一茶の句



『七番日記』

   文化7年1月

けふもけふも一つ雲雀や亦打山

浅草や家尻の不二も鳴雲雀

   巣兆五十賀

柴の戸やかすむたそくの角田鶴

   文化7年3月

花ちるや称名うなる寺の犬

夜桜[や]大門出れば翌(あす)の事

花ちるや権現様の[御膝]元

桜木や同じ盛もお膝元

けふぎりの春とは成りぬのべの草

手の奴足の乗もの花の山

   文化7年4月

下総の四国巡りやかんこ鳥

夏の夜やうらから見ても亦打山

   文化7年5月

   碓井山にて

大山に引付て行扇哉

旅人に雨降花の咲にけり

   文化7年6月

   観音の晨鐘手に取ばかりに聞

涼しさに忝(かたじけな)さの夜露哉

只たのめ山時鳥初松魚(がつを)

   小菅川に入。左右合歓の花盛り也。

古舟もそよそよ合歓のもやう哉

遠くからくゝり支度や竹の露

下陰を捜してよぶや親の馬

   文化7年7月

艸花やいふもかたるも秋の風

(あさがお)の花もきのふのきのふ哉

   文化7年8月

かまくらや実朝どのゝ天つ鴈

   文化7年8月[文化13年6月之部]

入梅晴や佐渡の御金が通る迚

   文化7年9月

なでしこの一花咲ぬ小夜ぎぬた

行秋をぶらりと大の男哉

   文化7年10月

   八日 水道町にて

十月やほのぼのかすむ御綿売

   十二日

ばらつくや是は御好の初時雨

けふの日や鳩も珠数(数珠)かけて初時雨

念入てしぐれよ藪も翁塚

ちる木[の]葉渡世念仏通りけり

笹鳴も手持ぶさたの垣根哉

   文化7年11月

はつ雪やきのふと成し御上棟

   文化7年12月

ほかほかと煤がかすむぞ又打山

煤とりて寝て見たりけり亦打山

   廿三日西林寺に入

行としや空の名残を守谷迄

行としや身ならはしの古草履

古頭巾やとりも直さぬ貧乏神

   文化8年1月

我春も上々吉よ梅の花

   廿九日 巳刻ヨリ雨止。本行寺ニ入ル。

陽炎[や]道灌どのゝ物見塚

長閑しや酒打かける亦打山

象潟や桜を浴てなく蛙(かはづ)

五百崎(いほざき)や御舟をがんで帰る雁

   文化8年2月

春風や牛に引かれて善光寺

   文化8年3月

山吹をさし出し皃の垣ね哉

藤さくや已に卅日の両大師

   文化8年4月

夕立に打任せ[た]りせどの不二

   文化8年7月

なつかしや籠カミ破るきりぎりす

がりがりと竹かぢりけりきりぎりす

象がたやそでない松も秋の暮

   松 島

松島や一こぶしづつ秋の暮

島々や思々の秋の暮

   文化8年9月

吉原やさはさりながら秋の暮

   文化8年10月

霜がれの中を元三大師哉

   文化9年1月

わか艸や町(ママ)のせどのふじの山

   文化9年2月

松蔭に寝てくふ六十ヨ州かな

   布施弁天

米蒔くも罪ぞよ鶏がけあひ(ふ)ぞよ

さゞ波や田螺がにじる角大師

なの花のとつぱづれ也ふじの山

   文化9年4月

   四日 花喬(嬌)

目覚しのぼたん芍薬でありしよな

何をいふはりあひもなし芥子の花

   文化9年5月

吉原をゆらゆら油扇かな

象がたや能因どのゝ夏の月

夜に入ればせい出してわく清水哉

湖に尻を吹かせて蝉の鳴

   文化9年5月[文化10年9月分]

   鳥海山は海を埋干満寺は
   地底に入

象潟の欠(かけ)をかぞへ鳴千鳥

   文化9年6月[文化10年10月分]

鬼塚の婆ゝとも見へ(え)ぬ紙子哉

水仙の花の御湊誕生寺

   文化9年7月

又も来よ膝を貸さうぞきりぎりす

   文化9年8月

そば時や月のしなのゝ善光寺

   文化9年9月

   小梅筋

かしましや将軍さまの雁じやとて

   文化9年10月

   双樹

折々のなむあみだ仏聞きしりて

   米をねだりしむら雀哉

   文化9年10月[文化12年10月部]

