俳 書

俳諧百家仙』(芳園編・鈍雅画)



寛政8年(1796年)9月、黄華菴升六序。

当代の俳人の句及び肖像を一人分半丁に収めたもの。

春の海終日のたりのたりかな
   蕪村

春風の夜はあらしに乱れけり
   暁臺

ほとゝきす一聲夏をさためけり
   蓼太

梅か香に驚て梅の散日かな
   樗良

白魚やあら浪かゝるものをなす
   麦水

長々と肬(ママ)にかけたり菖蒲賣
   白雄

戸口より人影さしぬ秋の暮
   青蘿

舩慕ふ淀野の犬や枯尾はな
   几董

名月や浮世に曇る人の影
   重厚

花の山守ると思はゝ住侘む
   完来

おし鳥は一夜わかれて恋をしれ
   旧國

しら菊や色あるものはさめやすき
   五明

闇の雪ものゝ影より見えてふる
   長翠

梅の花莟こほるゝ癖のある
   三千彦

白きものは骨髄白し秋の花
   丈左

灰よせて佛つくらむ冬の雨
   宗讃

厂かねの風にかゝらぬ聲もなし
   斗入

春の人これも柳にかくれけり
   臥央

名月や親子さしむく人の家
   成美

名月のをしくも照らす深山かな
   可都里/A>

長生の恥も思ハぬ花見かな
   諸九尼/A>

西と見えて日は入にけり春の海
   百池

小田の鳫雨は夜くせと成にけり
   雙烏

西に見る夜は道なから夏の月
   素檗

誰となく友のまたるゝ月夜かな
   素郷

初穐や處々に枝のとり
   蕉雨

秋の夜や世はさまさまの高わらひ
   平角

こからしや廣野のすゑのみしか山
   雲帯

月雪もおなし雲よりこほれけり
   椿堂

降やんて雪さはかしく成にけり
   菊明

鹿の聲端山の雨となりにけり
    春蟻

銭投て宮居を雪の舎りかな
   一瓢

つやつやと梅散夜の瓦かな
   樗堂

蚊遣艸紀の舟乗かもて来たり
   柳荘

人去て鳥立てはなの月夜哉
   千影

名月や故郷の空も水のうへ
   若翁

萍の實もとゝまらす秋の水
   竒渕

鹿鳴てなかめられけり夜の山
   瓦全

蚊帳ひとつ持てうるさき起居かな
   駝岳

引汐のはてなく霞む海邊かな
   玉屑

鴬の小顔つん出せ初しくれ
   羅城

植かへし櫻やしなへ初しくれ
   升六

つくつくと見て居れは散る桜かな
   士朗

田鶴の音にとしとし暮ぬ和歌の浦
   月居

ミな古き鐘の聲也しもの朝
   蝶夢

うかうかと生て霜夜やきりきりす
   二柳

薪畫て門を出れは春日かな
   闌更

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