加舎白雄

『春秋稿』(第四篇)



天明4年(1784年)冬、桃源庵文郷序文。巻末に「虎杖菴記」を載せる。

   春秋稿四篇 大

をちこちの桜に舫ふいかだ哉
白雄

雁いそがしのくれ霞む声
岨曉



   几辺のさくら

ひとごゝろおなじ桜にふかくいる
春鴻

ちりちらぬ月の夜桜ひとへなる
柴居

薄ぐれやさくらわかるゝ人の声
   古慊

杉の香やうつゝさくらに箸をかむ
   呉水

薄履や花の下露ふみきやす
下総曾我野眉尺

朝ざくら酒腸にしみるかな
   戸倉丈馬

しらじらと桜をうつす夜川かな
   武村山岨曉

ちる花に下行駒は月毛哉
  八王子星布

礒山やさくらちりゆく風のすぢ
  信上田雲帯

羚羊の岩ふむ花の木かげかな
   艸津鷺白

   鈴鹿の山越せし唄

関はむかし夜明のさくら静也
  信戸倉鳥奴

かへるさや鞍壺にたそ桜ばな
  信上田里彦

礒やまのさくらちりこむ干魚哉
   戸倉可明

岩がねに汐干に得たるかた鎧
   上田三机

かへるさや鞍壷にたそ桜ばな
  信上田里彦

松かぜや汐干の寄藻酢味噌せん
 相州酒匂大梁

わせ歌や雛のゆふべの捲すだれ
  信戸倉簾雨

母をなげく我にな見せそふる雛
 南総粟生覇陵

やま吹やかりにかけたる峡の橋
  武飯能轍之

春の水はるゆきやらず流るめり
 奥州白石麦羅

まぎれよる翠簾屋が門の人すゞし
   古慊

   ほとゝぎす

まぶしさす常陰や出しほとゝぎす
   星布

   なつの艸

夏艸のふみしだけども青き哉
   江都巨計

白げしの咲こぼれたる馬艚かな
  武吹上橋志

牡丹白くひとむら雨のひかりかな
  信上田井々

月は月夜はみじか夜とわかれけり
   尾陽暁台

おりおりに虱供養す夏百日
   中村鳥瀾

うき雲にかける植女の脊中哉
  信上田如毛

日に倦てなつの花鳥おもはるゝ
   栗菴似鳩

   伯先をとふとて伊那の郡にわけ入三句

つゝ鳥や岐蘇のうら山きそに似て
白雄

うき雲や道に白樫かむこ鳥
呉水

   はこねに湯あみせし頃

かんこどり啼やふたこの山とやま
呉雪

鷹のあと偸たつを見んかんこ鳥
  信上田麦二

さみだれや簀がきの先の艸の蔓
  武箕田文郷

草に倦て橋にたつたる夏野かな
  信上田雨石

   月いく夜もあかきこの夏を

うち鼓雨をこふ声月かなし
   伊勢斗墨

   我すめるあたりにふる川といへるあるを

ふる川に神輿をあらへ里わらは
  武吹上東阿

むさし野や艸七尺に秋のたつ
白雄

   甲斐の国わたらひして

星のあした織姫見する家等哉
橋志

   葉ながらの竹、葉ながらの杉、是を
   柱に是を垣に、なき霊きます此日と
   きけば、ことし三月一日になんみま
   かりけるこのかみをもむかふる心の
   初喪にかはらず、たゞ無期にうちふ
   しはべりて

