宮本虎杖

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『つきよほとけ』

享和元年(1801年)8月、『つきよほとけ』伯先跋。

虎杖序。さがみの春鴻跋。

寛政12年(1800年)8月、長楽寺に加舎白雄の句碑を建立した記念集。



白雄居士之遺趾

姨捨や月をむかしのかゞミなる   白雄

薄紅葉旅さする子ハもたぬなり
   相中春鴻

我宿の珍らしうなる夜寒かな
   みち彦

芦の穂にさすと見る間に入日かな
   春蟻

どの家も庭よりつゞくやまの月
   上毛泳帰

行秋もひと夜となりぬしのぶくさ
   奥州冥々

かさなれハ同じ艸なり萩すゝき
   鹿古

名月は芒の影をくもりかな
   一草

むさし野ハまた青草に秋の月
   丈左

ひぐらしやぼさつの米をあけに来る
   武州喬駟

三日月や人のおり来る軒の山
   如毛

世ハうれし誠の多き秋の月
   三圭

産湯の窓をあけばや八重むぐら   素檗

赤菊やむざんにあびし背戸の雨   魚淵

降出す雨ハともあれ鹿の声
   魯恭

露の萍(うき)菴のあハれにならびけり
   伯先

名月やこと葉つゝしむ夜の人
   東都成美

人のうへにながめられけり女郎花
   三河卓池

此今宵見るにあまりて船の月
   播磨玉屑

   冬

水鳥の何をよろこぶあさぼらけ
   武州碩布

凍蝶のきふを侘る籬かな
   相中宣頂

山遠くなるのミにしてはつしぐれ
   馬門

軒の山時雨逼(せまつ)てくれにけり
   信州麦二

原中やこゝに埋まハ雪ほとけ
   亡人雨石

炭継もこゝろの花のひとつかな
   井々

霜の朝腹にこたゆる木魚かな
   加州馬仏

いつの間に梅となりしぞ軒の雪
   敲氷

降雪や夜汐のあとのくらまきれ
   信州柳荘

渋柿に烏のさハぐしぐれかな
   武曰

霜の戸に焚もつくさぬむくらかな
   超悟

   春

春ことの梅おろそかに植ハせぬ
   下總雨塘

うとからぬ鷹匠ひとり藪の梅
   滄波

三日月のはや大事なり梅の花
   甲州可都里

宵の雨葉になる梅の二月かな
   平角

春雨や我にほうけしふきの台
   喚之

鶯の声よくなりて老ちかし
   支兀

松風に行あたりけり春の月
   鸞岡

蓬莱の門から見ゆる山家かな
   蕉雨

長閑さや何にあそぶも花こゝろ
   雨紅

散花のあたりはなれぬ月夜かな
   長翠

白魚や走てちきらんものハこれ
   出羽五明

青柳にゆられて青き月夜かな
斗入

はつ午の日ハ紅梅にくれにけり
兀雨

はつ烏我死ときハ何と啼
   近江重厚

ちれバとて花や塵とハ申されづ
   信州鉄舟

ちひちひと花散風のなき日かな
   自徳

雨を待鳥の羽いろや春の草
   素月

   友ハ樽裡の酒客ハ醉中の歌

春の山鳥の名ハあれなかれ
   鳥奴

   夏

蚊屋に蚊の入るや汝に命をこふ
   武州星布

ひたひたと田にはしりこむ清水かな
   巣兆

菴涼し四隅にかよふ松のかぜ
   鷺白

柴の戸や寝ねバなをなを明やすき
   葛三

短夜の満月かゝる端山かな
   奥州乙二

夏山の水の香りに何か似ん
里朝

流れ行螢をすくふはゝきかな
   少年八郎

わか葉山たゞたゞ道のたよりかな
   鳳秋

夏霞伊奈の山の辺はてもなし
   虎杖

   追加 四季混雑

壁つちにながれ込たる雪舞かな
   下總眉尺

霜のわかれつまミてしげり草の原
   双烏

月をむかしのかゞみなる、姨すてやまや更級川や、うへもなくかなしきところに。白雄の翁のいしふミをして、われひとをなかしむるとなり。これ虎杖庵のあるじが、信じつとめたるの膽情なり鳬。幸ひに花の匂ひをうつしとゞめて、ひとつのしうをあめり。すなハち、つきよほとけとよぶ、まことに月をむかしの鏡なる哉。南無月夜仏と回向申して、ますます清光をあふぐものハ

さがみの春鴻

我信ず、白雄先師は頗る英傑の士なり。独り正調を吟詠し、悉く其古きを改む。是に於て名声籍甚、国花者の兆形と謂う所、又我儕の幸なり。弟子蓋し四千名、世に知らるゝ者二百余人。虎杖は其長也。其徒又少なからず。

享和辛酉秋八月 吉川元茂伯先

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