建部巣兆

indexにもどる

巣兆の句

霜の聲閑屋の槌をうらみ哉


かへるさに松風きゝぬ花の山


関の戸にほのほの見ゆる糸瓜かな


我宿ハさくら紅葉のひと木哉


しはしとて袴おしぬくこたつ哉


芹生にてせり田持ちたし春の雨

あたら菊をつますは花に笑れん


晨明の月より春ハまたれけり


芹生にて芹田もちたし春の雨


夏の菊皆露かげに咲にけり


ひたひたと田にはしりこむ清水かな


いくとせも花に風ふく桜かな


鶯の屋根から下る畠哉

『享和句帖』(享和3年5月)

柞原薪こるなり秋の暮

帆かけ舟朝から見えてはなの山


とくとくの水より青き若葉哉



いくとせも花に風吹櫻かな


さお姫の野道にたてる小はたかな


馬かりて伊香保へゆかんあやめかな


煤竹もたわめば雪の雀かな


   みかさと申宮城野に遊て

木の下やいかさまこゝは蝉ところ


高ミから見ればはたらく案山子哉


稲かけし老木の数や帰花


花桶もいたゝきなれし清水哉


あし鴨の寝るより外はなかるべし


大竹に珠数ひつかけし時雨かな


啼け聞ふ木曽の檜笠で時鳥


湯車の米にもなれて今朝の秋


冬枯のなつかしき名や蓮台野


時雨るゝや火鉢の灰も山の形


涼むなりかねつき坊が青むしろ


爺婆ゝの有がたくなる木葉哉


こそこそと夜舟にほどく粽かな


はせを忌や笑ひあふたる破れ傘


曲りこむ藪の綾瀬や行螢


古郷やとうふ屋出来て春雨

時鳥まだ見に来ずや角田川


舟曳や五人見事に梅を嗅


遠くから見てもおかれぬ桜かな

二年子の大根の原やなく雲雀


はつ河豚や無尽取たるもどり足


ほし葉(ママ)釣壁をたゝけはかさかさと


手拭で狐つらふ(う)ぞ花の山


蓮の根の穴から寒し彼岸過


うそ鳴や花の霞の山中に


梵論の行ふもとしづかに落葉哉


名月や小嶋の海人の菜つミ舟


谷へはく箒の先やほとゝぎす


見し人の鍋かいて居る清水哉


御寝ならば裾になりなん嶺の月

訪るゝも訪ふも狭筵月一夜


朝露や鶴のふみこむ藤ばかま


春は猶曙に来る片鶉


菜の花や染て見たひは不二の山


萩咲て夫婦のこことかくれけり


芦鴨の寝るより外はなかるへし


時鳥まだ見に来ずやすみだ川

酒のみをみしるや雪の都鳥


建部巣兆に戻る