子日庵一草
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『潮來集』(一艸編)

 寛政元年(1789年)10月12日、也鳧庵一艸が潮来の長勝寺に時雨塚を建立した記念集。

時雨塚


旅人と我名よばれむはつしぐれ

寛政5年(1793年)、刊。

寛政5年(1793年)10月、夏目成美序。

その道をまなび其徳をしたふもの、たまをむかへ神をまつり、昔をこひしのばざるはなし、東奥の一草法師もまたそのひとりにして、つねにおきなの跡をしたひ、千里の逆旅をすみかとす。ひとゝせ、あられふる鹿嶌の浦に杖をひくついで、板びさしいたこのさとにちなむよしありて、しばらく笠をとゞめし頃、その里の何某といふ俳士、「たび人とわが名よばれむ」といふ翁自染のたんざくを年頃ひめもたりしが、さるゆゑありとて法師にうちくれぬ。ほう(ふ)し、これを得ておもふに、此処はそのかみ根本寺ののゆきかひに、翁の衣をぬらされしあともなつかしく、かつこの句のこゝろのわが身にひしひしとあたるやうに尊くかたじけなくおぼえて、ひたすら報恩のおもひをおこし、ひろく同好の輩を勧進してことし此月、その地の長勝精舎にたむ(ん)ざくを塚につきこめ、遺章を石にゑりて百年の霊をまつる。されば、はつしぐれふりにし昔をいまにうつせば、枯野をめぐる心をとゞめて、風雅の神のながく見そなはしたまはむ事をねがふとなり。また諸国の好士の句をひろひ、あるはふみのはしにきこえたるも、ともにあつめて、その名を『いたこしふ』といふは、此地にかゝる因縁ある事を遠近に告む心ざしとかや。

 潮來集巻之一

   懐旧之誹諧(ママ)

旅人と我名呼連んは津時雨

鳥はすみかに籠る冬艸   一草



  歸路に自隼を訪ふとありし
   鹿島紀行の言葉を聞きて
自隼   
塒せよ藁ほす宿の友雀   

秋を込たるくねのさし杉   桃青

月見んと汐ひき登る船留て   曽良

日はあり鐘のちさく聞ゆる   一草



 潮來集巻之二

   冬
 江都
時雨しと浦人申くもりかな   長翠

夜の雨はしめ終をしくれけり   白雄

山はしくれ大根引へく野になりぬ   也有

時雨ねは鳥は寝られて浦の家   一草

   象潟蚶満寺にて
 古人
志くるれは蚶ころひけり石の間   美丸
 古人
三日の月しくるゝ雲になくひ鳬   路丸
 南部
時雨きや篠にこほるゝ蔓さゝけ   扣角
 秋田
振そむる雪や闇より松の形   五明

雪の夜や焼火に動く壁の煤   一草

   上野の旅行に

馬士の家にひかれてきたり雪の暮   存阿
 江都
霜の月山の中里さしおろし   みち彦
 
人を見てまた眠りけり霜の   宗讃
 
木さゝけにいさよふ霜の朝日かな   葛三
 江都
霜の聲閑屋の槌をうらみ哉   巣兆
 鴫立沢
霜の原二人となりてなかめけり   柴居
 下総
龍謄の風にうこきぬ原の霜   雨塘
 江都
簑虫の身のあせもせて歸り花   成美
 
月うつる影かくしけり紙衾   闌更

こからしや二葉吹わる岡の麥   青蘿
 尾張
凩に隣のほしき日暮かな   臥央
 白石
榾の火に影なくなりぬ壁の月   乙二
 南部
桐火桶人來て閑を奪ひたり   素郷
 仙台
打はこそ鳴とこたゆれはち叩   白居

 潮來集巻之三

   夏

十日ほと淡路をさらす時鳥   暁台
 八王子
木懈に雨はこふ音やほとときす   星布
 仙台
しつまりて待や遠音の杜宇   巣居

みしか夜や芒生そう垣のひま   蕪村
 鎌倉女
短夜に稗蒸ひまの夢もかな   仙鳥
 八王子
螢ひとつ秋しる夜半に似たる哉   喚之
 江都
背くゝまり花見て廻る牡丹かな   亀文
 常陸
日の沈む上に月ありかきつはた   翠兄
 
明星に花立すさむ葵かな   丈左
 武吹上
琴うちか宿なる桐も花咲し   喬駟
 上毛
手すさみに作りしさゝけ長きかな   如寉
 大阪
罌粟いろいろ散には品もなかりけり   二柳
 尾張
植て去る山田を鹿の通りけり   士朗

   すこやかにかはゆかりける成美
   小娘のあはたゝしくうせて
   二七日はかりに申つかはす

合歓の夕その子とゝきし枝やそも   みち彦

 古人
火串のみ見へて月なき山の形   輦砂

   みちのおく名取の里に名のみ
   残りし藤中将の墳にて
   西上人のかたみとそ見ると
   詠ける草のほとりに立よりて

たち葉折葉しるしの芒さみたるゝ   一草
 
夕風に流れ咲する花藻哉   百池
武八幡山
白雨や月になる夜の捲すたれ   涼化
 信中
夕たちや山わかれせし鷹二つ   柳荘
 甲府
涼しさやふたゝひむかふ結ひ雲   可都里
 古人
手を伸て老をおとろく蓮かな   來翁
 秋田
かゝる日を花にたもてり夏の草   渭虹

 潮來集巻之四

   秋
 南部
朝かほの夫さへ風に裂れたり   鷄路
 
遠里や稲葉の末の揚燈籠   蝶夢

   鮫洲松原庵にて

むかひ火や上総へむけは月の出   鳥酔

蜘の巣の夕霞淋し羅生門   重厚
 本宮
浅氣生や露の上ゆく図両   冥々
 江都
笈の灯の虫にけされて松の月   菊明
 越後
けふの月見つめてしはし露けり   桃路

   姨山

 童のこよひのさらしなや西上人
 旅寝をしたひまさに祖翁の
 面かけをかなしふ

人かはり月をすかたの秋の山   長翠
 信中
月清しけふの命のやすからて   雲帯
 古人
唯一羽夜さむのからす鳴にけり   西奴
 尾張
物のあはれしれはそ秋の寝覚から   羅城
 江都
遊く雲や狗蓼さそふ秋の水   烏明
 
はつ汐や篝火こゆる都鳥   完來
  (※「篝」=「竹」+「冊)
   高館にて

山そひへ川なかれたり秋の風   蓼太
 下総
利酒のきゝ巡りたり秋のくれ   既酔
 
野菌やくけふりなりけり秋の暮   遲月
 信中
鴫立てのち鴫と知る夕かな   麥二
 近江
三井寺の兒髪そりて後の月   沂風

 潮來集巻之五

   春

萬歳の烏帽子はつれの白髪哉   雨什
 武毛呂
はるさめや家に鼠のふへ安き   碩布
 駿河
はるかせや雲ほし気にそ裸不二   官鼠

小田の蛙鳴尽してやもとの水   平角
 みち彦
梅さくらあゐさくも桃の手から哉   

人恋し灯と母しころを櫻ちる   白雄

 やよひも廿日阿まり巣兆
 千住の栖を訪ひて花の名殘をおしむ
蜂蝶淺草のかね耳をかかして
    日のかたふくまて物かたりす

ゆく春や奥街道を窓のまへ   成美

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