中村伯先

『葛の葉表』


 天明5年(1785年)、中村伯先は芭蕉の句碑を建立。加舎白雄書。

 天明6年(1786年)、記念集『葛の葉表』(伯先編)刊。自序。白雄跋。

昭和56年(1981) 年)、芭蕉の句碑を復元。



葛の葉のおもて見せけり今朝の霜



 祖翁逝(き)ぬ。年それ去(に)ぬ。いづれの人か其風骨にすさむ。祖翁とは芭蕉の翁になむ。茲に吾師白雄は能翁の風骨をまもる。されば杖を奥の細道にしたひ、笠を生の松原に懸、わが輩を引のゆふべは、酒を雪の夜の美談に甘じ、茶を古池の清波に濯ぎて、遙に元禄の岸に津梁せらるるものすくなからず。駒岳下にだも誰渠(かれ)々の二、三子は既(に)竜門にのぼるのやからなり。吾亦好事の時に逢て、今まさに一片の碑をものし、古松の下に露くちざらん事を冀(こひねが)ふ。しるせしは則翁の吟也。此彼かの二、三子が芝蘭に薫じて、終に翁をかたじけなうするのおもひあまれる也けり。故に此一小冊、遠近の名だゝる人の言艸を乞ひ、はた師が淘汰を経たるをひろひ、纂(あつめ)てなん成ぬ。果すの日は、天明六のとし、翁の双忌、さちなるかな。自今此地周遊の客、碑前の葛葉にする墨の香をかならずたぶけたまえかし。二、三子の願ひ足りとせむ。翁又善とせざらんや。これがための弁語、おぼつかなくも時雨降る桑枢のうちに念香して、伯先毫をとる。



葛の葉のおもて見せけり今朝の霜
芭蕉翁

 霜そのまゝに葛の葉表
 伯先



   四季混雑

葛の葉は昼を寐る鹿の枕哉
 白雄

ふる道や真葛に起る夏の雲
   相中
 春鴻

白鷹の葛かいつかむ嵐かな
 伯先

裏表露置かはる葛葉哉
  武吹上
 橋駟

葛原や蔓ともならで女部志(おみなへし)
   仙台
 みち彦

こがらしや葛を帯たる松おれし
北総曾我野
 眉尺

行秋の真葛刈入(る)端山哉
  信戸倉
 簾雨

葛萌て油煙ながるゝ夜燈哉
   
 可明

幻や真葛が中に人の音
  ゝ箕輪
 里朝

馬道や蹴あげの葛の裏表
 ゝ巴雪改
 三暁

楢鉤橦風落て葛に吹纏ふ
 ゝミノハ
 菊児

露は霜と降かはる葛の葉毎哉
   江都
 呉水

   春の部

梅に月月を裏なる夜也けり
   尾州
 暁台

梅咲て歩人過る木幡かな
   平安
 臥央

吹いるゝ梅を栞や宇治拾遺
 武八王子
 星布

春の月かづら男のねぶりかな
  信上田
 雨石

野の末や月に焚火の朧なる
 ゝ軽井沢
 何鳥

庵木には倦ともあかぬ柳哉
   甲州
 敲氷

薄すみれ艸かや姫のこもるらし
 武八王子
 喚之

山寺や児も小沙弥もこのめつむ
 信伊那部
 鸞岡

舞ひばり子をおもはずば夜に入ん
 麦二

菴に落る椿の音を聞くらす
甲さし出の磯
 石牙

長閑さやさはれば開く片折戸
 いせ松板
 滄波

こちらむけいつか落たる鹿の角
 相中大山
 大梁

桃の宴日につぐ夜のたてあかし
   江都
 柴居

夜ざくらや世にあるものゝむかい駕
 古慊

見つゝ桜もとのひとへに酒くまん
 南総粟生
 ハ陵

夜の花たが魂凝て山彦なす
  信上田
 如毛

菴かりてものかゝばやなさくらがり
信イナリ山
 卜胤

薄みのにさくらちる日ぞ面白き
  武飯能
 轍之

   夏の部

ふし見の夜急に更たり時鳥
   
 几董

降や雨真すゞが原の蜀天子
  信戸倉
 丈馬

蜀帝魂晦日にちかき月もみつ
 三机

時鳥聞て寐ぬ夜をかぞへけり
  信諏方
 自徳

捫たる虱はなしつほとゝぎす
 奥州完宮
 冥々

はまかげやわか葉に偸む水の音
   浪花
 二柳

葉桜に鵯こもる深山かな
 近江粟津
 沂風

夏書くせん弦なき琴の裏おもて
 奥州白石
 乙二

むすぶ手に石菖匂ふながれ哉
   
 蝶夢

さみだれや蔀吹入る松葉のけぶり
 上毛蓮沼
 似鳩

こほり売額汗してはしるなり
   
 重厚

   秋の部

いなづまやとゞまるところ人のうへ
 白雄

   わが句をわれと和して

世ははかな電光石火酒くまん
おなじく

朝明や露におしなむ村芒
 奥州郡山
 露秀

おとろひや衣にとまる秋の蝶
 奥州松島
 白居

老の秋蝶つくづくとながめけり
  信郷原
 露白

日に啼はちかき命か蟋蟀
 みち彦

狩のあと嘸(さぞ)かた鶉暮を啼
 相中大山
 宣頂

鵙なくや丘ぬるでに夕日さ
   上毛
 素輪

 題月

秋の夜の明てもしばし月夜哉
   尾府
 士朗

露ごとに月やどる夜の光哉
   浪速
 旧国

名月の雲に吠るや山の犬
   江都
 成美

   八月二十四日太宰府にまいりて

(ふえのね)に秋の声哉宮うつし
 加賀亡人
 一菊

落栗の籬にいりしひとつ哉
  武毛呂
 碩布

鹿啼てながめられけり夜の山
   
 瓦全

目もあやにてりうづまれし紅楓哉
   イセ
 宗居

   冬の部

松葉焚て掛菜あむ家のくらき哉
 宣頂

水鳥に鳥のむしり毛流けり
 江戸亡人
 百明

冬の夜や日がへりに行馬のかゆ
   東武
 烏明

みな塵ぞ雪に対しておもふ事
   江都
 蓼太

雪降や馬士の袖する馬のつら
   
 闌更

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