年尾句碑


年尾の句

『年尾句集』 ・ 『句 帖』

『句日記』(第一巻)(第二巻)(第三巻)(第四巻)

昭和47年

   一月一日増上寺除夜の鐘を撞く

除夜の鐘その第一打撞きにけり

増上寺近くに住みて除夜の鐘

   二月十一日 荻江小唄連中犬吠崎吟行 暁鶏館

早春の波音聞いて岬に泊つ

犬吠の冬濤に目を峙てし

   同日 一月八日 酒井黙禅逝去 追悼す

東風吹くを待たざりしこと悔まるゝ

   三月六日 善通寺遍路句碑除幕 本坊

雲沈め日を又沈め春の水

遍路杖らしきもの浮き御影池

こゝに成るお遍路句碑や春浅き

   同日 十六日に除幕すると聞く枴童句碑の為に

蛙鳴く夜を控へての集ひごと

   六月十日 岡山市高松 最上稲荷

松籟を城址に聞くも田植どき

客殿に昼寐の刻を得たりけり

涌井ありほとりの岩に滴れり

楠銀杏何れも新樹門に竝め

   同日 山上洗心閣にて稲荷記念の句

松涼し鎮みまつりし法の宮

   六月十一日 洗心閣に一泊す

ほとゝぎす鳴く頃眠り深かりき

   六月二十二日 西国札所巡り 宇治、三室戸寺

境内に緑蔭はみな松ばかり

お札所の裏の行滝木下闇

時鳥聞かんと思ひ来し札所

   十一月四日、熊本より二日市を経て仏心寺

峠越え稻刈どきの野を走る

降るまゝに柿落葉して菩薩あり

秋もなほかく薔薇育て佳人住む

穴惑落葉の上を辷り落つ

藪中の落葉にまぎれ穴惑

   十一月五日 二日市玉泉館にて朝句会

温泉の宿の朝日の軒の照紅葉

筑紫野の小春諸鳥かく多き

石庭の石にかげなき小春かな

   十一月七日 羽田空港ハイジャックの為に板付空港で
   七時間待機

立冬のハイジャック旅蹉跌

   十一月十九日 松山市万翠荘 句碑除幕 道後中村泊り

時もよし菊薫る辺に句碑除幕

城山の木の実降る日の今もなほ

   十一月二十日、道後九時半発南予宇和島へ 途中義農神
   に子規、極堂、虚子句碑を見、白滝へ立寄る

そばを干す二十五枚の筵敷く

登り行く滝の高さを落葉みち

初冬なほ紅葉に遊ぶ人等かな

   十二月二日 広島ホトトギス会 前夜句会 宮島岩惣

宮島の残る紅葉に遊ばんと

雪のあと小春日和となりゐたり

鹿の糞落葉まみれにかたまりて

冬紅葉玻璃戸の外を鹿がゆく

   十二月二十一日 坂東札所巡拝 千葉笠森寺

冬ざくら散るがあはれやはらはらと

昭和48年

   四月十五日 前日につゞき 福一旅館

山の温泉の春暁の冷ゆること

   同日 午後高崎市少林山達磨寺にて記念句会

枝広く伸べてかざして若楓

折からの雨に散りつぐ残花かな

雨に風添ひ来囀り急に歇(や)