霊まつやはしらさだめぬ宵の宿
白雄

晩鐘や旅のゆふべをやなぎちる
  八王子喚之

   歌仙行

一葉ふた葉のちは桐ともいはぬ也
白雄

井手かゝり来る霧の柴の戸
眉尺

笊漉の酒ほのかなる薄月に
柴居

蒟蒻売の声ぞをかしき
斜月

番かはり釘にかけたる古烏帽子
重厚

庇は凍にかたくづれして
呉明



世に交る我もたち木ぞ秋の風
一菊

身の秋をあらしにためすちから哉
  武妻沼五渡

いなづまの落こむ波のかへし哉
可明

露ふるひて稲妻を追野馬かな
 相中中村馬門

   鹿嶋の月見にまかりしころ、途中

旅ごろも香取にぬるゝ月の露
春鴻

新月にそばうつ艸のいほりかな
   几董

月満て大事に雲を離れたり
素輪

名月にさくら見て泣聖かな
馬門

   閑居

出る日もうとしあみ戸は雲に霧
伯先

たきつせにあらそひかねて霧晴ぬ
越後出雲崎以南

秋もやゝちらぬ哀を菊のはな
 信軽井沢何鳥

門に入て紅葉かざゝぬ人ぞなき
白雄

たゞ一羽鳥飛かげや秋のくれ
 相中用田楚雀

   也寥禅師の画に

松嶋をよく見て句なき翁かな
白雄

月花の老や今朝来ぬ初しぐれ
 南総粟生覇陵

夜の海こがらし遠くしづまりぬ
 南総屋形瓜州

行やかれ野蹄のあとに道をしる
江都

穴師吹夜やあら礒になきちどり
喚之

   春秋稿四篇 塊

うめはれて蓑に香をまく木陰哉
白雄

雪解や藪の中なるわすれ水
   重厚

春の月黒酒つくる夜なるべし
おなじく

磬聞は春月寒きおもひあり
   南部素郷

宵の雨海苔うつ家にひといりぬ
   江都成美

春の日やむ井桁によりて魚を見む
   蝶夢

はるの夜や啼きおとろへる猫の牙
古慊

陽炎にもぬけの小貝もゆる哉
 上毛植栗夜光

かげらふに陶つくる根小屋かな
春鴻

稚子の陽炎を追たもとかな
鳥奴

洲にかゝりて蕪花さく春の川
蛙声

   鎌都円覚寺にて

春しづかに飛蟻たつなる
蛙声

   ひとゝせの古人をかぞふ

日にふれて鶯の音にちからあり
也寥禅師

   秋日の閑をとふものは虎杖菴のある
   じになん。日数とゞめて一派の判者
   たるべき事を。それ鋭も鈍も生質也。
   たゞとしごろ誹に堅固なるを此日
    蕉翁の像前にうつたふとて

ことごとに我もしらずよ秋の艸
白雄

かぎりあらぬを霧の三日月
古慊

狩くらす小鹿の角にしるしゝて
春鴻

はづす筧の道をながるゝ
呉水

やきものに薬のまはる天気なり
柴居

柊のはなを絵にうつしとり
斜月



   秋日の閑をとふものは虎杖菴のある
   老人のおしえ長途いよいよ重し。に
   なひもて艸盧にかへり賀筵をひらく

秋風やおほあらましの栞艸
春鴻

露璞と菴を賀しけり
簾雨

月の興合器皿洗ふ筧して
鳥奴

牛に並びし馬のはなづら
滄烏



むら雨やわか葉の逕薄ぐらき
   楚明

   すみだ川に舟遊びして、むかしもの
   がたりのことの葉にすがる

船こぞり舞へどうたへど秋のくれ
  越高田甘井

鳩ほどにうぐひす見ゆる障子かな
   いせ滄波

   虎杖菴記

信中戸倉の駅に菴あり。虎杖とよぶはさせるよりどころあるにしあらねど、往てはかへる一千里、杖を握てかならず鉤爪のいきほひある事を。かついふ古慊坊がわかゝりし時なりけり、月の姨捨山に道しるべせしの幸、こと艸の名をとふにまかせしちぎり浅からずも、道に主一無適の心を起して北越行李のあとを慕ひ、洛の七条の僑居につかへて菜つみ水くみしつゝ、神風や伊勢の一葉菴に筆をとつては年をかさね、ともに故園を辞して四とせあまり、渠は我をちから、我は渠をちからに、帳つらぬ夏の夜、衾なき雪の夜も、ふたり旅子ぞたのもしきとうち吟じ、三嘆しては、なを三熊野や浦のはまゆふかたしきつゝ、須磨の藻しほ火いと寒かりしも、いまはむかし、せうそこの音信たえずしも、晨明山の桜さきぬ、千曲河のアユ(※「魚」+「條」)さびたりなど聞へけるもとしどしにて、ことし卯月のはじめやうやうと杖ひきならして、たゞに昔をぞかたる。あるじやゝ老たり、我白髪鏡にてらさば三千丈の愁、魂きゆるなるべし。ひと日籬外に杖を一双してユウ(※「火」+「習」)燿を詠じ、酒くみものす。一艸を得る虎杖菴とよぶのはじめなる事を、東都春秋菴のあるじ白雄いふ

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