加舎白雄

『春秋稿』(初篇)



 安永9年(1780年)2月、加舎白雄は6年ぶりで江戸に帰り、15日日本橋鉄砲町に白井鳥酔の旧庵の跡を求めて春秋庵を開く。

『春秋稿』(初篇)は、その記念集である。

序文は麗水堂巨計、百卉書。百卉は巣兆の父、山本龍斎。跋文は大来。



友人白雄やなゝとせばかりの行李に蕉翁の遺跡をつくし、あるは名勝風煙に記行し遊嚢みちて帰りぬ。こゝに艸菴をむすぶ。もと春秋の風物に目を委ね、今かつ菴に膝を容るになづけて春秋菴と呼。

安永年丁子春 江都麗水堂巨計誌
応需 雪声菴百卉書

  梅

菊貫君の御句なりたまはりしをせめてもの四時のはじめとす

梅園やいく木ありても香はひとつ
   江都百卉

富家もまづしき門もうめさきぬ
志ら雄

   武蔵坊の画に題す

鎧著て梅をいたはるむかしかな
栄路

梅がゝやよほどありきてうめの花
   江戸菊明

  柳

水際になりて柳の葉ぞ長き
   仙台也蓼

  うぐひす

鶯や唇音ゆたに声のあや
   加賀一菊

ゆく人よ我も此野にかすむかは
   酒匂大梁

  陽炎

かげらふやきえきえて水の音となる
  信戸ぐら鳥奴

  はるの月

   桃源庵にあそびて

おぼろ夜や椎の常陰の雪あかり
   江戸百卉

  春の鳥

くるはしや雨にきゞすのはしり啼
   戸倉古慊

雁七つかたさがりなる行衛かな
   信上田如毛

雨の日も風の日も鷽(うそ)のてり羽かな
   武箕田文郷

  はるの雨

春雨やいつをはてしの琶巴つくり
   前砂一羽

   雨降山にのぼりて

滝つ瀬や春雨のふらぬ日はあれど
  相中用田鳥秋
  つぎ木

花催ふ接木に(かカ)ふとき直幹かな
   文郷

世のさまやひがんの市の古仏
   武本庄似鳩

萱あつきむねこす春のこ蝶哉
   とぐら
丈馬

  田螺

世の中や田螺も露の価ある
   如毛

  つばき

花つばきしゐて落るはうたがはし
  上毛艸津鷺白

  はるの艸

はるの日や水田の底の艸青む
   武吹上橋志

故葱のもえ出る門のはたけかな
  伊賀上野桐雨

蓬つむ人やさながら桃のぬし
   そがの兎石

  花

此ほどやいとまぞおしき花かり
  信うへ田麦二

   きのふの雨おとゝひの あらしをうらむ

折くちやさかり過たる山ざくら
  相中飯田春鴻

磯辺より見そめていく日遅ざくら
鳥秋

  題をわかず

春寒し貧女がこぼす袋こめ
   尾張暁台

のどけしと人いふて行駅かな
 下総そがの眉尺

橋もりのゆめの間を霜のわかれ哉
   武吹上東阿

鐘つきにのぼるかはるも一時ぞ
   あつぎ来之



  ころもがへ

さきのとし志ら雄叟をあが桃源庵にやどせし時元旦の扉をひらきて世とゝもに身のきそはじめおもふ哉と聞へしをおもひあはす

世とゝもにわたぬぐ庵のあるじ哉
文郷

   よど河をくだりて

あはせ着てなにはのかぜや船あがり
  信うへ田雲帯

紅ばたや花さくころの筐うり
  似鳩

  みじか夜

   蝕おがまんといひつゝ更て

月蝕にわけてみじかき夜の間哉
   眉尺

  廬橘

鬢づらにたちばなあふつ匂ひ哉
   信上田雨石

  端午

薬ふる日やあけぼのをこゝろみん
   古慊

  さみだれ

五月雨や庭籠の鳥の羽も重き
   いかほ桟谷

  田植

おくれなよ田植の中のひだりきゝ
   文郷

はげやまや尾花が原に日のうつる
   井々

  秋かぜ

吹つくしのちは艸ねにあきの風
志ら雄

秋かぜや藻屑をそゝぐまのあたり
  井信戸倉鳥奴

  むし

ひぐらしにあしもとくらき小坂かな
   眉尺

   尾張の国わたらひして

うらがれや人に不逢の蝉のから
   信上田三机

  たのむの日

八朔や袖せまけれどあたらしき
   信上田麦二

故枝艸ふくや流るゝごとき汐けぶり
 奥州すか川桃祖

  露

白露や月は檜原のうへながら
   江戸普成

  霧

見る間なく霧晴きりのかゝる也
  上毛前橋素輪

川淀や白きかもめを月の友
   京嵯峨重厚

のちの月あすは秋なきおもひあり
   奥松島白居

  さけ

かならずよ宵のあらしに二番鮭
   古慊

いねの花ちつてうかべる鯲(どじょう)かな
   植栗夜光

  雁

天津雁ひとつらは海のうへに見る
   武吹上雨后

  市中鹿

声かれし鹿の姿を見たきかな
   雲帯

   山家にやどりて

夜の戸や鹿もおどろき我も又
   信上田麦二

鹿聞てながめられけり夜の山
   瓦全

  菊

きくのけふ児の出むかふ切戸かな
雉啄

  秋のくれ

月ほしや水かれてゆく秋の声
   古慊



  水鳥

汐先にかしこ過たるちどりかな
 あきの広島風律

  雪みぞれ

すが蓑のみのかひなしや雪し巻
   東阿

  かれ野

野はかれぬ千もとの松は千もとなる
   鳥奴

ふしづけや直なる水をせくのみか
   大梁

  神楽

御神楽の更て候霜の声
   如毛

  已下不分題

   十月五日の吟

芦の穂の白き十月五日かな
   文郷

冬川や日和うらなふ夜の音
   井々

さゆる夜やほしのちかきに浜あらし
   也寥

  追加四時混雑

夜にいらば花に寐んとやさくらひと
   武吹上雨后

霜寒みくだら野末の曲突のあと
   田島寛眠

手を負し猪のさまよふ花野かな
五明

   わすれずの山ぶみして

秋の日の行ともしらぬ深山かな
  奥州白石麦蘿

日のあれて尾花に落る伊達の木戸
   大呂

ちりてのちもおもかげにたつ牡丹かな
   蕪村

こがらしに酒桶たゝく隣かな
呉扇

   こや鳥酔居士の撰み申されしいつくみい
   とのうちなるみたりなり

たてかけしはゝきにや啼蟋蟀
弄船

今朝ふりし雨をしづくに門やなぎ
魚生

西の京車ひきこむ竹すゞし
其明

   こや岱表帋の撰者なりしが今はなゝとせ
   ばかりむかしになん

うしろ堂尾花ふかれてくるゝ也
烏光

   こやみちのく行脚に杖を一双せしがわか
   くて我にさきだちつるをうらむのみ

むしの音やかねてしるしの松の風
   志ら雄

小蔦見ごとに夜すがらの月
   右竜

   春秋庵にうつるの日

春毎の野にのみ見しをつぼすみれ
   志ら雄

   はこぶ井水にうめの花おる
   栄路

加舎白雄に戻る