加藤暁台

『熱田三歌仙』(暁台編)


安永4年(1775年)5月、自序。

貞亨はしめのとし桑名に遊ひてあつたにいたる

あそひ来ぬ鰒釣かねて七里迄   芭蕉

旅亭桐葉の主心さし浅からさりけれは暫くとゝまらせんとせし程に

此海に草鞋捨ん笠しくれ   芭蕉

むくも侘しき波のから蠣    桐葉

凩に冬瓜ふらりとふら付て    東藤

尾張の国熱田にまかりける頃人々師走の海みんとて船さしけるに

海暮て鴨の声ほのかに白し   芭蕉

串に鯨をあふる觴    桐葉

二百年我此山に斧とりて   東藤

樫の種まく秋は来にけり   工山



何とはなしに何やら床し菫艸   芭蕉

編笠しきて蛙聴居る    叩端

田螺わる賤の童のあたゝかに    桐葉

公家に宿かす竹の中みち    芭蕉



   神前の茶店にて
  芭蕉
しのふさへ枯て餅買ふ舎り哉

しわひふしたる根深大根   桐葉

   其あした
  芭蕉
馬をさへ詠むる雪のあした哉

木の葉に炭を吹おこす鉢   閑水

はたはたと機織音の名乗来て   東藤



   翁みの路へうち越んと聞えけれは
  桐葉
檜笠雪をいのちの舎りかな

稿一つかね足つゝみゆく   芭蕉

みしふくありし御やしろにふたゝひまうてゝ
  芭蕉
磨直す鏡も清し雪の花

石しく庭の寒きあかつき   桐葉

   みやこにあそひて題秋風子の梅林
  芭蕉
梅白しきのふや鶴を盗れし
   
杉菜に身する牛二つ馬一つ   秋風

   山家
  芭蕉
樫の木の花に構ハぬ姿かな

家する土をはこふもろつは   秋風

   旅店即興

つゝし生て其陰に干鱈裂女   同

   二十年を経て古友に逢ふ

命二つ中に活たる桜かな   芭蕉

   桑名にて

雪薄し白魚白きこと一寸   芭蕉

   木曽を経て武の深川へくたるとて

思ひ出す木曽や四月の桜かり   同

京の杖つく岨の青麦   東藤

   笠寺にて

笠寺やもらぬ窟も春の雨   芭蕉



月雪の夜をあらそへる風情かな   士朗

寒そらやたゝ暁のみねの松   暁台
  仙台
後の月翌日は秋なき思ひあり   丈芝坊

水に添ふて流るゝ春のこゝろ哉   臥央
  奥浅香
世の田植なくさみに見る物ならす   露秀

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