年尾句碑


年尾の句

『年尾句集』 ・ 『句 帖』

『句日記』(第一巻)(第二巻)(第三巻)(第四巻)

昭和34年

   六月十四日 虚子追悼会 京都知恩院

一本の葉ざくらかげに句碑はあり

   八月九日 幡多中村市へ向ふ。花屋旅館

湾港を出水濁りの沖へのぶ

茶屋あれば樗下かげ為すところ

四万十川の出水の土手のきりぎりす

京の名の山あり幡多の春秋を

   十月十四日 虚子分骨埋葬 叡山横川

はらからに深きゆかりの露の塔

叡山に時雨るゝ墓となりにけり

   同日 飯塚 曩祖八幡宮

虚子植ゑし銀杏も紅葉して落葉

冬もなほ青き銀杏を不思議と見

   十一月二十一日 やまたろ句会 筑後吉井町、若宮八
   幡宮社務所 原鶴温泉泊

草紅葉五庄屋の徳ここに残る

うち仰ぐ木の実再び降るべしと

木の実降る風ある時も無き時も

石棺は我に興無し堂の冬

   十二月一日 虚子、句一歩句碑除幕記念句会 高崎市
   成田山

句碑の辺はになたぼこりも恰好な

僧俗の句碑成り銀杏散る下に

昭和35年

   四月三日 京都ホトトギス同人会、虚子一周忌法
   要句会 知恩院

紅しだれ桜と句碑と対応す

花人の句碑とも知らず通り行く

   四月十六日 徳島霊山寺吟行 志摩源旅館

正御影供一日遍路の夥し

双杖の遍路が町の中を行く

女等が一日遍路の藁草履

堂縁を杖突く音の遍路かな

蒲団積みあるがあらはの遍路宿

   五月二日 敦賀ホトトギス会 気比神社参詣、昼食後
   色ケ浜に向ふ

行春の雷とどろきを頭上にす

翔つは鵜か春行く敦賀弯を航く

雨上りたる初夏の日に潮眩し

新緑をそびらに色といふ部落

蛙鳴く僅かな田あり色ケ浜

   五月三日 敦賀ホトトギス会、虚子忌句会 観光ホテ
   

底砂にがけあり海月漂へり

松原の春秋句碑のとこしなへ

   五月五日 旭川百五十号記念大会 吉備津神社

晴て行くらし春蝉の声聞え来る

   五月十三日 海南ホトトギス会 藤田神社

熊野路のここにはじまる金鳳華

皇子あと古き椿のなほ存す

蝌蚪の紐畔に引き上げられてあり

苗代へ蜜柑の花の香をこぼす

バラ園のその香にひたり歩をゆるく

立ち出でて夜の新樹の香の中に

   七月九日 筑前二日市温泉玉泉閣玄関に虚子句碑除幕
   同所泊り

温泉に汗を落す間もなき人出入

温泉上りの冷房に先づ落著きぬ

   七月十日 小集 福岡、渡辺満峰居

水蓮の蕾水切り半ばなり

庭滝の流れに蛙鳴きゐたり

飾山笠見る約束に集ひけり

   同日 午後博多櫛田神社参詣、山笠を見る 片山片々子
   居にて句会

飾山笠木々抽んでて建てらるゝ

一と通り飾山笠見て行くとせん

子も赤きふどしあらはに山笠法被

   九月十一日 八雲旧居虚子句碑除幕 公会堂

八雲忌は近し虚子句碑成ることも

咲きつゞく花の命の瑠璃柳

宍道湖は秋も蜆をとるところ

   十月十六日 白雨会 砥部、稲荷予士

句碑すでに庭に馴染みて秋風に

陶房の庭とびとびに帚草

陶房に働く夫婦帚草

鵙鳴いて崩れんとする天気なり

   十一月一日 空路板附著。唐津に向ひ名護屋城址吟行
   壱岐島を隔て対馬も見ゆ。呼子泊り

本丸の桜は既に枯木にて

行秋の城址に木々の風を聞く

船音の呼子の夜長杯重ね

壱岐対馬見え行秋の城址かな

   十一月二日 太宰府へ向ふ途、室見川畔とり市に休憩
   太宰府光明寺にて句会

太宰府のほとりに住みて柿の秋

揺れてゐる秀枝に人や松手入

石庭の裏山鵯も笹鳴きも

   十一月三日 久留米水天宮 虚子句碑除幕 萃香園に
