倉田葛三



『春秋稿』(第六篇)

寛政6年(1794年)、葛三は常世田長翠から春秋庵を譲られる。

寛政7年(1795年)、『春秋稿』(第六篇)刊。葛三編。春鴻序。

『春秋稿』(第六篇) 天

つゝ鳥の秋にかゝりて啼に鳬
  下総曾我野 雨塘

ふた夜ほとまへよりゆかし天の川
   信諏訪 素檗

秋の夜や夜はさまさまの高笑ひ
   南部 平角

稲妻に心追はるゝ野風かな
   相中曾我 馬門

いなつまやひきちきりたる苦瓢
   武吹上 喬駟

稲妻や胸うちあはす門のくれ
    星布

ひくらしや盆も過きたる墓の松
   洛 蝶夢

むし啼や心にさふきひとへ帯
  信中二つ柳 武曰

名月やわするるころを風のふく
   江都 成美

君か代や月に箸とるめし白き
   信中戸倉 虎杖

名月や沙にのこりし波の泡
   上毛草津 鷺白

白波をはなるゝ色や秋の月
   武本庄 みつ

雲水の願ひ事せん月ひと夜
   信上田 井々

わたり鳥人むつみなき世なりけり
   信中伊那 伯先

小田の雁雨は夜癖となりにけり
   武本庄 雙烏

露の戸にあはたゝしさや雁の声
   江都 みち彦

原中や一粒雨にかた鶉
   相中大山 宣頂

さゝ原やくらき方より秋の風
   仙台 巣居

関の戸にほのほの見ゆる糸瓜かな
   江都 巣兆

菊の香のあまりて深き葎かな
   甲州藤田 可都里

老の身の作り出したるかゝしかな
   名古屋 士朗

山里や降こらへたる秋の雲
   信中上田 如毛

草山や嵐もたゝすくれの秋
   伊勢原 叙来

八重山や秋ををしめは雪の降
   信軽井沢 何鳥

行秋や月の亀山あらし山
    宗讃

稗苅のくれて狐に喰れ鳬
長翠

十月の誠を降か夜の雨
   武本庄 一馬

風の落葉射る矢に老のたとへあり
   武妻沼 五渡

汲たての水こほしけり水のうへ
  信中善光寺 柳荘

蓍萩(めどはぎ)もかれて波こす江尻哉
   武八幡山 柴雨

こからしや日たら石きる寺の山
   江都 既酔

雪となる雨や朱雀の小灯籠
重厚

そみやすき心をてらす夜の雪
   武八幡山 志考

朝風や雪の難波の橋の数
   信中上田 雲帯

矢をおふて水鳥水をつかむかな
   江都 帰童

はやかへれ麦蒔顔に夕の月
下総曽我野少年 眉尺

しなぬ身の兔なれ角なれ煖鳥
春鴻

うき橋の夢のかしらを鉢たゝき
   大久保 里恭

朔日の節季候に眼のさめてけり
   信中上田 麦二

臘八や先山口の梅の花
春鴻

   梅

夜の酒うめか香たるくはらふ也
宣頂

うめか香や舟へ投こむ薄蒲団
   武飯能 轍之

白うめに虫ひとつなきひとへかな
   仙台 鉄船

鉢のうめまた春浅き匂ひかな
   信中諏方 自徳

夕風や手つよき梅の咲ところ
   信中戸倉 鳥奴

花に入て二日見にけり梅の明
   出羽秋田 渭虹

高過てうくひすなかぬ槻かな
   洛 闌更

凍とけや道をまはりて梅を見す
   越十日町 桃路

黄鳥をいくつも見たり東山
    碩布

梅の中に紅梅多く見ゆるかな
   仙台 白居

夜の明て見れば雨降さくらかな
   出羽秋田 五明

かへる雁ものかりそめに聞やすし
   相中曽我 馬門

寝すに居て暁まつ春の雨夜かな
   信松代 三圭

虫の房や草の古根もはるの雨
   信麻積 鳥峨
     (ママ)
心ある海人の施物やのり二升
   粟津 沂風

江の千鳥柳によらぬ春もあり
   武橋戸 文玉
    (ママ)
くれ行くややしほに赤き春の影
   加賀 斗入

行春の木々にかけはや加茂の水
鹿古

ゆくはるのとりしまりなき干潟哉
春鴻

   四 時 混 雑

雪に出て昼の宿とるひとり哉
   名古屋 臥央

かくれ家や一歩に得たる蚊遣種
   上毛玉村 勇水

『春秋稿』(第六篇) 地

柴の戸やふたり揃ふも茶の袷
   南部 素郷

黒羽椎に日落て声くらし
   世良田 兎月

閑古鳥鳴かた見れは江の柳
   上毛蓮沼 似鳩

灌仏や夜明て夢のあとをひく
    葛三

西行の生れ日はいつ仏生会
   武八王子 喚之

けしいろいろ散にも品もなかりけり
   浪花 二柳

朝風やつと入り来たる扇うり
   奥本宮 冥々

夏の夜の都にたらて明にけり
   名古屋 羅城

蘆橘や日うらに匂ふうつし物
   相伊勢原 叙来

撫子や川原千鳥の走り啼
   武妻沼 角浪

五月雨や根こきに紫蘇を提し
   鎌倉 仙鳥

ゆふ立の人住島にとゝけかし
  上毛世良田 志塩

雲の峰北に見る日そ盛なる
   江戸 帰童

飛鳥の影覚束な雲の峯
  信中戸倉女 鳳秋

粟まくやわすれすの山西にして
   奥白石 乙二



   かたみの草々をこゝにひらふて
この集の回向とす

夜をひと夜思へは長し松の霜
柴居

道の程送りこさるゝ夜の柳
岱路

人の身も夏野の艸もてる日かな
楚明

   みちのく行脚のころ

関の戸や扉破れし秋の風
白雄

たかなみや象潟はむしの藻にすたく

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