岩田涼莵
『山中集』(涼莵編)
温泉 言葉書あり略之 |
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山中や菊は手折ラし湯の匂ひ | 芭蕉 |
秋の哀入かはる湯や世の氣色 | 曾良 |
白湯を藥師如來と拜しほとりを十二神と觀念すへしと |
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傳記に見えたり |
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合掌て湯に入痩や秋の風 | 凉菟 |
仙人に成か湯入の髭の露 | 乙由 |
胡鬼の實にいさ月見せう山住ひ | 桃妖 |
此山中の胡鬼の實は初春の遊ひものに似かよひて |
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胡鬼の子のそれにはあらて羽子のこの |
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こよひの月のそらにすめすめ |
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との 御製は有かたきためしそかし又數寄ことする |
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人はそれかれと調して茶菓子ともなせりかたかた姿 |
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の面白キを見おりて |
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胡鬼の實の吸物椀にすはりけり | 北枝 |
八景の内竈馬(コウロギ)の橋は巖石にかゝりてみなき |
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る水のかしこにくたけ爰に泡まく黄石公か沓も流れつ |
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へし |
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こうろきの夢に渡ルや橋の霜 | 凉菟 |
おなし流黒谷の橋 |
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秋寒し岩の上から橋はしら | 仝 |
千疋橋 |
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声かれて猿の齒白し峯の月 | 其角 |
落栗や子を守ル猿の夢の内 | 自笑 |
那谷の觀音は湯本より三里はかり |
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の道也桃妖の主おくり來て名殘を |
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したふ |
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石山の石より白し秋の霜 | 翁 |
此句も此處にての事なるへし |
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見上たり撫たり岩に蔦かつら | 凉菟 |
手取川 |
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冷マしの水の心や手取河 | 凉菟 |
加 陽 |
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明日放す魚に酒酌ム月見哉 | 万子 |
待霄を先賞せはや年の程 | 牧童 |
名月や酒ほしかほに椽の雨 | 秋之坊 |
三五夜の月むなしく雨と過て吟膓を |
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いたましむる事おほかり |
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いさよひも過て隙也むしの声 | 北枝 |
金澤に侍りて能登の國見に行とて人々に留別 |
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茸狩といふて出はや旅姿 | 支考 |
安宅の浦にて |
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案山子にはよも目は懸し關の前 | 凉菟 |
實盛の笹原は砂濱にして池といふへくもあらす |
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本文の草も錦もなかりけり | 乙由 |
浪白し洗ひて見れは芋かしら | 凉菟 |
一とせ汐越の松見んとて浦つたひせられしを其時の |
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あないせし北枝今も又我をともなひて共に昔をした |
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ひ侍ル |
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凉兎 |
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浪聞て爰そ身にしむ松の風 |
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澄きる月に笠の俤 | 里楊 |
露霜にまんまと我もつれ立て | 北枝 |
鹿嶋まうてして舟に棹さし風吟する三人 |
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北枝 |
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乳を出して船漕く海士や芦の花 |
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嶋のくるりの岩に鶺鴒 | 凉菟 |
月見から何れもすくに居つゝけて | 里楊 |
福 居 |
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菊の香や老の出入の殿作リ | 韋吹 |
凉菟餞別又の事をおもひて |
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きくの宿梅咲比や百廿日 | 元春 |
足羽川八幡宮 |
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弓取り額烏帽子や稻すゝめ | 凉菟 |
玉江ノ橋 |
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芋の葉の玉江と聞ヶははしの露 | 仝 |
淺生津 |
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あさむつの橋に揃ふや小鷹狩 | 凉菟 |
敦 賀 |
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初鴈や海に出向ふ金ヶ崎 | 仝 |
妹 川 |
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姉 川 |
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朝霧の伊吹や富士の妹川 | 仝 |
姉川の洗濯寒し秋の風 | 仝 |
彦 根 |
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力相撲瘤の出ル時まけにけり | 許六 |
多賀大明神 |
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此御神は神代のむかし伊勢の國より八府越を越まし |
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まして、此所に御鎮座有けるとかや。其山の紅葉を |
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見やりて |
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神風もあの山越や初紅葉 | 凉菟 |
柏原 出水亭にて |
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あそこへは交リ爰へは渡り鳥 | 仝 |
寢物かたり |
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兩の手に美濃と近江や鳴子引 | 凉菟 |
關ケ原 |
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百疋の馬に模様や花すゝき | 仝 |
名 月 |
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最一荒壁からも漏れ不破の月 | 木因 |
化されて來たか今宵の月見塚 | 凉菟 |
朝長の塚はあをはかの宿より拾八丁山のあなた |
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に有凉菟をともなひてまうて侍ル |
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赤坂 |
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哀しれ鎧通しの花の露 | 木巴 |
朝顔の拳こぶしにしほみけり | 凉菟 |
十五條六條と在所の名に聞て |
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御所柿の美濃にも四條五條哉 | 凉菟 |
撰集の沙汰有てしはらく白櫻下に足をとゝめ侍るに |
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名古屋の人々に招れてほし崎呼つきの濱一見して |
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鳴海知足亭に遊ふ |
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火燵から友よひつきの濱近し | 凉菟 |
笠 寺 |
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麥蒔の日は笠寺に靜也 | 仝 |
名古屋留別 |
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樂書は禁制旅の我紙子 | 團友 |
元禄十七甲申年春 |