小林一茶



『株番』

主として文化9年の句文集。

 文化8年(1811年)12月22日、小林一茶は布川に入り、文化9年の正月を布川で迎える。

 文化九年正月十五日、下総国相馬郡布川の郷なる月船亭に日待といふことをして、人々こぞりて夜の明るをなん待ちける。

 程なく来見寺の鐘暁をつげて、布佐台の烏かはかはと鳴わたるに、おのおのばらばら帰りけり。

おのれやれ今や五十の花の春
   一茶

かゝる代に何をほたへて鳴蛙
   ゝ

やよかにも御鶯よ寛永寺
   ゝ

   西林寺に今日到来の一木、満花也

あのくたら三百文の桜哉
   一茶

   題 鶴亀松竹

鳴鶴の退屈もなしいせの海
   鶴老

松陰に寝てくふ六十よ州哉
   一茶

   賀治世

松陰に寝てくふ六十よ州哉
   一茶

   鶴と遊ん亀とあそばん
   鶴老

   不忍池

永き日を喰やくわ(は)ずや池の亀

   葛西辞(ことば)

せなみせへ作兵衛店(だな)の梅だんべへ

 布施東海寺に詣けるに、鶏どもの迹をしたひぬることの不便さに、門前の家によりて、米1合ばかり買ひて菫(すみれ)蒲公(たんぽぽ)のほとりにちらしけるを、やがて仲間喧嘩をいく所にも始たり。其うち木末より鳩雀ばらばらとび来たりて、心しづかにくらひつつ、鶏の来る時、小ばやくもとの梢へ逃さりぬ。鳩雀は蹴合の長かれかしとや思ふらん。士農工商其外さまざまの稼(なりは)ひ、みなかくの通り。

米蒔くも罪ぞよ鶏がけ合ぞよ
   一茶

春風や浮名も立し古地蔵
   双樹

   十七日 随斎会

おくゑ(え)ぞや仏法わたる花も咲

   十八日本行寺

陽炎や貝むく奴がうしろから

三月三日

翌は又どこぞの花の人ならん
   双樹

   川なら野なら皆小てふ也
   一茶

山寺ははや簾して雉の声
   護物

株番 巻の二

時鳥花のお江戸を一呑に
   一茶

有明をなきこくりけり時鳥
   成美

四日 花嬌仏の三廻忌俳莚 旧懐

目覚しの牡丹芍薬でありしよな
   一茶

何ぞいふはりあひもなし芥子花
   ゝ

十六日 晴 砂明上人入来

卯の花や夜のう月も晴れ晴れし
   砂明

四月 廿七日 於大乗寺張行
房州葛三門人
朔日(ついたち)や袷もたねば蓑をきる
   雉啄

   とある小家も青すだれせり
   一茶

涼しさの夜をやり過す莚哉
   素迪

笋によしや痩ても奈良法師
   至長

庭掃てそして昼寝と時鳥
   双樹

粽とく二階も見ゆる角田川
   一茶

株番 巻の二(三)

寛文九酉九月廿二日暁霊夢東順

言のはをせどにも門にも植置て

   いづれやくにはたちつてとかな

秋立や隅の小すみの小松しま
   一茶

   小児をすかして

泣者を連ていぬとや秋風
    ゝ

   軽井沢

有明や浅間の雰が膳をはふ
    ゝ

明く口へ月がさす也角田川
    ゝ

   外ヶ浜

けふからは日本の雁ぞ楽に寝よ
    ゝ

   小梅筋を通りて

かしましや将軍さまの雁じやとて
    ゝ

あつさりと春は着にけり浅黄空
   一茶

   西に鶯東に雪
   希杖

文化十『信濃札』

花咲て梅折ぬ日はなかりけり
   士朗

大仏の雨を見に行春辺哉

松桜一木おき也あらし山

ちかづきになりて門出る桜哉

年々に花の見やうの替りけり

   善光寺

朝な朝な虱掃出す御堂哉

日の暮ぬ日はなけれども秋の暮



  ヱド
安房(あほう)とは誰子呼らん花菫
   国村
  ヲク
水鶏にもうとまれがまし世にあれば
   雄淵
  サガミ
蔓草やどこ迄伸て盆になる
   洞々
  ヒタチ
三ヶ月はものゝ紛レに見たる哉
   翠兄
  アキ
桑の実に染る鹿子の鼻柱
   玄蛙



