に着初る袷かな
   相模
 雉啄

夕粧するや時雨のあらし山
   尾張
 岳輅

鳥は皆啼ものながら涅槃の日
   甲斐
 漫々

ほとゝぎす啼と思ひば夏の空
 嵐外

山畑や雲かゝるまで蕎麦の花
   三河
 卓池

雁帰る夜や行灯を草のうへ
 秋挙

こゝろまで浅黄になるや衣更
   伊豆
 一瓢

遠く見るものゝひとつぞ残る雪
   河内
 耒耜

穂や花や我は朝の門の草
   武蔵
 鶯笠

鳥は皆池へ取りけり冬木立
   
 蕉雨

花と見し間のひさしよはつ茄子
   
 護物

田の風や明る侘しき螢の夜
   
 何丸

見ながらも桜見やうと思ひけり
   陸奥
 曰人

呼ば来るやうすを見せて飛[ぶ]螢
   
 馬年

はつ雪を直に敷ふぞ柴一把
 百非

盆の月あまりに冴て哀なり
 平角

寂うて鶴亀の眼をさますほど
 布席

箒木ゝの種も萠けり小柴垣
 冥々

家ほどの波持て来ては啼鵆
 雄渕

みじか夜の満月かゝる端山かな
   陸奥
 乙二

夕皃や箒にかゝる湖の汐
   日向
 真彦

暦より四五日はやき寒かな
   
 真寿身

ふすま着て一時ばかり仏かな
   
 可来

先師小夜庵五明うしの、十あまり七とせの忌の日を、弔へ(ママ)はべりて

聞そめし日は忘られず霜の声
   渭虹

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