加舎白雄

『春秋稿』(第二篇)



天明2年(1782年)撰。序文藤原とし香。

春秋稿二篇 

  初会脇起
   俳諧之歌仙
芭蕉翁

春もやゝけしきとゝなふ月と梅

うぐひす寐こき篠のひとむら
白雄



なつかしやうめの咲ころの土佐日記
 奥州白石大呂

   我募(暮)齢を愛して

鶴とゝもにゑぐなつむべき田面かな
  武吹上東阿

   みやこのたよりに

うぐひすに老のひがみゝなかりけり
蕪村

朝市やうぐひすにうき籠つくり
   吹上雨后

風の柳人はこゝろにつかはるゝ
 相中飯田春鴻

山柴やのこるとも見へずはるの雪
栄路

   病後吟

つくり木の世につながれて芽をぞふく
  武前砂一羽

   母の慈愛をおもふ

子をもちてしりけり鳳巾のあげおろし
下総曽我野眉尺

はる雨やあとなくふりし網代杭
下総曽我野兎石

   加賀のたよりに

うき声やけぶりにみかふ窓のねこ
一菊

我とねこの胸毛くひぬくおもひかな
  信戸倉丈馬

   西上人の其きさらぎはしらず

涅槃会や花のかげにて樒うる
  武吹上橋駟

   はりまの国わたらひせしころ

春の夜や礒に妻よぶか亀の声
   江都百卉

眠るにやはるの小川のひやし馬
 相中但馬寛眠

   にあそぶ二句

春の夜や船にたく火も篝かと
大来

はるの海月なき宵も朧なる
白雄

船あげはみな薬荷よはるの風
  信戸倉簾雨

   蹴鞠のおりにふれて

うすものゝたもとをよるべくくれの蝶
 相中酒匂大梁

君見よやこよひ行厂たゞならず
   仙台也寥

舞かへす雲雀にはやきひと瀬かな
栄路

ものたらぬものには酒よ汐干がり
   戸倉鳥奴

   江都上巳

うつくしき花売見せよ桃のけふ
   橋駟

酒に闌て唇赤しもゝのやど
  信戸倉古慊

   山田の花見に まかりて

前やまといへるところも山ざくら
 いせ松阪斗墨

おしげなく折もて通る桜かな
   相中乙艸

木のもとを行方やせめてちるさくら
  武箕田文郷

うぐひすの桜に啼てはるくれぬ
 上毛前橋素輪



   四月二日むさしの国 玉河をわたるとて

玉河の波かけてけりころもがへ
   尾陽暁台

更衣二日の月に捲すだれ
栄路

   さくらは申さず

夏は来ぬおもかげさらぬ藤つゝじ
斗墨

   和田嶺にて

水音のしげみにこもる嶺かな
鳥奴

   四月四日鳥酔居士墓参 品浦海晏禅寺にて

子の数に涙落水うごくなつの露
白雄

ほとゝぎすもちこし酒のゆめにいる
春鴻

歳々やきくにかたるにほとゝぎす
   眉尺

新すだれあまり薄きにくもるかな
    ゝ

みじか夜やけうとき飯のたきならひ
 越出雲崎以南

雨の牡丹雨になやめるも風情なり
栄路

てり砂や礒はわか葉のうき根茨
  武本庄 似鳩

咲てしるあやめが中の花菖蒲
文郷

   塔の沢にて

はや川のみかさ見にいざ皐月雨
寛眠

   須广にて

浦さびて簾にふける秧鶏(くいな)かな
   文郷

   あつ盛の墓にて

日に焦れて旅人石つむ石の角
 ゝ

蝉啼てしきりに松の落葉かな
 相中田島蛙声

かた代に念仏申川辺かな
栄路



   春秋菴がたよりをもとむとて

文月の八日おかしきたよりかな
   麦二

道くらく水ながれゆくむら尾花
   仙台 白居

鶏の終にくひ折穂蓼から
   眉尺

秋の声しづかに聞ば楚辞をよむ
   也寥

夕かぜや埋れし谷の霧うごく
   素輪

境木や鵙の啼たつ朝ぐもり
   古慊

名月やあらはに梨子のかけはしご
   栄路

酔さめて又さむしろや秋の雨
  相中用田楚雀

いねのはな里は般若の風まつり
   東阿

かはれかしと実生の菊におもひあり
   文郷

行秋やひとのわらひのみゝにたつ
   眉尺

春秋稿二篇 

去来あり丈艸あり、其角は伊賀山のあらしをうらみ、嵐雪の旅行には不二をだに得見ざりしと。すへあまんの門葉声をあげ声を呑、かなしみをなに波の芦の節の間にこめてんかし。おもふにむかし今月今日

この日かずの故人をおもふしぐれ哉
   白雄

ふでにかはけるふゆの唇
   看之



こといろもなき寒菊の籬かな
   引間大露

水仙に瓦灯のくちをまはしける
   春鴻

あじろ家のたれとはでほしのひかりかな
   文郷

あだし野や霜にけさ見る月の欠
   嵯峨 重厚

榾焚て哀をつくす乞食かな
  上毛植栗 夜光

夜の閑うちくだくすみのひゞく也
   眉尺

しづかさや枯藻にまろぶ有あられ
   暁台

柴の戸やあけぬもくやし雪のくれ
夜光

そりこぼす白髪のたけやはるの風
  相州用田秋鳥

   四季混雑

しづかなり冬の夜あるく雪ちどり
   成美

くれぐれのもろ手に植る田づら哉
   雉啄

薄月やちどりのよせし水車
   雲帯

山吹や蕗の葉にかゝる水の音
可明

海鼠かく日中(カ)の海のゆるみ哉
   呉水

ちどり鳴やふいと悲しき羽箒
白雄

さゝ船や操綱氷る小夜あらし
呉水



ひやゝかや雨の竹戸に影うつる
  南都盛岡 素郷

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