年尾句碑


年尾の句

『年尾句集』 ・ 『句 帖』

『句日記』(第一巻)(第二巻)(第三巻)(第四巻)

昭和43年

   三月十日 緑樹会 神戸生田神社

六甲の嶺をはなれ星冴えかへり

早春の三寒四温なほつゞき

天井は消して残りし雛の燭

   三月十五日 姫路ホトトギス会 書写山円教寺

枯蔓をおどろに山の木々の春

奥の院迄の岨みち雪解くる

かしぎたる式部歌塚雪解風

   三月二十一日 ホトトギス吟行会 伊香保温泉福一旅館

たゞ寒し春の凍湖にほとりして

二三ならず春の凍湖の氷下魚釣

春山が凍湖をかこみ春いまだ

   三月三十一日、ホトトギス吟行会 埼玉川口グリー
   ンセンター

木の芽立ち細やかに枝細やかに

残り鴨汀の土をせせりもす

   六月十日 虚子句碑除幕 原鶴小野屋

梅雨晴の九十九峰はよき嶺々

よべ雨の鵜川は出水にごりして

梅雨晴や温泉宿の昼の客なき時

   六月二十三日 ホトトギス吟行会 三浦三崎

灯台は夏草茂る丘の上

ちやつきらこ我等が為にも夏も舞ふ

汐焼けし女がうたふちやつきらこ

   六月二十五日 山口青邨喜寿祝賀草樹会 学士会館

喜寿翁へ朱の薔薇捧ぐふさはしや

   同日 小倉城十周年記念句会 小倉城

枯蓮水漬くばかりや城小春

   十月十九日 埼玉ホトトギス会 秩父三峰山

秩父路の末枯葛と桑畑

いつときに曇り来深山秋深し

ひとところだけの紅葉を映すダム

空稲架の竿のしづかに日を返す

栞りたる紅葉一枚句に遊ぶ

   十月二十七日 松山「柿」俳句会 松山護国神社御幸会館

温泉の宿の裏の刈田の乱れ稲架

落葉焚き捨てあり鵙のたける宮

   十一月二十二日 扇崎秀薗師と伊予鹿島に遊ぶ 太山寺

岩に生ひ荒地野菊は枯るゝまゝ

冬もみぢひそかに盛り過ぎにけり

   十一月二十三日 子規顕彰会俳句大会 松山農協会館

城山をすぐそこに見て冬霞

温泉の宿の裏百姓家柿の秋

   十二月七日 高松城吟行 合田丁字路他十数名と共に

汐入りの城濠もまた小春風

城址小春松手入など捗りて

枯芝の広き桜の馬場といふ

潮錆びてめぐる城趾や小六月

   十二月八日 琴平ホトトギス会 琴平さくら屋

夜中起きして一と仕事露の宿

葉牡丹を自ら育て冬籠

柿のへた残る枯枝のてりかげり

昭和44年

   二月三日 増上寺節分会

年男年女とて皆老いて

福枡を山と積みたり弥陀の前

大導師盲なりしよ節分会

   三月十日 緑樹会 神戸生田神社

六甲の嶺をはなれ星冴えかへり

早春の三寒四温なほつゞき

天井は消して残りし雛の燭

   三月十二日 清交吟社吟行 京都西本願寺飛雲閣

大寺のどの部屋もみな隙間風

睡蓮の古葉に添うて生ひそめし

水草生ふ水面を雨の叩くなり

冴返るひとしほ京の春の雨

   五月十日 観音崎燈台、虚子、橙青句碑除幕 燈
   台官舎下ヒュッテ会場

燈台の径行くみんな夏姿

初夏の日の更に照り映え句碑除幕

   九月十五日 西国観音札所探勝吟行会第一回 書写山
   円教寺、信徒会館

書写山に残暑の汗を拭きあへず

山坊の蝉の真昼に来て憩ふ

法師蝉こぞり鳴くなり法の山

   九月二十七日 二十二日に長谷川かな女死去の報、門
   司岡崎旅館にて知る。その葬儀に参列 浦和円蔵寺

旅先に聞く訃はかなし秋の風

   十一月八日 仙台へ、松島観光ホテル

みちのくへ紅葉の旅となりにけり

   十一月九日 松島芭蕉祭 瑞巌寺本堂、振興会館

松島の冬凪ヨット数多浮き

冬凪の島めぐりして満足す

   十一月二十二日 松山「柿」有志会 高浜、太山寺

色映えて晩手蜜柑の小春かな

冬も鵙よく鳴いて居り太山寺

櫨紅葉散り敷く葉裏色ちがふ

   十一月二十三日 松山市主催、子規顕彰第四回大会
   道後公会堂

冬日和かく集ひ来て道後の湯

   十二月一日 高崎成田山虚子句碑十周年記念句会 成
   田山光徳寺

武蔵野の櫟もみぢは冬も濃し

桑括る藁新しく日の当る

銀杏散り尽して梢の冬芽はや

いと古りし御殿火鉢に火を熾ん

昭和45年

