常世田長翠

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『黒祢宜』

小蓑庵長翠が本庄の小蓑庵滞在中に刊行。

寛政10年(1798年)9月、自序。建部巣兆跋。

黒祢宜巻之一


かたまるハあすの時雨か月の雲
   双烏

おなしこといふや時雨の唄乞食
   深谷丹風

たらちめに酒ゆるされし夕しくれ
   相中馬門

業平に時雨の歌ハなかりけり
   江戸みち彦

うそつきの虚も尽(き)たる時雨哉
   碩布

十月のまことをふるか夜のあめ
   本庄一馬

   すみよしに参りて

まつ風やしくれてもたゝ神心
白雄

風しツむ尾花か原の霜くもり
   深谷花麿

   四天王寺

霜とくとく布月瓦に朝日さす
白雄

しら雪やわつかに見ゆる海の雲
   丹風

海見ゆる尾上ハ雪のあらしかな
   高田甘井

しのはすも氷(る)か宵の焼豆腐
   江戸宗讃

冬の原夕日のなかめかハりけり
   志考

枯なもみいつまて人にとりつくそ
   秋田五明

傘をかつきあてけりかれ尾華
   涼化

華痩の雨ふる冬木桜かな
   雲水一草

炭の火を月より乞(う)か夜の人
   柴雨

山鳥の尾にあかりさす寒(さ)かな
  カツサハ陵

冬こもり朝の雀にゆふからす
   上田雲帯

   甲州にて

夢山の曇るをしるか啼(く)千鳥
   江戸葛三

峯の月ひそかにさしぬおしの声
   上田如毛

匂ひなき華見ることしひとつ鴦
   草津鷺白

   大くま川にて

水鳥の嘴にかゝれり暮の浪
   白石乙二

槇の戸のしツかさかたれ冬の月
   蝶飛

冬の日の落る硯の面かな
  ヲハリ臥英

(ママ)
   山家にありて

(あかぎれ)や世を足引の山かせき
春鴻

嵐雪かつまのはなしや衣くはり
   南部平角

晨明の月より春ハまたれけり
   江戸巣兆

黒祢宜巻之二



あまの川飛(ひ)こすほとに見ゆる哉
士朗

竹の露星のなミたと疑ひし
   二柳武曰

   筑波山中にやとる

文月やけにけに夜のつくは山
白雄

朝顔の垣や雨ちる四ツ時分
  出流原左丈

朝皃に人のうへとくひしり哉
   相中蛙声

水つきの草華さかてしまひけり
   カゝ鹿古

稲つまのはけしくかゝる枯枝哉
   丈左

草の露松ハ焚き木となりにけり
   闌更

   殺生石にて

露おかぬ石のおもてや埒のうち
白雄

露ちるや朝の心のまきれゆく
   白石乙二

   一郡を那須とよひてすへ野越
   たかりはしめハさゝくりのさゝやか
   にも、はしはみのはしたなくも
   ものことゆかしかりしか、日くれ
   高茅面を覆ひ、道ふミまよひぬ。

野路の鹿道あるかたへしるへせよ
白雄

鹿啼(い)て眼鏡に落しなミた哉
   上田三机

   はやましけ山しけけれと

さハらすも鹿のかけいるはやし哉
   麦二

   顧おもふしら川や故園の情秋なをさひし

関の戸や扇やふれし秋の風
白雄

世の業をはなれてしるや秋の風
  カツサ爪州

   道の辺の柳をけふこそ見るなれ。先のとし
   先師鳥酔行李のかへるさ頌歎の
   あまりに一枝を折(り)て笠の端に挿し
   うつしうえ、今東道鴫立庵の一庭を
   覆ひて往来の人を眠らす。一枝を折し
   罪を風流に換(え)られし楊柳、情ある
   時ハ何そ悔(ゆ)へき。この柳枝、幹
   とゝもにみとりなり。西上人ハむかしにして
   鳥師のおもかけ柳にそふて柳に
   なつかし。

秋の柳おれ口さひしもしや夫
白雄

罔両や月の隣の長ふくへ
  世良田兎月

   望の夜の清光、夜半に京極黄門の
   和歌をうたふ客あり。

松ふくや松しまの月夜半過(き)ぬ
   白雄

   既望ハ雨ふりけるに

いさよふやしらす雄嶋の雨の月
   

雲水の願ひ事せん月ひと夜
   上田井々

   五百重山たちまちあとに
   なるにおとろかれて

樫鳥(かしどり)の声おとすなり最上川
   白雄

万代や山のうへよりけふの月
   士朗

   見かへる礒わツかにへたちておきツ
   しほさゐいとしろかれといたぶる
   波のとゝかさる象潟の閑なるを
   感しつゝ桜かもとに春をし思ひ
   合歓の木かけに其実を拾ふて
   祖翁の顰を倣ふに似たり。是かれ
   秋の日やゝ斜に風景なを一瞬に
   転し仰しツ俯しツ余波ある夕
   なりけり。

