五柏園丈水

『遠ほととぎす』


文化7年(1810年)、刊。

愛甲郡依知村猿ヶ島(現厚木市)の俳人五柏園丈水の三回忌追善句集。

小簑菴冬瓜坊支兀序。麻山那謨菴主跋。

小簑菴冬瓜坊支兀は瀑布山常保寺十一世住職雪洞玄岩。

麻山那謨菴主は當麻山無量光寺住職他阿南謨。

   御首題をたからかに
   唱へつゝ年若きに千箇寺
   詣のゆくを見侍りて

  古人丈水
ほとゝきす浮世なかをやとりかな

   かゝる句を書て几上に置
   ひと日ふた日を経てささる病
   もなく終焉を告ぬれば
   是に脇を起しもて

はらはら袖に夏の村雨
    半素

   遠く吊ひきこえたるは
   其得たるまゝにしるす

雨勝の夜を含けり芥子の花
   行脚 竹里

   去し睦月五柏の叟、那謨
   菴路の屈曲に杖を曳て
   短冊染られしハはからすも
   寂光無垢の契りならめ、今はた
   かたみと成はてぬれハ脇より
   起りて覚束なくも一筵の
   手向を営にける

   丈水
坂下りて誠の春と覚へたり

うたの筵に鶯も啼け
    他阿



錆もせで鍛冶が屋敷の燕子花
    他阿



   辞世

   丈水
ほとゝきす浮世中をやとり哉



はつ秋といふ斗なる暑哉
    利角



   アゝ其日にやあたりけむ

麦秋の寂しさしむる骨身哉
    支兀

三月もよほとたちけり赤椿
 西孤

醤油の湧夜也けり蜀魄
 呉雪

鶯やなしミの深き松の中
    雉啄

鳴あけていやしけのなき蛙かな
 叙来

いさや旅痩に出はや牡丹咲
    葛三

一声に魚蔵崩しほとゝきす
    星布

鳥遊べ初手の時雨ハ木隠るゝ
    花嬌

あれしきの家も煙るそ鳴く蛙
    雨十

   秋の比奥羽の杖をめくらし
   猿が島に来りて其境に入て先
   翁の安否を問ふに、卯月の末身
   まかりぬと里人の告ける故胸塞
   てことばなし。其門に入て其孝子に
   逢に忍ひす、躊躇して漸々に
   入相対して涙をふるひぬ、あまりに
   愚痴の恥かしきに終に其墳に
   まかりて又時をうつしけるが
   何と哀傷の心をつくす
   べきや

土くさく成まで露をなかめけり
 白老

山鳥の別るゝ迄を舞雲雀
 志ら雄

人の世に多きは花と仏哉
 兀雨

霜の夜の鼠来て踏まくら哉 樗堂

はつ秋の川瀬に立る小笹哉
 士朗

むけに言ふ桔梗かるかや女郎花
 翠兄

我のミ歟跡からも来る雪の人
 雨塘

何人歟神祭るなり花すゝき
 一白

艸まくら覆盆子にあるじ致させう
 恒丸

寐た顔がすぐに仏よ蠅の中
 升入

ありあけを合点て行や生海鼠取
 雄淵

翌からハ朝の間に見む秋の山
 曰人

焼松のミとりを呼歟閑古鳥
 巣居

転ふ露転はぬ露をさそひけり
 冥々

大風の紫苑見て居る垣根哉
 乙二

古草鞋螢とならば隅田川
 一茶

くれくれと柳尋るひとり哉
 素檗

時雨るゝや火鉢の灰も山の形
 巣兆

ふる雨の中にも置や秋の露
 みち彦

竹を見る心と成て春は行
 成美

けし咲やものゝ言よき端の家
 可都里

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