吉川五明



五明の句

手を負し猪のさまよふ花野かな


日ハ花の中より暮る木槿かな


世間寝て見るへき月に成にけり


振そむる雪や闇より松の形


紅梅のけふなれハはや夕べかな


更科や何から暮て明る夜ぞ


はつ桜月は水よりいつるかな


夜の明て見れば雨降さくらかな


蔭ありて日向ありて芭蕉靜也


来ぬはすよ歯のなき口に呼螢


しら菊や色あるものはさめやすき


目にもちてまとろむ花の木蔭哉


枯なもみいつまて人にとりつくそ

   閑 居

紫陽花ハ木かくれ住(む)我花か


やぶ入のしきみ提ぞあはれなる


来ぬはづよ歯のなき口によぶ蛍


白魚や走てちきらんものハこれ


白菊やいろあるものはさめやすき

見てをれば雉子のねぶげのうつりけり


よき隣持けり梅に鳥の声


ある人のすなるよきくの虫供養


秋もはや一ふし白き木賊哉


秋の山霧て書たるすかた哉


浚ひ井の水に鰥を活(いか)しけり


よき扇かざして通る四月哉


雛祭り盆三日よりあはれ也


夏山や子にあらはれて鹿の鳴


ちる花や手をさし出せはさのみ又


鰒喰の淋しそうなる睦月哉


夏山や子にあらはれて鹿の鳴


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