たか浪や象潟ハむしの藻にすたく
   白雄

松ハミなこふの老木にきりきりす
 ヲハリ岳輅

   山路の露たのもしく尾花といふ処に
   やとりて

みちのくも出羽もあとよ菊のつゆ

夜の菊ひとり自慢のおこるかな
   甲斐可都里

   やひこ山の紅樹に題す

朝日さす弥彦ハ越の錦かな
白雄

たそかれや見こしの松の薄もミち
 トクラ女鳳秋

   出雲崎ほと近く佐渡の孤洲に
   うちむかひて

佐渡遠く木かくれに渡る鷹もかな
白雄

くろねき巻之三


柴の戸やふたり揃ふて茶のあハせ
   南部素郷

夏川に我かけ寒き麓かな
白雄

みしか夜のいめ人をとふ伏見哉
   妻沼五渡

ひとむらの草よりのほるほたるかな
似鳩

   五智の如来を拝ミて

罌粟ちるや御仏たちの爪はしき
白雄

なてしこや馬も交りてむかひ駕
  八木沼一魚

   駒かへしと呼(ふ)処にて

ひる顔に荷縄をほとく馬足哉
白雄

宵闇やほたされ心牡丹ちる
   伊奈鸞岡

ほたん白くひとむら雨の光哉
   上田井々

   行 黒

暮るほと松ハこミたり不如帰
   飯田蕉雨

濁りしと鵜匠のいへる夜川哉
   嶋村万戸

月もるや水鶏啼(く)夜の膳のうへ
   スハ素檗

   薜蘿(へいら)といふとも、ちきれちきれに
   うちよする潮ハいわほにかゝる海
   草にそおとろかれ侍りぬ。岩間に身を
   ひそむる我人の心轎夫執鞭
   のちからも尽(き)て浪のゆきかひはる
   かにすゝし

みる房や脛にとゝまる親しらす
白雄

   立山をひたり四十八瀬をこ
   ゆる事日に日に

夏川に我かけ寒き麓かな
白雄

   船あかりして

梅若の朝鐘過(き)や燕子華(カキツバタ)
   双烏

石菖のひとり露けき昼間哉
   大坂二柳

青芦のいまを華なる皐月哉
   吹上喬駟

   瑞竜禅寺に詣て

回廊やなまり瓦に青あらし
白雄

駕の簾のぬれたる夏の芒かな
   軽井沢何鳥

風やある月にそむけし栗の花
   松代三圭

   横吹にて

夏山やくたり終(わ)れは船わたし
   乕杖

   大乗禅刹に入りて

夏にこもる御僧いくたり松の風
白雄

   関のあとハ海となりつゝうき州の
   松のあしこ爰に関のあとたもとの言(ひ)捨
   ておのこハ舟に乗(り)けり。

鯖うちの関路を越(へ)る安宅哉
白雄

   長崎丸山を過る

昼見てハ暑ひもの也廓町
  ヲハリ
羅城

   金城の裾をめくる流(れ)に望(み)て

すゝしさや駿馬をひやす朝野川
白雄

   実盛の墓ハ遊行のわたりといへる
   所に礒馴(れ)し松のひとむら生(え)つゝ首洗(ひ)し
   もへたてなき海となりたるなるへし。

篠原の浪すゝしとや白髪首
   白雄

何やらか蚊になるときく水の色
  出流原其風

   閑 居

紫陽花ハ木かくれ住(む)我花か
   秋田五明

夕立の人住(む)山にとゝけかし
  世良田志塩

   御 祓

水無月や日ハしツミ行(く)幣の下
   闌更

くろねき巻之四



   ものわかれ人語はしめておこる

元朝やくらきより人あらハるゝ
暁台

飛とりの冬また春となりにけり
   本宮冥々

ワか草や雉子のかくるゝかけ浅き
   亡人桃路

若草やいツれの花のこむらさきBR>   瓦全

虫の巣の古根にうこく春の草
   ヲミ烏峨

ひとしほの紅魚の味や夕かすみBR>   本庄一馬

江のかすみあらゆる風の吹(い)てのち
  ソカノ雨塘

   田 家

種池へ鷄落(ち)ぬゆふかすミ
   信中柳荘

酒の香のうせこゝろよしうめの風
  出流原其風

白うめに雨後の心のうかミたり
  トクラ可明

日の道のうめに恋する雀かな
  大久保里恭

むめか香や船へなけこむ薄ふとん
   飯能轍士

   酒折宮

御火焼(き)の若きハ何と梅かもと
白雄

   石和川に杖をとゝめて

こりつまや石和川原ののほり簗
白雄

   すみた川にて

人うつす水の心も春なるか
   江戸成美

海苔のよる渚も過(き)ぬ馬のうへ
   白石乙二

草に木にうこく心の春辺かな
  ハリマ玉屑

鹿遠くはやしにかへる二月哉
   戸倉簾雨

雪解(け)や生大根の青かしら
   カゝ馬仏

杖きらんおもふあたりそ春日さす
   江戸帰童

黄鳥に日のいろ若し笹の風
   戸倉鳥奴

   眉の横山まくらに近し

夜の山なかねハ雉子も朧なり
  八王子星布

   江の嶋岩屋にて

はる風や潮に手洗ひ口そゝく
白雄

春風や暮の鐘きく酔(い)こゝろ
   亡人鳥瀾

春の風うめよりふくれはしめたり
   伊那伯先

ぬれ牛に入日さくらのかすかなり
   本庄みつ女

   よしみつ寺にて

朝心木草になれとねかひけり
長翠

旅に出て我世となりぬ弥生山
   重厚

はるの月遅き礼者のおくらるゝ
   大山宣頂

寝のひして夢のあとつく春夜哉
  ミノワ里朝

朧夜やかれし尾華を出(づ)る月
  ソカノ眉尺

門川や猪あけに出る朧月
   亡人柴居

かはツ子の水にうく哉はしる哉
   深谷花麿

やまふきをくゝりぬけたり寺の犬
   榎戸文玉

青麦の志賀のから崎春さりぬ
長翠

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