知足坊一瓢
『物見塚記』(一瓢編)
夏ちかの誰も柱によりやすし | 成美 |
時雨たらしぐれた儘よ丹波山 | 一峨 |
亡人 |
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ゆくとしや大盃の手もとより | 浙江 |
曲りこむ藪の綾瀬や行螢 | 巣兆 |
山ぶきや蟹やく家を中にして | 一阿 |
起ふしや我ものとては露の玉 | 諫圃 |
人聲や藪の中より銀河 | 國村 |
はつ月ハ蕣ほどのひかりかな | 久藏 |
知足坊のミやびにまねかれまゐらせて |
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炭ぞくぞく水も秋すむ苔のうへ | 道彦 |
名月やはれての後の氣くたびれ | 午心 |
燒野とハたゞ四五日の名なりけり | 碩布 |
あるほどの鹿だまらせて霜の空 | 車兩 |
立臼に來てあたゝまれミそさゞい | 可良久 |
裏關や蚊遣にも經る松の年 | 護物 |
鶯の聲やちからを入ずして | 春蟻 |
山をぬくちから隱して春の水 | 宗瑞 |
門守が大工ぶりする雪解かな | 五渡 |
花の山守とおもはゞ住侘ん | 完來 |
とりあつめても夕暮よ秋の艸 | 寥松 |
身のうへの鐘としりつゝ夕すゞみ | 一茶 |
甲斐國信玄の舊跡にて |
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行脚 |
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菊ハミな野ぎくと成て日の細き | 幽嘯 |
夕空や紫苑にかゝる山の影 | 閑齋 |
四月廿八日於随齋亭 |
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過行や袷着やうとおもふうち | 一瓢 |
庭は蓼つむ藪となりけり | 成美 |
山 城 |
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きさらぎや老が世となる雲と水 | 瓦全 |
ちかづきのやうなり春の朝朗 | 丈左 |
荻に來る風方角もなかりけり | 月居 |
攝 津 |
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鷄の喰ほどこぼせ若菜賣 | 尺艾 |
あらあらと雨のうちこむ清水かな | 奇淵 |
我菊は撓めぬほどの詠かな | 八千坊 |
鶯とふたり前つむ若菜かな | 一草 |
鷄ばかり起てゐるなり霜の家 | 三津人 |
ちとの間も晝ではおらず草の秋 | 升六 |
河 内 |
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すゞしさの穴があく也軒の樫 | 耒耜 |
尾 張 |
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時雨をながめくらしつけふの月 | 士朗 |
手の皺をさする花見の宵寢哉 | 桂五 |
世の人をみどり子にしてけふの月 | 岳輅 |
三 河 |
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名月をはれに山家の祭かな | 卓池 |
ものかげを見ても啼たつ巣鳥哉 | 秋擧 |
甲 斐 |
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一錢の茶にうつりけり八重櫻 | 可都里 |
ちりつきてよい日になるやけし畠 | 漫々 |
風になほ有明のあはれなり | 蟹守 |
爐にひとり頓て十夜の鐘のこゑ | 嵐外 |
相 模 |
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川やしろとかうする間にこぼちけり | 葛三 |
枯ぎくの焚るゝゆふべしぐれけり | 來之 |
旅人と見へるか花の尻からげ | 雉啄 |
下 總 |
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ぶつつけたやうに下るや霜の鳥 | 雨塘 |
ねぶるさへはしたはしたや秋の風 | 双樹 |
亡人 |
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松風に出て吹せばや蚤の跡 | 恒丸 |
淺茅生や寐れバ寒さにかち申 | 兄直 |
踊れ踊れ聟になるまで月夜まで | 鶴老 |
かたしろにけふこそ流せ旅の杖 | 素迪 |
いざよひさらしなのたぐひにハあらねど |
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亡人 |
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三日雨四日晴天ほとゝぎす | 寂阿 |
涼風や生れながらの螽飛 | 一叟 |
安 房 |
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親の夢旅寝の盆もしてとりぬ | 杉長 |
汁の實にむしり込たし梅のはな | 郁賀 |
常 陸 |
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膳だての箸ころげしも花の春 | 翠兄 |
たゞ居ても暮る日なるを木葉散 | 湖中 |
信 濃 |
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今朝喰へバはや夢に見る若菜哉 | 素檗 |
陽炎やきのふすげたる木履の緒 | 雲帶 |
はなの香にまけて静まる夜汐かな | 武曰 |
山の春行水よりも春遅し | 虎杖 |
心を師とすることなかれとハいへど |
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ものに惓ひとのこゝろも長閑なり | 如毛 |
米河岸のかた隅もつやけしの花 | 湖光 |
山ざとは罪なき月の見やう哉 | 蕉雨 |
近 江 |
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けふの日を菊ハ忘れず八重葎 | 志宇 |
五月四日於雪耕庵 |
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夕暮や蚊が啼出してうつくしき | 一茶 |
すゞしいものは赤いてうちん | 一瓢 |
陸 奥 |
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すゞしさや願のいとの吹たまる | 乙二 |
たゞ居れば螢に袖をかられけり | 冥々 |
あさがほの遠山いろに咲にけり | 巣居 |
銀河秋一すぢの夜のけしき | 雄淵 |
青柳のさく枝つかむ雀かな | 曰人 |
草の戸や逃かくれても秋の暮 | 百非 |
老けりな花見るまでを人まかせ | 雨考 |
白うるりとは何物をいふにや |
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しら露やへちまの蔓のばからしい | 素郷 |
なでしこのもて來て秋のあつさかな | 鷄路 |
出 羽 |
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秋の風ゆくへは星の林かな | 長翠 |
三日月をおどろかしたる時雨かな | 野松 |
越 後 |
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木がらしに大根のからみうつしけり | 竹里 |
播 磨 |
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藝あれバ猿も正月小袖かな | 玉屑 |
安 藝 |
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追ずともたつべき物を麥の雁 | 玄蛙 |
伊 豫 |
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水うつや掃や植たる竹のもと | 樗堂 |
肥 後 |
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紙燭して垣のうの花くらうすな | 對竹 |
肥 前 |
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さしもなきものゝちる也柿の花 | 祥禾 |
若き人と同じく飛鳥山の虫聞てか |
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へるさ、物見塚にやどりける夜、 |
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主人一もとの草花をもてなされた |
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るに、人々杯と共に膝の上をめぐ |
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らしける。 |
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走り咲萩やぽつちり灯がともる | 一瓢 |
寐るも起るも相住の月 | 成美 |
露の降船に小舟のすりぬけて | 久藏 |
鳶なきふるす椎のたちがれ | 諫圃 |
草菴四時 |
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小ばたけを雉とふたりの春邊かな | 一瓢 |
朝めしに思案もいらずけしの花 |
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夕月ハ何處にもあれど草の門 |
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おちばしてなほ捨がたし赤疊 |
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埋火のそれから次は極樂か |