知足坊一瓢



一瓢の句

銭投て宮居を雪の舎りかな


朝とくにわらふとなりやはるの雪


夕暮れの数に入たるかゝし哉


不断着のおもしろくなる浴衣哉


衾にも一筆ほしやうめの花


味噌汁もすむものとてや春の風


これ見よといはぬばかりの一葉哉


踏込で雀も孕め水たまり

燕の来て口上のながさ哉


不拍子は炭がはねてもひとり哉


聟にてもつゝ走らふか更衣


冬枯の背戸にかけたる鵜繩哉

胡麻三粒はねても嬉し霜の朝


   二月出 同日来

正月が来た上にまた梅の花


からしかく鼻から近し雲のミね


大山が崩れてきても巨燵(こたつ)かな


寒月や棒のやうなる人が来る


榾の火に書て見せうそ鬼か島


正月が来たうへに又うめの花


夜明ては他人のやうな鵆かな


あてつけるやうに枯けり芒の穂


こゝろまで浅黄になるや衣更


身ひとつの夏をあつける柳かな


白菊はよひよき名なり草の門


青い田の露を肴やひとり酒

『文政句帖』(文政6年6月)

正月はまたでも來や老の上


しくるるも時雨ぬふりや枯柏


長き夜を我にともなふ蚯蚓かな


死たがる顔さげて来て二日灸


蕣や人の上にもひとさかり


柚の花の追従らしき包かな


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