倉田葛三



『頓写のあと』

寛政6年(1794年)10月18日、三浦柴居没。

文化3年(1806年)11月、柴居の十三回忌に『頓写のあと』上梓。十時庵道彦序。

   十月十八日正当日
   当菴脇おこりの誹諧

夜ををひと夜おもへは長し松の霜

もの音さゆるさゝ垣のおく
 葛三



   これも呉竹亭に残りし
      あはれ草なりとて

ちりて見れは月の夜桜ひとへなる

蛙の歌にあこかれし春
 叙来



   春   題をわかず

花なれや散るを常にておもしろき
 叙来

   鎌倉にて

春風のふくやなゝつの切とをし
   上毛
 詠帰

桑の枝させは柳の芽につるゝ
   甲斐
 嵐外

浦の梅桜のやうにさきにけり
   武蔵
 碩布

啼雲雀御嶽に靄のかゝりけり
   信州
 伯先

柳見る人のうしろや馬に賀
 雲帯

はふ程もなくて程ゆく田にしかな
 鳳秋女

駒鳥の朝日につるゝ高音かな
 雨紅女

万歳のへさきにたてり渡し守
   大阪
 一草

山畑や鍬のこけてもかへる雁
 升六

鵙の啼処て鳩の春日かな
   江戸
 しらゝ

家川も氷るときくに今朝の芹
 みち彦

   夏   題をわかず

蓬生や戸の明たては蚊のさはく
   武蔵
 其堂

馬かりて伊香保へゆかんあやめかな
   武蔵
 巣兆

   秋   題をわかず

松宵や心もとなきにはかはれ
   信州
 虎杖

あちさゐの何そといへは秋の風
 三圭

行秋やけふは煙らぬ浅間山
   武蔵
 五翁

ひやひやと月をいれたる木の間かな
 五渡

しくれんとおもふも露の九月かな
 つくも

男には生れたれとも秋のくれ
   房州
 郁賀

九日にも十日にもせよきくの花
   肥後
 対竹

   うやむやの関

ひやひやと見ゆるは秋の葎かな
 長翠

菊を見て年より玉へたつ田ひめ
 乙二

遠くいてかへりし人や稲の花
 葛三

   冬   題をわかず

鼻さきのふたもと榎しくれけり
 l宣頂

大としにおゝきな雪のふりにけり
   尾州
 士朗

煤はきや捨もやられぬものはかり
 如毛

降雪の空には雲もなかりけり
 魯恭

かけろふのこれにいつたつ厚氷
   江戸
 成美

   文化三年霜月上梓

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