文化9年(1812年)10月、長沼の門人魚淵が芭蕉の木槿の句碑を建立したおりの記念集。 |
凡一集を綴るに、撰する句あれば撰者もいらず、撰なきがゆへ(ゑ)に撰者心を尽す。爰に長沼てふ所に風流の長者あり。是や魚淵と呼、とし頃青桃霊神の徳を仰ぐ。今また木槿のはかなきを観じて塚なん造立す。されば千曲の巨流に硯をそそぎ、諸子の翰墨をもとむ。冊なつて寂しみありをかしみ有。風骨おのおの自こもれり。只浮池が心ざし尤深し。また巻中の芳しきも此道の幾世尽せじ事を。 文化九申とし 仲秋
天姥虎杖序
寛政の頃かとよ、筑後国高良山の麓に始て青桃霊神のやしろ定りぬる物から、おのれ其御手洗(みたらし)に漱ぐこと久しく、よりよりそなたへ向て音をのみぞなきける。ことしといふ今年、彼むくげの一句を御霊として、爰の日吉(ひえ)の籬のかたはらに、かたのごとくの石をいとなみ、馬除の柵ゆひ廻し侍る。翁をしたふものはさら也、牛かひわらはに及迄、折ことなかれ、代(伐)ことなかれと、おそれみおそれみぬかづきぬ。 |
不肖さも気の附今や花木槿 | 魚淵 |
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江戸 |
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起々や舌もつれして春の雨 | 成美 |
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杖捨んあとの梅見る栞にも | みち彦 |
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ふんだんに白梅咲よ綱処 | 春蟻 |
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うそ鳴や花の霞の山中に | 巣兆 |
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いたどりを踏折音も花の山 | 双烏 |
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鴛やはつ稲づまの懸るまで | 完来 |
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葛の葉のうらみは尽てぼけの花 | 瓦全 |
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飯田 |
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白芥子や草の戸までは夜の雨 | 蕉雨 |
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武州 |
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夜が明て灯燈(ともしび)ふるき柳かな | 碩布 |
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春風やとくもくさらぬ赤大根 | 春鴻 |
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ヲハリ |
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あらけなき音聞雨の蓮哉 | 士朗 |
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松と竹と冬至の色を見たりけり | 升六 |
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己が世をいかに昼の蚊夜の蠅 | 二柳 |
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ナゴヤ |
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梅が香をやらじと春を垣根哉 | 羅城 |
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ミチノク |
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我丈に余りて淋し女郎花 | 乙二 |
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上毛 |
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花薄月は昼から出てござる | 鷺白 |
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上田 |
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見へ(え)ぬほど都はなれて露曇 | 如毛 |
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寄松年賀 |
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年ごとのためしゆ千代の若緑 | 雲帯 |
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ヨノ |
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水仙や兎の耳も旭影 | 荘丹 |
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サガミ |
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秋あらばいつ迄ももて萩の花 | 葛三 |
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江戸 |
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物着よと子を呼ぶ門や秋の暮 | 午心 |
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青竹の埒にうつらふ螢哉 | 白芹 |
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今夜此山のあるじぶりして |
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更科や月見とゞけて草枕 | 虎杖 |
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時雨るゝやかけし箒の夜のかげ | 武曰 |
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早稲の香や流に赤き梅一葉 | 反古 |
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木工膳の新しき也はるの月 | 雨紅 |
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ユ田中 |
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郭公(ほととぎす)山又山のくらき夜に | 希杖 |
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ヨシダ |
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帰るとてわるびれもせず雁の声 | 何丸 |
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石ムラ |
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豆ほじる鳥が鳴也山茂み | 白斎 |
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釜かけて人まつ霜の一人哉 | 八郎 |
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恋捨し宿なし猫のあれにけり | 虎杖 |
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枯尾花雀つる子の顔をうつ | 大綾 |
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磯近き村や明行桐の花 | 知洞 |
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杉の実を烏の落枯野哉 | 春耕 |
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アサノ |
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霞まで命お(を)しさよ雪の海 | 竜卜 |
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親猫の痩て来にけり芥子の花 | 呂芳 |
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よろづのもの、四季の恵みにやしなはる。是
を生涯にひせば、予齢ひ冬季に至なん。され |
ど春待梅のきほひなきにしもあらねば、草不 |
庵のいざなふに任せて、一句をそゆる。 |
なま中にしぐるゝ空や飛白髪 | 松宇 |
つかつかと雉子行藪や一時雨 | 春甫 |
山菅の実ならぬ儘に時雨けり | 魚淵 |
牡丹餅の来べき空也初時雨 | 一茶 |
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