真直ぐ[は]仏五兵衛がすみがまよ

   文化9年11月

是がまあつひの栖か雪五尺

ほちほちと雪にくるまる在所哉

   臼井峠

夕過の臼の谺の寒哉

   文化10年1月

浅草の不二を踏へてなく蛙

藪入やうらから拝む亦打山

大凧や上げ捨てある亦打山

(い)うぜんとして山を見る蛙哉

   吉原

目の毒としらぬうち[こ]そ桜哉

   文化10年2月

かまくらや実朝どのゝ千代椿

   板橋

かしましや江戸見た厂(かり)の帰り様

   文化10年6月

心太盛りならべたり亦打山

下々も下々下々の下国の涼しさよ

投出した足の先也雲の峰

   文化10年7月

日本は這入(はひり)口からさくらかな

うつくしやせう(しや)じの穴の天[の]川

   文化10年8月

秋風に歩行て逃る螢哉

あの月をとつてくれろと泣子かな

   文化10年9月

   小布施

拾れぬ栗の見事よ大きさよ

草原や子にひろはする一つ栗

末枯や新吉原の小行灯

吉原も末枯時の明りかな

   文化10年10月

霜がれや新吉原も小藪並

   文化10年閏11月

   悼

けふばかり別の寒さぞ越後山

   文化10年12月

大まぐろ臼井を越て行としぞ

   文化11年1月

   春風や夜さりも参る亦打山

雪とけて村一ぱいの子ども哉

ぼた餅や地蔵のひざも春の風

   文化11年2月

みちのくの鬼住里も桜かな

甲斐信濃乙鳥(つばめ)のしらぬ里もなし

   文化11年3月

雪とけて町一ぱいの雀哉

竹に来よ梅に来よとや親雀

   文化11年5月

富士の気で跨げば草も涼しいぞ

涼しさや五尺程でもお富士山

   文化11年8月

赤門やおめずおくせず時鳥

   文化11年9月

   姉ヶ崎法花(華)妙経寺忠[僕]市兵衛墓

起て聞け寝てきくまいぞ市兵衛記

   文化11年10月

亦打山夕越くればずきん哉

黒門やかざり手桶の初時雨

初霜の右は元三大師哉

   文化11年11月

   小塚原

科札に天先時雨給ひけり

   文化11年12月

降雨やヲ(お)ソレ入谷の冬の梅

   文化11年12月[文化十二[年]七月部]

稲妻や一もくさんに善光寺

   文化12年4月

守るかよお竹如来のかんこ鳥

   文化12年6月

   田 中

涼風に欠(あくび)(ついで)の湯治哉

   文化12年7月

(精)霊の立ふる廻の月よ哉

   文化12年10月

十月やうらからおがむ浅草寺

明神にほ(は)(ふ)り出された霰哉

   文化12年11月

   吉 原

三弦(さみせん)で雪を降らする二階哉

   三月廿七日一人花見

   往生寺

さく花の開帳[に]迄逢にけり

湯も浴て仏お(を)がんで桜かな

花に行門の口より桜哉

善光寺大門前に乞食イ(ヰ)ザリが手筋見るとて人々こぞりけり

藤棚や引釣るしたる馬の沓(くつ)

   文化13年2月

   聖堂

(はきもの)のならぬ所(とこ)より梅の花

   文化13年3月

   蛙たゝかひ見にまかる四月廿日也けり

痩蛙まけるな一茶是に有

   文化13年6月

   梅松寺納涼

真丸に芝青ませて夕涼

千軒の垢も流るゝ蓮の花

蓮咲くや八文茶漬二八そば

武士に蝿を追する御馬哉

   文化13年8月

   漂泊四十年

ふしぎ也生た家でけふの月

   文化13年9月

蝉鳴くや六月村の炎天寺

   文化13年12月

角大師カンでおじやるとしの暮

   文化14年1月

藪入や二人して見る亦打山

   文化14年2月

雪の日や仏お竹の縄だすき

   文化14年4月

   金王丸

桜木も何代目ぞよかんこ鳥

   那古山

おのれ迄二世安楽か笠の蠅

   文化14年6月

丘釣を女もす也夕涼み

釣竿を川にひたして日傘[哉]

   浄国寺村に入

下闇や精進犬のてくてくと

松の木に蟹[も]上がりて夕涼

涼涼(ママ)や汁の実を釣るせどの海

遊女めが見てケツカルぞ暑い舟

釣竿を岩に渡して日傘哉

画団[扇](うちは)やあつかまし[く]も菩薩顔

天から下りた顔して団[扇](うちは)

むら雨や六月村の炎天寺

   文化14年8月

べつたりと人のなる木や宮角力

   文化14年11月

   (坂)

折芦や夕三弦も霜がれる

   文化15年1月

追分の一里手前の秋の暮れ

   文化15年2月

追分の一里手前の秋の暮れ

梅がゝよ湯の香よ外(ほか)に三ヶの月

加賀どのゝ御先をついと雉(きぎす)

追分の一里手前の雲雀哉

   文化15年3月

陽炎や新吉原の昼の体

花の世は仏の身さへおや子哉

花ちるや此日は誰が往生寺

花ちるや日[の]入るかた往生寺

散花や長々し日も往生寺

花さくや伊達に加(咥)へし殻(空)ぎせる

   日本寺

アラカンの鉢の中より雲雀哉

坂本は袂の下ぞ夕雲雀

坂本はあれぞ雲雀と一里鐘

   吉原

時鳥待まうけてや屋根の桶

   善光寺

開帳に逢ふや雀もおや子連

雀らもおや子連れにて善光寺

   文化15年4月

   不忍池

螢火や呼らぬ亀は手元迄

   文化15年5月

五月雨や線香立したばこ盆

   文化15年7月

木曽山に流入けり天の川

追分の一里手前の秋の暮れ

   文化15年9月

山寺や畳の上の栗拾ひ

   文化15年12月

日本の外ヶ浜迄おち穂哉

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