倉田葛三
『春秋稿』(第六篇)
『春秋稿』(第六篇) 天 |
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つゝ鳥の秋にかゝりて啼に鳬 | 下総曾我野 | 雨塘 |
ふた夜ほとまへよりゆかし天の川 | 信諏訪 | 素檗 |
秋の夜や夜はさまさまの高笑ひ | 南部 | 平角 |
稲妻に心追はるゝ野風かな | 相中曾我 | 馬門 |
いなつまやひきちきりたる苦瓢 | 武吹上 | 喬駟 |
稲妻や胸うちあはす門のくれ | 星布 |
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ひくらしや盆も過きたる墓の松 | 洛 | 蝶夢 |
むし啼や心にさふきひとへ帯 | 信中二つ柳 | 武曰 |
名月やわするるころを風のふく | 江都 | 成美 |
君か代や月に箸とるめし白き | 信中戸倉 | 虎杖 |
名月や沙にのこりし波の泡 | 上毛草津 | 鷺白 |
白波をはなるゝ色や秋の月 | 武本庄 | みつ |
雲水の願ひ事せん月ひと夜 | 信上田 | 井々 |
わたり鳥人むつみなき世なりけり | 信中伊那 | 伯先 |
小田の雁雨は夜癖となりにけり | 武本庄 | 雙烏 |
露の戸にあはたゝしさや雁の声 | 江都 | みち彦 |
原中や一粒雨にかた鶉 | 相中大山 | 宣頂 |
さゝ原やくらき方より秋の風 | 仙台 | 巣居 |
関の戸にほのほの見ゆる糸瓜かな | 江都 | 巣兆 |
菊の香のあまりて深き葎かな | 甲州藤田 | 可都里 |
老の身の作り出したるかゝしかな | 名古屋 | 士朗 |
山里や降こらへたる秋の雲 | 信中上田 | 如毛 |
草山や嵐もたゝすくれの秋 | 伊勢原 | 叙来 |
八重山や秋ををしめは雪の降 | 信軽井沢 | 何鳥 |
行秋や月の亀山あらし山 | 宗讃 |
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稗苅のくれて狐に喰れ鳬 | 長翠 |
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十月の誠を降か夜の雨 | 武本庄 | 一馬 |
風の落葉射る矢に老のたとへあり | 武妻沼 | 五渡 |
汲たての水こほしけり水のうへ | 信中善光寺 | 柳荘 |
蓍萩(めどはぎ)もかれて波こす江尻哉 | 武八幡山 | 柴雨 |
こからしや日たら石きる寺の山 | 江都 | 既酔 |
雪となる雨や朱雀の小灯籠 | 重厚 |
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そみやすき心をてらす夜の雪 | 武八幡山 | 志考 |
朝風や雪の難波の橋の数 | 信中上田 | 雲帯 |
矢をおふて水鳥水をつかむかな | 江都 | 帰童 |
はやかへれ麦蒔顔に夕の月 | 下総曽我野少年 | 眉尺 |
しなぬ身の兔なれ角なれ煖鳥 | 春鴻 |
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うき橋の夢のかしらを鉢たゝき | 大久保 | 里恭 |
朔日の節季候に眼のさめてけり | 信中上田 | 麦二 |
臘八や先山口の梅の花 | 春鴻 |
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梅 |
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夜の酒うめか香たるくはらふ也 | 宣頂 |
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うめか香や舟へ投こむ薄蒲団 | 武飯能 | 轍之 |
白うめに虫ひとつなきひとへかな | 仙台 | 鉄船 |
鉢のうめまた春浅き匂ひかな | 信中諏方 | 自徳 |
夕風や手つよき梅の咲ところ | 信中戸倉 | 鳥奴 |
花に入て二日見にけり梅の明 | 出羽秋田 | 渭虹 |
高過てうくひすなかぬ槻かな | 洛 | 闌更 |
凍とけや道をまはりて梅を見す | 越十日町 | 桃路 |
黄鳥をいくつも見たり東山 | 碩布 |
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梅の中に紅梅多く見ゆるかな | 仙台 | 白居 |
夜の明て見れば雨降さくらかな | 出羽秋田 | 五明 |
かへる雁ものかりそめに聞やすし | 相中曽我 | 馬門 |
寝すに居て暁まつ春の雨夜かな | 信松代 | 三圭 |
虫の房や草の古根もはるの雨 | 信麻積 | 鳥峨 |
(ママ) |
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心ある海人の施物やのり二升 | 粟津 | 沂風 |
江の千鳥柳によらぬ春もあり | 武橋戸 | 文玉 |
(ママ) |
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くれ行くややしほに赤き春の影 | 加賀 | 斗入 |
行春の木々にかけはや加茂の水 | 鹿古 |
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ゆくはるのとりしまりなき干潟哉 | 春鴻 |
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四 時 混 雑 |
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雪に出て昼の宿とるひとり哉 | 名古屋 | 臥央 |
かくれ家や一歩に得たる蚊遣種 | 上毛玉村 | 勇水 |
『春秋稿』(第六篇) 地 |
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柴の戸やふたり揃ふも茶の袷 | 南部 | 素郷 |
黒羽椎に日落て声くらし | 世良田 | 兎月 |
閑古鳥鳴かた見れは江の柳 | 上毛蓮沼 | 似鳩 |
灌仏や夜明て夢のあとをひく | 葛三 |
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西行の生れ日はいつ仏生会 | 武八王子 | 喚之 |
けしいろいろ散にも品もなかりけり | 浪花 | 二柳 |
朝風やつと入り来たる扇うり | 奥本宮 | 冥々 |
夏の夜の都にたらて明にけり | 名古屋 | 羅城 |
蘆橘や日うらに匂ふうつし物 | 相伊勢原 | 叙来 |
撫子や川原千鳥の走り啼 | 武妻沼 | 角浪 |
五月雨や根こきに紫蘇を提し | 鎌倉 | 仙鳥 |
ゆふ立の人住島にとゝけかし | 上毛世良田 | 志塩 |
雲の峰北に見る日そ盛なる | 江戸 | 帰童 |
飛鳥の影覚束な雲の峯 | 信中戸倉女 | 鳳秋 |
粟まくやわすれすの山西にして | 奥白石 | 乙二 |
かたみの草々をこゝにひらふて |
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この集の回向とす |
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夜をひと夜思へは長し松の霜 | 柴居 |
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道の程送りこさるゝ夜の柳 | 岱路 |
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人の身も夏野の艸もてる日かな | 楚明 |
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みちのく行脚のころ |
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関の戸や扉破れし秋の風 | 白雄 |
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たかなみや象潟はむしの藻にすたく |