   て句会

筑水の向ひは既に枯野なる

枯蓮の乱るゝ中に光る水

   十一月四日 熊本城吟行 熊本日日新聞社別館

返り咲く城址のここは日の溜り

旅人に小春城の聳えたり

   十二月三日 村田橙重藍綬褒賞祝賀句会 枳殻邸

枯芝のたゞ明るくて広やかに

   十一月十九日 岡崎ホトトギス会 城址巽閣

城内の空ら堀紅葉谷を為す

かへり見る銀杏落葉の降るさまを

子の手より大きな銀杏落葉かな

昭和36年

   三月十日 空路板附著 鳥市にて昼食仏心寺の虚子
   句碑除幕式に列す

おきうとに白魚のせて出されたり

白魚をかく料理してみてなして

女来て生簀の白魚買うて行く

帯塚に対して咲けり藪椿

   三月十一日 勉強会第一日 二日市温泉より小国へ向
   ふ 小国神社社務所

輪地(わち)焼きといふが手はじめ山を焼く

山焼を待つ輪地切りのかしこにも

草小積みしてありなば木伏せてあり

杉苗を植ゑしばかりの麦畑

   三月十三日 町田駅着、竜門滝に遊ぶ 三日月滝も見
   る 九重町、足立山彦方泊

十人で鹿一頭の猟話

春光や竜門の滝裳裾曳く

竜門の滝へ湧き立つ木の芽かな

春の滝白き裳裾を岩に伸べ

竜門の滝壺に鴨来て遊ぶ

川ここに滝となり落ち川鴉

   四月二十九日 中田余瓶急逝

行く春のこの淋しさを如何にせん

   五月三十一日 きさらぎ会 小石川後楽園涵徳亭

林泉の殆ど藻刈濁りして

藻刈人深き咳してゐたりけり

藻刈舟舷朽ちてゐたりけり

藻刈舟乗り捨てゝあり塵芥

   七月十日、小樽より旭川へ 春光台吟行 旭館泊り

郭公の丘より巷見降ろしに

雪渓を目路に大雪山指さされ

指さして山の名を問ふ丘涼し

面白く囀る鳥や蝦夷の夏

日盛りの思ひひと時過ぎて涼し

   十月十五日 冬野主催句会 太宰府戒壇院

扇捨てかね行秋の旅にあり

深秋の穏寮にあり雨を聞き

   十月二十三日 飯塚ホトトギス会 曩祖八幡社務所

行秋のなほ蚊のいづる泊りかな

昭和37年

   二月十日 京都ホトトギス会 枳殻邸

日脚のぶ車窓に眠り易きかな

   五月十四日 前夜宇佐神八幡宮宮司到津氏方に泊 足立
   山彦氏より八幡宮の句を求められ

みやしろや茂りの中に光ります

薫風や国を護りの神として

   七月八日 仙台より山形県山寺へ 虚子年尾句碑除幕
   上の山温泉泊り

山越えて来て羽の国は梅雨もなく

峠路の雨に色濃き額の花

山寺に篠の子飯もまたよろし

   七月十五日 京都ホトトギス会 栂尾高山寺

峠越え来れば涼しき峡となる

木下闇高くうつろを為しゐたり

   九月三十日 ホトトギス吟行 真間山弘法寺

大枝垂桜の紅葉見えそめし

秋の蝶叢をゆく迅しと思ふ

爽やかに一歩木かげに入りて立つ

   十一月十七日 名古屋ホトトギス会 中村太閤山常泉寺

柊の花散りつぐよ香をこぼし

散り敷ける柊の花にも虻が

香の強き花柊にして古木

   十一月二十六日 大分市高崎山自然動物園に虚子句碑
   建つ 祝電にそへて

これよりの幾時雨にも猿とともに

   十二月一日 芭蕉忌南御堂句会 大阪難波別院

時雨待つ心に翁忌を修す

芭蕉句碑移し終りし小春かな

昭和38年

   三月十七日 ホトトギス吟行会 犬吠崎暁鶏館

礁辺を春潮騒ぐたゞならず

灯台は太しく立てり強東風に

強東風のしぶき岩頭迄は来ず

   足立山彦寄進の私の句碑除幕の為、宇佐神宮へ向ふ
   記念句会 神社社務所

下闇の向ふが見えて人通る

梅雨上る気配蜻蛉沈む草

(第二巻)

年尾句碑に戻る