岩間乙二

『わすれす山』(きよ女編)


文政8年(1825年)秋、乙二の三回忌追善集『わすれす山』(きよ女編)。

   仲秋無月
松窓
月やこの芙蓉ももたすくもる庵



   歌仙

我影の寝やうとするそ夏の月
   松窓

 蓮のうき葉の風もたまらす
   き代

臼ほりか軒は谺の名所にて
   亀丸



   乙二坊身まかりて三とせのさつきとはなりぬ、
   清女か追福の集ものせるよしにてその需(も
   とめ)に応す

ほとときすそも光陰の矢つきはや
   鬼孫

   阿翁の訃音を旅中に聞て

水や空この曙を桐ひと葉
   夢南

垣もたぬ蕣(あさがお)に似てみとせ経し
   かめ丸

楳咲て鶯老てあきの風
   馬年

   諸風士文音

堪忍のならぬ寒さや梅もとき
   応々

田の中にそもそもよりのすすき哉
   梅室

うくいすや竹に二朝梅に今朝
   蕉雨

一昨日のことは覚えぬうめのはな
   蓼松

渡る瀬もなくてしくれる河原哉
   可布

白魚や梅田も芹のつみ所
   国村

時鳥かつみは花の恋しらす
   鞠塢

簔の着ても寝らるる物をゆきとける
   碓嶺

夕かほやむかし役者の覗かるる
   諫圃

菊の宿心尽しはよるにある
   碩布

春まてはゆるりと遊へいけの鴨
   詠帰

いさそこへ膝すり寄せんはるの山
   鶯笠

堀多き木場の屋敷やうめ椿
   護物

何所まても鶺鴒あかるや駿河町
   久藏

もとかしや橘うへし宵の月
   車両

なしの花垣根に月の落んとす
   閑斎

あつはれな茶師に打れし椿哉
   奇淵

月鉾のつついて牽けや木賊山
   秋挙

二空に鳴て跡なしほとときす
   卓池

日のすしや鳥は枯野の外を行
   玄蛙

玉川や先おさきへと飛かはつ
   一茶

ほとときす鳴た空なり見ておかん
   若人

出た先に日は暮にけり梅もとき
   武曰

山寺や猪(しし)に喰れし稲を苅
   八朗

柊はちらぬ花かもみそささゐ
   漫々

山淋し水さひし里は盆の月
   かに守

十五夜の月に見へすや龍田姫
   嵐外

約束をしては見られす霜の花
   杉長

しくるるも時雨ぬふりや枯柏
   一瓢

はる雨の夜も機織河内かな
   双烏

蝶ひらひら同し月日の中に居て
   湖中

いさきよきつく波ゆり出す青田哉
   李尺

山ふきを折て夢見るはしら哉
   由之

雀とは知れと小寒し木下闇
   鶴老

ふすま着れは夢は浮世の裏を行
   桂丸

木からしや底の見へすく天の川
   素廸

順礼のかね撞捨し若葉哉
   雨考

隠れ簔着たしきせたし花盛
   た代

衣かへて見しや雀の袴くさ
   掬明

春の夜の露ふまんかな東山
   大呂

世に鳥のなひと思ふ歟行々子
   渭虹

ほのほのと梅に別あり山の月
   平角

淋しさは親ゆつりなりきりきりす
   士由

      ○

月代に里はかくれて鹿のこゑ
   雄淵

野の哀さはさりなから初時雨
   百非

また鳥のうちなり花に時鳥
   心阿

老の目にひよつと見ゆるや露の玉
   曰人

(ふぐ)喰ふておほつかなくも月夜哉
   梅屋

   古 人

かりそめに分入山の桜かな
   鬼子

ゆかしきはたた鶯のこころ哉
   士朗

枯芦の日に日に折れて流れけり
   闌更

星の朝やさしと見へぬ草もなし
   道彦

五月雨や我かつしかは露の陰
   成美

蕣の白きは霧にかくれけり
   鉄船

水あひる烏淋しや暮の春
   可都里

芦鴨の寝るより外はなかるへし
   巣兆

燕尾香よしなき名にて哀なり
   葛三

寝はねてもすむ身を春の朝雀
   樗堂

初しくれ小野のけふりも交るへし
   巣居

ころもかへ(え)て行は誰子そ浦の松
   素月

鰒喰の淋しそうなる睦月哉
   五明

降捨て置けり雪の角田川
   完来

不断見て五月五日の柳かな
   三津人

梨子壷の出入もせりみそささゐ(い)
   冥々

凩のかくりと居ては雁のなく
   長翠

凩や竜田のけしきいかはかり
   月居

なかなかと肘にかけたりあやめ売
   白雄

蚤を負ふ心や唐の芳野迄
   暁台

寒月や枯木の中の竹三竿
   蕪村

   清浄庵

我宿の梅咲つらんたより待
   麦蘿

      ○

   死生をともにし草まくらに袂をわかちたる松
   窓翁、世になき人の数に入りしを東武にあり
   

死のこる眼に冷つくそ遠い空
   青標

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