石井雨考

『青かげ』(石井雨考編)


文化11年(1814年)、刊。雨考編。多代女序。成美跋。

今以その八重垣を牡丹かな
   等窮

夏の夜の持こたえなし峯の松
   晋流

   高舘懐古

山そひへ川流れけり秋の風
   蓼太

花の心若葉にとけしけしき哉
   白雄

枯芦の日に日にをれて流れけり
   蘭更

寒鳥の日を追込ぬ安多ゝ良根
   暁臺

旅人に野うめ山梅咲にけり
   鉄船

五十年柳くゝらぬ春もなし
   長翠

野路遠しみえ初てよりミゆる花
   白居

橘の実をくふ雪の鼡かな
   重厚

梅をれといふ人うめの長者也
   大江丸

草枕わすれてをれはほとゝきす
   柳荘

冷々と蕣のさく垣ねかな
   士朗

黄鳥も觜あらためよ薺粥
   遲月

木も米もあるうち梅の咲に鳬
   露秀

庚申の月ハ出しよ鉢たゝき
   巣居

あたらしき命となりぬ明の春
   恒丸

すらすらとしら雲過る若葉かな
   桃祖

   此国の今の人々

山寺や焚火うつりの村もみち
   白英

負た子の寐顔に似たり花菫
   多代女

年かくす簑もあれかし花の昏
   雨考

花に風吹ぬ日ハなしすこしつゝ
   冥々

露けしや濃紫の漬なすひ
   井田

百色のきく植る間に昏暮し
   掬明

稲妻やうら明りする生駒山
   如髪

からころと鳫の来る夜の砧かな
   太呂

さゝ小笹夜ハ清水の越るかも
   清女

いろいろの寐皃みえ鳧露の宿
   百非

草のふしをれて轉ふや鷦鷯(みそさざい)
   曰人

きくをみて年より給へ龍田姫
   乙二

限りなき雲のおくより秋の月
   雄渕

撫子のもてきて秋の暑かな
   鷄路

かの草にうち囃されて咲や梅
   平角

十はかり家もミえけりゆふ柳
   素郷

   歌仙

さみたれの瀧ふり埋む水かさかな
   芭蕉

山ほとゝきすやまうつりして
   雨考

  
竹簀戸をひらけハ鄙の市なれや
   多代

たゝまぬ侭(まま)の袴なるらむ
   旧臺



   すか川の俳坊は
   嵯峨野の遍照か

鞍こゝろいかに夏のゝをみなへし
   露沾

沢辺にものゝよしすゝめ飛
   藤躬

むかし翁行脚の比泊々の日記といふ
ものをもたる人ありて写しこしぬ今細
ミちと校合するに多くたかはす筆者
しれかたけれとおほやう曽良かおほへ
書とみゆ其書のうち少々左にうつし
出す

廿一日 
白川中町左五左衛門を尋人(ママ)野半次ヘ

案内して通る白川より四里半矢吹に宿
廿二日 
須賀川乍単斎宿俳あり

 ○案るに乍単斎ハ即等躬なり
廿三日 
同所可仲(ママ)に遊寺へ帰る八まんへ参詣
廿四日 
可仲(ママ)庵に會あり

 ○案るに世の人のみつけぬ花やの句也
廿五日 
同断
廿六日 
同断
廿七日 
せり沢瀧へ行

 ○案るにこの瀧すか川より十町余
廿八日 
同矢吉彦三郎

 中略
五月二日
飯塚に泊る

 ○案るにおくの細道五月朔日とす
三 日 
白石に泊る
四 日 
仙臺国分町大崎庄左衛門
五 日 
同所見物法蓮寺門外嘉右衛門同道泊同人

 ○案るに細ミちに画工嘉右衛門といふもの

  ありいさゝか心あるものと聞てしる人
六 日 
同所になるこのものとし比定かならぬ

名所を考おき侍れはとて一日

案内すと云々
七 日 
同所
八 日 
塩かま
九 日 
松しま

 下略

   諸国文音傳誦之句々
  出羽
世の中の桜咲けり草の庵
   野松
  越后
年よるも久しかり鳧夕かすミ
   幽嘯

月に蚊の見え初にけり泊舟
   竹里

  シナノ
うくひすや諏訪の寒も一拍子
   素檗

月松陰やなくて七癖さつき雨
   蕉雨

隙過てみさためかたし秋の山
   武曰

ほとゝきす去て一おし草の風
   白斎

赤松にくるゝひさしや秋の風
   雲帯

ふち豆に引たふさるゝ萩の花
   若人

夏山やひとりきけんの女良花
   一茶

  カヒ
名月や人の白髪に心つく
   可都里

うめのはな一つみつけて閙しや
   漫々

桃のはな子供とゝもに折に鳬
   嵐外

  ミカハ
夜はなしの戻りにも引鳴子哉
   卓池

鳫帰る夜や行燈を草の上
   秋挙

うめの花たゝしき国の境かな
   岳輅

  サカミ
はるの山拝む佛のおほかりし
   雉啄

舟おりや取はやされて衣更
   葛三

うれしくて恥しきものすミ俵
   洞々

形代にけふこそ流を旅の杖
   素迪

  ヒタチ
待よりも時雨安さよいさり笛
   里石

たゝ居てもくるゝ日成を木のは散
   湖中

  上野
啼ちとり疊の上も冬枯て
   つくも

  上総
閑古鳥啼や其樹も墓しるし
   白老

  アハ
みのかけて田植ちかしや川柳
   杉長

   藤垣の浅芽にしらぬ程の
   こほれて咲そめけるを
  エト
たらて住庵見たてし白すミれ
   みち彦

蚊遣たく家かみゆるそ軒の笠
   はまも

汐干してはなしのやうな月夜哉
   一阿

けふハもう山時鳥とはいはし
   寥松

榛のやミ立ならふほたるかな
   午心

詠めてもみても野にあり秋の月
   完来

とても行年なら春もしかるへし
   星布

人住ぬ嶋もおくあり昏の海
   一峨

さふさふと水も汲れぬ桜かな
   國むら

名月や小嶋の海人の菜つミ舟
   巣兆

みしか夜や橘匂ひ月はさす
   成美

一月寺みえて散出す梨の花
   車両

提灯に菊匂ひけり駿河臺
   素玩

唐迄もなかるゝ花と鴎かな
   諫圃

ひよろひよろと草うつりする清水哉
   久藏

埋火のしつまり口や松の音
   對竹

からしかく鼻から近し雲のミね
   一瓢

橿の木のあるに任せて冬籠
   奇渕

汐尻の泥にひつゝく落葉哉
   一草
  カハチ
木芽にも口うこかすや四十雀
   耒耜
  備中
八重かすみ焼蛤の塩からき
   閑斎
 アキ
蚫とる人も戻りぬ秋の月
   玄蛙
  ヒウカ
松の露千とせの数ハ是はかり
   真彦
 
さみたれを押登る也野路の雲
   月居

雪あられ子にハをしへな鉢叩
   玉屑

朝寒や珍らしく成我からた
   雪雄

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