俳 書
『しぐれ会』(文化7年刊)
六十余くにの霊地仏閣に翁塚をき |
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つくこと、義仲寺の碑記にのする |
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処二百四十四、其余、あけてかそ |
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へかたし。しらぬひのつくしには |
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桃青霊神とあかむ。誠や、祖徳を |
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たふとまさる山かけ島かけもあら |
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し |
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天津風神もほとけも時雨けり | 烏頂 |
松にさくらにふるき十月 | 仙風 |
四来奉納 |
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尾張名古屋 |
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しくれてそいかにも出たる不破月 | 士朗 |
三河 |
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茎漬る軒やしくれの人やとり | 秋挙 |
岡崎 |
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葺やれて蜂の巣に降時雨哉 | 卓池 |
武蔵千住 |
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はせを忌や笑ひあふたる破れ傘 | 巣兆 |
出羽秋田 |
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木枯の中に人ありまつち山 | 野松 |
豊後杵築 |
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枯尾花みたれほつれて折にけり | 菊男 |
女 |
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高声は森の社や夕しくれ | 志宇 |
大坂 |
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明六を一時もきく蒲団哉 | 升六 |
南都にて |
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古寺にそたつ鴉や時雨声 | 雪雄 |
肖像をまつり、香花をさゝけて |
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かき合すうら枯衣袖さむき | 瓦全 |
一座捻香 |
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下総成田 |
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坊か子の螺ふけは行しくれ哉 | 至長 |
平松 |
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捨鐘をふたつ慥に時雨けり | 亜渓 |
祐昌滅后しはらくの空寺を補助し、 |
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ことし仙風を住職になしぬれは、は |
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しめて会式をつとむ。こは祖翁初七 |
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日の俳諧より連綿として、其角か発 |
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句に寄、粟津野ゝ霜の草をけふの影 |
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前に奉るなと、旧例にたかふましき |
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事ともを示すとて |
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三井 |
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枯尾花たゝわたくしの香はなかれ | 千影 |
時雨の会式は、古よりとしとし相続 |
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して、ちかくは蝶夢師こゝろつくし |
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のいさをしありけるとそ。その門に |
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沂風法師・重厚比丘、こゝろをつき |
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て影堂を守り、厚か弟子祐昌坊もま |
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たその跡を継来れと、いつまて草の |
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いつまてもいきとせいけるにはあら |
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ねは、みな仏土の人とはなりけらし。 |
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其あと此四とせはかりのうちはうち |
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絶て住ふ人なきを、三井の麓なる鼓 |
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月居のあるし千影ぬし、志厚くして、 |
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年々月々の俳諧のあるしとなりて怠 |
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りあらさりける。そかなかに、おの |
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れ遠く出羽の州より出きたりて、い |
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かなる因縁にや、ことしの夏のころ |
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より当寺の譲をうけて、けふの会式 |
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をつとむることになりぬ。千影ぬし |
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はもとより、蝶夢師の弟子たり。我 |
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又、鼓月居を師とたのみぬれは、此 |
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寺に蝶夢師の由縁尽すして、おこか |
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ましくも俳諧を相続することの冥加 |
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ありけり |
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鶯の子も啼つゝくしくれかな | 仙風 |