年尾句碑


年尾の句

『年尾句集』 ・ 『句 帖』

『句日記』(第一巻)(第二巻)(第三巻)(第四巻)

昭和39年

   飯塚の田中斐川三月三十日逝去、悼句

すさまじき春の嵐にすべもなく

   四月十三日 二百十日会 淀川沿ひ江口、君の堂

中程は早き流れや春の川

蛇ゐると草摘む媼さり気なく

春の田の水漬きわたりし広さかな

蛙鳴き埋立てられて行く水田

   四月十六日 みくまのめぐり第二日 瀞八丁をプロペ
   ラ船にて下る 勝浦中の島ホテル泊り

乱鶯と瀬音に峡の温泉の夜明け

大滝の巫女たち帰る花の夕

旅半ば春行く那智の大滝に

   七月十二日 藍百号記念句会 秩父長瀞宝登山神社

時鳥鳴き乱れたるごときあり

高く懸る朱ケの橋あり河鹿渓

木雫にふれし夏服汚点抜けず

   八月十七日 足摺岬及竜串旅吟

海底の海胆の生態見しことも

めづらしく蚊帳吊る宿に一泊す

   十月四日 西日本ホトトギス俳句大会 小倉城

城内の一室秋の風通る

恵まれしわが旅路かな秋晴れて

昭和40年

   四月十日 虚子七回忌関西句会 京都知恩院

虚子句碑に枝垂ざくらはなだ蕾

落椿こちら向きをり女坂

   四月十五日 伊丹より熊本へ空路 江津湖を廻る 山
   路泊り

初燕それも越冬せしものか

春水の濁りにひそむものあまた

真菰枯れ伏して江津湖の春すゝむ

蝶多し芭蕉林へも抜けて来る

   五月一日 京都俳妓連中との衣笠山裏の原谷の遅桜
   御室仁和寺の里桜へ吟行 先斗町井雪

その蕾こそ濃き紅の紅しだれ

原谷は京の裏山紅枝垂

くゞりつゝ御室の花の枝にふれ

さくら狩り蕨狩して京も奥

散り敷きて御室は落花掃きもせず

   五月五日 久留島武彦童話祭 玖珠町

ともかくも水張つてあり田打まだ

蕨など出てゐるらしき野のみどり

   同日 竜門の滝ほとりの句碑除幕に列し、記念句会

春惜む人竜門の滝に集る

   五月九日 祖谷句会 眉山吟行 ホテル眉山

一と年をけみし句碑なり五月晴

樟若葉その下蔭のあさみどり

   五月十二日 芦屋勉強会 大津坂本西教寺

囀と常念仏の鉦とあり

行春の御堂常念仏の鉦

どうだんのかゝる大木や深山寺

   十一月三日 西日本俳句大会 太宰府天満宮文書館

行秋の子等の遊び場榎寺

こゝらまだ牛の曳くなる稲車

   十一月五日 飯塚句会 金本冬雲邸 冬芽会有志外直
   方の讃井麦酔夫妻参加

行人に池畔の柳散りやまず

垣外へ垂れ蔓薔薇も末枯れて

庭うちの芒のほとり秋深し

   福岡不老会へ急ぎ八木山峠越ゆるとき、田中斐川、虚
   子立子二人の句碑を見、篠栗の城谷文城の句碑も見る
   春吉町はな家泊り

   十一月六日 勉強会 熊本江津荘

水葱疊枯蘆原と別にあり

大四ツ手休めあり秋深きさまに

斯く芭蕉瑞々しさの江津の秋

江津に棹す舟は静かに秋深し

   十一月八日 鹿児島へ向ひ桜島に渡り袴腰熔岩の虚子
   句碑に遊び、鴨池の錦港旅館で句会 東条樹々邸泊り

かくすべうなき旅疲れ蜜柑むく

末枯るゝ熔岩原外れてある祠

熔岩原にももみぢするものあまたあり

昭和41年

   同日 四月十日午前七時七分、川端竜子画伯逝去

花嵐そのたゞ中の御姿

   六月十四日 竹敷より壱岐中継にて板付へ 直ちに太
   宰府文書館にて俳句大会

島の旅より帰り来て花菖蒲

紫は水に写らず花菖蒲

   六月十七日 羽田十時半発千歳へ 有志と石狩河口

胸に挿す鈴蘭の香に旅つゞ

札幌の夜の楽しさの生ビール

   六月十九日 虚子来道記念第八回大会 古平小学校

わが蝦夷の旅夏潮の忍路過ぐ

落葉松のみどり落つき蝦夷暑し

   十月三十日 琴平合田丁字路句碑除幕祝句

菊の香に心ゆたかに君とあらん

   十一月十二日 広島ホトトギス会 岩国錦帯橋を見て
   宮島口黛仙荘

川波は五橋映さず紅葉晴

初冬の錦帯橋に瀬音聞く

   十一月十三日 同右大会 宮島

さして気にならず急坂紅葉狩

   十一月二十日 「みゆき」二十周年記念俳句大会 高
   田厚生会館

初冬の櫓田みどり衰へず

粧へる山林檎園地に拓け

櫓田のかゝる勢ひも越路なる

   十一月二十一日 高田より第一妙高で帰京 途中小諸
   を通過

唐黍干して火の山裾に住む人等

昭和42年

   四月十四日 能登行大阪発十一時 中島町大森積翠
   泊り

春宵の句会能登路の旅はじまる

尼寺に分宿もして花の旅

花の旅田打終へたる能登に入る

   午後二時半国民宿舎出発 バスにて和倉加賀屋へ四時
   十五分著 一泊

宿豪華春燈柱なして点く

   四月二十二日 上野発十二時十分、秋田県横手著十九
   時三十六分 横手平源旅館

行春の旅の車窓に虹を見し

   四月二十三日 横手かまくら吟社大会 横手酒業会館

行春の梅見といふも羽にあれば

羽の国の花冷殊にすさまじく

   五月十二日 熊本江津湖 即事 青虎、緑富同行前夜
   ホテルキャッスル泊

先づ江津を訪ふ旅人に燕とぶ

水に映る蝶は黒しやとの曇り

江津の水浮藻を流しやまざりし

   五月十六日 秋爽会 二日市温泉玉泉館
   サングラス伊達にはあらず病む故に

鳥蝶水際の砂に水を吸ふ

   同日 琴幸 合田丁字路句集『花の宿』祝賀

炎暑にも負けず次の歩更に踏み

   十月三日 福岡ホトトギス勉強会 大平山より島原に
   渡り雲仙を周遊、ゴルフ場の虚子句碑移転されたるも
   見て島原へ戻り、米屋旅館泊り

島間ひの早潮を打ち冬鴎

なほ盛んなる冬紅葉点綴す

雲仙を隔て眉山粧へり

   十一月十一日 備後ホトトギス会 福山市明王院

銀杏散るもとに墳あり五十余り

堂塔の朱ケのしづまり寺小春

   十二月十四日 高松市仏生山吟行 琴平さくらや

枯れ竝めてメタセコイヤの皆高木

古寺に鵯鳴く冬に行き合ひし

   十二月十五日 琴平ホトトギス大会 さくらや

外は寒し宿に残りてゐるばかり

   十二月十日 琴平ホトトギス会 琴平神宮神饌田を見
   る 桜屋旅館広間

畦手入神饌田は冬の姿かな

野菊畦に枯れ残り居る神饌田かな

旅人の目を惹く神の冬紅葉

神馬塚へは畦づたひ時雨れつゝ

(第三巻)

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