芭蕉の句
目にかゝる時やことさら五月富士
出典は『芭蕉翁行状記』(路通編)。
元禄7年(1694年)5月11日、芭蕉は江戸を発って上方へ最後の旅する。
五月十一日江府そこそこにいとまごひして、川がやどせし京橋の家に腰かけ、いさとよふる里かへりの道づれせんなと、つねよりむつましくさそひたまへとも、一日二日さはり有とてやみぬ。名残惜げに見えてたちまとひ給。弟子ども追々にかけつけて、品川の驛にしたひなく
麥の穂を便につかむわかれかな 翁
箱根の關越て
目にかゝる時やことさら五月富士
『芭蕉翁行状記』(路通編)
箱根宿は東海道五十三次10番目の宿場。
くもり空で、とても富士など見えないと思っていた所、山を越える頃ふとその雲が切れて、実に目にもおざやかに富士の姿が現れた。
その山容の美しさ、このように予期もしない時にふと目に入った時こそ、殊更に美しく感じられるよ富士の峰は、という句である。
(芭蕉俳句大成)
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