   五月十二日 四国ホトトギス同人会 讃岐大窪寺

新緑の谷戸深く来て札所寺

おへんろの墓ありといふ蛇も出て

三ケ寺を逆遍路して賽しもす

   六月三十日 岡山最上稲荷句碑除幕 稲荷客殿

出水荒れして岨道に蟻多し

   十一月二十四日 稲畑汀子を熊本空港に迎へて、阿蘇
   火口へ快晴

わが影を火口へ落し小春風

噴煙は小春の空にすぐ消ゆる

噴火口まのあたり見て阿蘇小春

   十一月二十六日 八代春光寺 句碑除幕

わが為によき今日の日の冬紅葉

   十二月十六日 琴平ホトトギス大会 琴平さくらや

とり戻す日射に日向ぼこつゞけ

猟犬を飼ひ注連作りする暮し

昭和49年

   一月二十六日 河野静雲師死去を弔ふ 二日市玉泉館
   泊り

飛梅は二た木なりけり一と木咲く

春近き飛び梅の咲きそめしこと

   静雲師を悼む

探梅の心よみ路を辿らるゝ

   五月十二日 高知ホトトギス大会 三翠園 途中三十
   四番種間寺へ詣る

遍路杖持つゆゑそれと知られけり

   六月十二日 高松稲荷報恩忌句会 岡山最上稲荷

忌を修す有縁無縁に経涼し

親しさの句碑への道や時鳥

   同日 九州同人会 平尾台マルワランドより和布刈神
   、関門橋、赤間宮、山口銀行四階

岬宮の末社は一社石蕗盛り

七盛の墳やうつろに秋深し

   十二月十四日 高松市仏生山吟行 琴平さくらや

枯れ竝めてメタセコイヤの皆高木

古寺に鵯鳴く冬に行き合ひし

   十二月十五日 琴平ホトトギス大会 さくらや

外は寒し宿に残りてゐるばかり

   十二月二十五日 池内たけし死去
   十二月二十六日 三木朱城死去

ねぎらはんすべなきまゝに年の逝く

昭和50年

   一月三日 白浜爪木崎へ行く

岬の宮茅の輪もありて初詣

岩に依り野水仙咲く岬の宮

桜貝拾ひしことも昔かな

初春の浜に遊ぶも伊豆なれや

渚行くわが足跡に初日かげ

著ぶくれし児を枯芝に遊ばする

   二月六日 曾我梅林虚子句碑二月十一日に除幕す

梅林に虚子句碑建てり集ふ人

   二月十五日 高知県足摺岬行 パシフィックホテル

春潮の騒立つ礁見下ろしに

早春の雪や土佐路の山脈に

梅ケ香に上座を与へられてをり

足摺にはじまる土佐の春かとも

椿かざし椿まつりの踊子等

   六月九日 報恩忌最上稲荷句会 岡山高松妙教寺

朝の間に聞きしといへる時鳥

二三子は聞きしといへり時鳥

   十月十日 四季会 筑紫二日市温泉 玉泉館

鰯雲今日の日和をうべなひて

残暑かくよくつづきつゝ筑紫路を

秋水のひそみ流れて筑紫路や

萱屋根に生ふ櫨さへも紅葉して

蟻の道落ちし熟柿につゞきをり

   十月十一日 四季会第二日 武蔵寺を訪ふ

朝の露消えてをりしに詣でけり

朝寒しとは思はねど早紅葉に

秋深き影藤棚の下広く

殊に目につく早紅葉に対しけり

誰彼と偲ぶ心に秋深し

朝寒や我に親しき筑紫の湯

   十月十二日 筑後吉井町、若宮八幡宮の虚子句碑を見る

晩秋の雨の冷たし車降り

   十一月二十四日 松山ホトトギス会 道後文教会館

古寺の冬を田螺の棲む小池

蟲いたみなどしるきあり冬紅葉

昭和51年

   四月十八日 病中吟

病院に聖堂ありてイースター

   六月五日 病後はじめての旅 羽黒山行 途中山形空
   港より 猿羽根山、新庄、草薙温泉、白糸の滝を経て
   羽黒山

羽の国の植田面らはや梅雨を前

最上川沿ひに旅行く紅うつぎ

不確かな古き記憶に梅雨の滝

最上川沿ひに住む家の竹の秋

最上川ある故植田拓けたる

朴咲いて栃咲いて雨煙りをり

   『病床百吟』

昭和54年

   富安風生氏を悼む

水鳥の水尾の静かに広かりし

昭和54年(1979年)10月26日、年尾は78歳で没。

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