   一月四日 坂東観音巡り 杉本寺、安養院、長谷寺
   巡り、原の台虚子庵

鎌倉の観音巡り時雨つゝ

春近き長谷観音の冬椿

鳩どもに春近き長谷観世音

   四月十三日 西国札所巡り 京都 ホテル東園

春風や子安の塔をまなかひに

どこ訪ふも拝覧料や京の春

   五月十六日 紀州那智行 西国観音巡り

礁辺は卯波寄すなる沖がすみ

卯波寄す礁だたみの外れかな

大滝に仕ふる気持あり拝す

   五月十七日 年尾句碑除幕 那智神社

宿院の朝霧の中滝遠音

   六月二十二日 石狩河口に遊び、午後帰京

目まとひに立つて居られず歩くのみ

はまなすを庭木としたり浜館

   七月六日 高知へ 紀貫之邸址国分寺 三重史居

槇一と木句碑に添ひ立ち青田風

日盛りの墓訪ふことも旅の暇

来べかりし牡丹の頃を失ひし

   七月九日 西国観音巡り 紀三井寺本坊

海苔舟の休めり汐入川の夏

大小の蝶緑蔭をかけめぐる

緑蔭の涼しけれども蚊に刺され

蟻落ちて来る緑蔭でありにけり

   十月八日 島原への雲仙丸船中

舳の先に雲仙が乗り秋の潮

一日は船にも乗りて旅の秋

   原城址へ廻る

古城址の水も豊かに豊の秋

からいもといふ島原の甘藷畑

古老来て城址の話返り花

   十月十九日 坂東札所巡り 十六番水沢寺

晩秋の桑黝みてみどり無し

降りやまぬ欅落葉や堂の秋

紅葉映えするほどもなき枝の先

   十二月十二日 関西札所巡拝、藤井寺、葛井寺

鵯こもり鳴きて河内野寺多し

僧語る寺の縁起も年の瀬や

冬ざれやはせいせとある道しるべ

御秘仏冬ざれ在す頬のあたり

   十二月十三日 関西ホトトギス同人会 京都法然院

雪嶺をいくつも越えし旅なりし

院庭の冬紅葉こそ今日の景

昭和46年

   一月四日 那智大滝を拝し勝浦を午後二時の列車で帰宅

枯滝にして拝まるゝ那智の冬

   同日 有志で塩原温泉へ 福渡戸和泉屋

雪残る山を見上げて峡の温泉へ

これよりの楓芽立ち如何ならん

   三月二十八日 坂東札所巡り 滑川観音

気がついて土筆いよいよ多かりし

   三月二十九日 同前 銚子観音清水観音をめぐる

初花と見極めしこと誰も彼も

本堂の前に池古り目高棲む

   同日 ホトトギス同人会 北条市鹿島国民宿舎

春潮に遊船とばし島めぐる

鈴の音や遍路の磴を登る時

   四月二十日 宇和町より久万を経て高知へ 四十四番
   札所大宝寺

紅枝垂ざくら札所の春進む

行春を親み話す修道女

   六月十九日 小樽より中山峠を越え、一たんニセコをFONT size="4">
   通り洞爺湖へ 万世閣

新緑のわき立つ姿蝦夷に見る

蝦夷の夏耕馬をなほも使ひをり

   六月二十日 洞爺湖畔より室蘭へ 昭和新山を見、
   球岬吟行 室蘭市文化センター四階

火の山に登る軽装蝦夷の夏

室蘭は丘陵の都市青葉燃え

   七月六日 西国巡礼 奈良興福寺南円堂 柳の茶屋

梅雨あけの炎暑の砂利に蟻遊ぶ

冷房に居て夏料理なりしかな

夕立の来るらしき雲鹿反芻(はんすう)

一輪の未央柳を茶室なり

   九月十六日 坂東札所巡り 日光中禅寺

日光の杉竝木行き秋涼し

湖へ吹かれとびたる秋の蝶

男体山の裾に秋の湖平らかに

一枝にのみ早紅葉の走りをり

   十月二十四日 虚子年男句碑除幕 犀川畔鰐甚

川霧の或は句碑を包む日も

時雨るゝか否やは知らず加賀日和

   十一月十九日 坂東札所巡り 第三十番高蔵寺、第三
   十三番那古寺

蜜柑生る裏山控へ札所寺

那古寺は南房札所小春凪

寺打ちて帰路は海路や小春凪

   十一月二十二日 偶会 二日市温泉玉泉館

初冬の旅の一と日を筑紫の湯

境内に冬の滝あり寺静か

   十二月三日 ホトトギス吟行会前夜句会 佐鳴湖西遠
   荘、呉竹荘泊り

鴨の陣遠見は黒き影ばかり

波まぶし湖心の鴨の陣見えず

風波に鴨の陣敷く湖心かな

注連作り繩綯ふわざをくり返し

(第四巻)

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