正月廿八日とゞく

(あす)は我と起くらべせよ門の蝶
   武曰



今正月十八日出 同日とゞく

   冬どしより病中にて

百日の炭ふすぼりや寄はしら
   素玩

榾の火や団十郎も見た男
   成美

文化十年十一月四日出 正月廿八日とゞく

   十 夜

酒売の十声ひと声たのみ有
   成美

   世をうんじ果たるころ

此上に樒もたてよ厚衾
   ゝ

二月九日出一通 三月四日来

東海道残らず梅に成りにけり
   成美

  房州
世中に咲て見せけり忘草
   郁賀

水鳥のづぶりと春の行え(へ)
   空阿

 ミチノク
灌仏や世の白露を見せ申
   きよ女

  江戸
江戸に生れ男に生れはつ松魚
   泰里

元禄三年二月六日

鶯の笠おとしたる椿かな
   桃青

    古井の蛙草に入声
   乍木

陽炎の消ざま見たる夕かげに
   百歳

    消さす方に月ひづ(ず)む也
   村鼓



春の草お七が墓に人見ゆる
   成美

秋暮ぬ百がものなき痩からだ
   寥松

三月十二日出 同廿五日とゞく

菰槌に永き日あしぞかゝりける
   一蛾

二月八日認 同日來 歳旦帳入

   筑紫へ旅立とて

首途(かどいで)や不二の霞を笠にせん
   白芹

三月十二日出 同日來 『反故探』一冊入

露の世と見へ(え)てさつさと蓮花
   車両

よし切の口もさけずや雲の峰
   心非

六十も四ツ見ぬさらば鰒(ふくと)
   道彦

みじか夜に木がくれ月のはつみ哉
   護物

  サガミ
十月の迪ばたにある桜かな
   叙來

冬の日や野にひつゝいて一軒家
   雉啄

  江州
合点して聞ばきく程閑古鳥
   亜渓

楢の葉に山がかくれてほとゝぎす
   志う女

枯かづら手ぐるも人の師走哉
   空阿

 ミチノク
名が売れてかくれにくさや青簾
   曰人

山の月霰こぼした顔もせず
   乙二

此やうな末世を桜だらけ哉
   一茶

   今やひがんとほこる鶯
   文虎

三月卅日認 四日十四日来

重箱に鯛おしまげて花見哉
   成美

   喜 晴

まくり手に蝶の羽風もこゝろや
   ゝ

四月六日認 同日来

手拭で狐つらふ(う)ぞ花の山
   巣兆

夕柳人立よれば横に吹
   平角

乙鳥や臼と小藪の其中に
   空阿

いねつむと聞夜もかぶる衾哉
   幽嘯

去戌十一月一日出 七月十日随斎よりとゞく

高雄山けさうつくしう時雨けり
   樗堂

十月の鶴を見に行漁村哉
   ゝ

蛤と成りてもお(を)どれ鳴雀
   蕉雨

汐畠に鳥鳴く也春の雨
   有斐

   我に柳のけしきする暮
   士朗

  シナノ
十六夜は暮ぬうちからしづか也
   若人

  キビ
蔓草やはゝき立ても星の空
   閑斎

  下フサ
錦木の夜毎にふへ(え)る蛙哉
   至長

見る程の菫つみ度成にけり
   はまも

蚊の逃る程咲立や蓮の花
   久臧

二人して曲突(かまど)造るや秋の雨
   月船

世につれて花火の玉の大きさよ
   一茶

   舟にめしたる十六夜の月
   鶴老



『笈日記』

水鶏鳴と人のいへばや佐屋泊
   翁

 苗の雫を舟になげ込
   露川

朝風に向ふ合羽を吹立て
   素覧

 追人(手)の先(うち)へ走る生もの
   翁

 翌は檜とかや、谷の老木の言へる事有。きのふは夢と過て、翌はいまだ不来。たゞ生前一樽のたのしみの外に、あす[は]あす[は]といひくらして、終に賢者のそしりをうけぬ。

淋しさや花のあたりの翌檜
   翁

住寺(持)に化た狸煮てくふ
   許六

雇人(やとひど)の半分聞てはや合点
   リ由

 蓮池の主翁又菊をあは(い)す。きのふは竜山の[宴]をひらき、けふは其酒のあまりをすゝめて、狂吟のたはむ(ぶ)れと[な]す。なを(ほ)思ふ、明年誰かすこやかならん[事を]。

いさよひのいづれかけさに残る菊
   翁

風口に来ては寝ころぶ涼哉
   卯七

初花をふれてありくや肴売
   風国

   落柿舎

放かと問るゝ家や冬籠
   去来

猫の子の巾着なぶる涼み哉
   ゝ

塀のかはりに立るわか竹
   支考

折角と近道来ればふみ込で
   風国

一よさに猫も紙子もやけど哉
   丈草

元禄六年十月三日於五老井

けふばかり人もとしよれ初時雨
   翁

市人にいで是うらん笠の雪
   翁

   酒の戸をたゝく鞭の枯梅
   抱月

朝顔に先立母衣を引ずつて
   杜国

 今はとゝせばかりに成ぬらん、越後国の誹諧法師以南といふものありけり。国々あまよひ歩きて、都にしばらく足をやすめける折から、脚気といふ病をなんやみける。させるくるしみは見へ(え)ねど、「ふたゝびもとのやうになりて、古郷に帰らん事おぼつかなき」などより添ふ者のさゝやきけるを、ふと聞つけつゝ、かくありて日をかさね月をへて、見ぐるしき姿を人々に指(ゆびささ)れんも心うしとや思ひけん、ある時、

      天真仏の仰によりて、以南を桂川の流にすつる

   染色の山を印に立おけば我なき迹はいつの昔ぞ

と書て、そこの柳の枝にありしとなん。

   行露公、年々御庭の花を給りける。
   ことしおそかりければ

花を得ん使者の夜道に月を哉
   其角

姉が崎の野夫、忠功孝心をきこしめされて、禄を給はりたる事、世にきこへ(え)侍るを

起てきけ此時鳥市兵衛記
   ゝ

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