加舎白雄
『春秋稿』(第三篇)
天明3年(1783年) | 7月8日、浅間山大噴火。 |
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10月27日、春秋庵は火災に遭う。 |
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11月12日、『春秋稿』(第三篇)此君序文。 |
春秋稿三篇 上 |
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空癖やおばなが末のゐのこ雲 | 白雄 |
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蝶のはむ薄鶏頭の浮根かな | 眉尺 |
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蔦うすく葛こきかぜの桂哉 | 信戸倉 | 簾雨 |
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日のかげや蔦の葉ごみのから卵 | 古慊 |
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鶏頭に連雀の尾の乱りかな | 八王子 | 星布 |
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隠室薄酒興 |
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はる雨やあとなくふりし網代杭 | 下総曽我野 | 兎石 |
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人は何と我はさびしき鶏頭花 | 信戸倉 | 鳥奴 |
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赤犬の常山花の中に吠る哉 | 嵯峨 | 重厚 |
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ひぐらしや盆も過たる墓の松 | 京 | 蝶夢 |
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差捨しまぶしに霧の雫かな | 相中 | 柴居 |
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いなづまや鞨鼓(かっこ)うつ家のさゝくろめ | 相州酒匂 | 大梁 |
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柿布着し男いくたりたのむの日 | 武箕田 | 文郷 |
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月 |
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堪ずしも薄雲出るけふの月 | 尾陽 | 暁台 |
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月かなしめくら歌よむ夜もすがら | 艸津 | 鷺白 |
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雨塘翁隠棲午明楼上 |
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月ひと夜出しほの森はわすれざる | 白雄 |
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白雲の月におくるゝこよひ哉 | 呉水 |
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月の栄あまりてひとつ星光る | 眉尺 |
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やくせしかひありてこよひの清光に白雄詞宗 |
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呉水坊を幽棲にまちほけしを |
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月せめてこよひばかりとおもひしに | 雨塘 |
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興つきず棲をくだつて江にのぞむ |
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みほ竹におもひぞとゞく江の月見 | 白雄 |
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汐やみつ遠浅もどる月の人 | 呉水 |
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江の月や小舟の綱に浪きよる | 眉尺 |
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脛かゆしたけかり山の艸かぶれ | 戸倉 | 丈馬 |
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ゆふ栄やおもひがけなきこぼれ栗 | 相中田島 | 蛙声 |
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さなきだに秋ふかき秋を鳩ふきす | 戸倉 | 可明 |
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秋風 |
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海のうへなにをかるへに秋のかぜ | 仙台 | 也寥 |
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海ばたや浮木をひろふあきの風 | 伊セ | 斗墨 |
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声かなし暴風にたちしよるの鶏(鶴) | 信上穂町 | 伯先 |
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春秋庵に武野行脚のるすをへて |
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むさし野や菊を心の日やり旅 | 春鴻 |
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挟山越けんころもとふ月 | 白雄 |
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冬ちかみしらふの鷹の餌に倦て | 重厚 |
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軒なる橿の雨をふくみし | 呉水 |
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蒸々と茶莚はこぶ門の朝 | 柴居 |
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土竜のあげし土をふみふみ | 斜月 |
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白ぎくの日にうつろはで咲にけり | 相中中村 | 馬門 |
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うすたれやかさも紅葉も雨の音 | 江都 | 成美 |
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露霜や甲斐の女馬の一つらに | 相中 | 春鴻 |
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高麗郡を流るゝこま川と云ふあたりにて |
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しぐるゝやこまの桴のおくれ乗 | 春鴻 |
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春秋庵に借瓶してやゝ貧に慣たり |
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炭買いに瓢たゝきて出しかな | 呉水 |
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うづみ火やかりもてありく寮隣 | 文郷 |
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十月廿七日の夜半にや、丙丁童子のために |
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ちかきわたり一掃してわざはひ池魚に及び |
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ぬれば、その夜の霜の覆ひなんいと浅まし |
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く、朝夕とひとぶらふ友どちが家らも時の |
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間に灰燼とぞなれりける。わがいほりに松 |
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あり、時雨の楯と愛せしふるとしをおもひ |
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めぐらして、先なみだを落しぬ。 |
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霜の声ものいへば竹のこたふなり | 白雄 |
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雪 |
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原之雪雪白砂に暮るゝ哉 | 武吹上 | 橋志 |
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二国橋上 |
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朝の間や橋より川へ雪かきす | 眉尺 |
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隨身の落馬興ある雪見哉 | 京 | 几董 |
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荊棘なすながれのうへのつらゝ哉 | 越出雲崎 | 以南 |
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くだら野や髪薙て行人にあふ | 喚之 |
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艸庵衾にかふる酒なし |
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薄ぶすま菊焚て客をとめてけり | 柴居 |
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朝かぜや軒ちかき梅にわすれ弓 | 眉尺 |
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はまかぜや社のうめの先匂ふ | 植栗 | 夜光 |
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梅の中に紅梅見ゆるやしきかな | 奥松島 | 丈芝 |
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人日 |
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わかな野に三輪の酒売出そめけり | 暁台 |
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風の柳やなぎも花のあるものを | 柴居 |
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はるの月雉(カ)裂はくもりけり | 盛岡 | 素郷 |
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淵明の五柳はしらず |
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青柳やたれのがれすむ村はづれ | 武吹上 | 東阿 |
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はるの柳瓶にいれてはものさびし | 江都 | 巨計 |
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春秋稿三篇 下 |
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ゆふすみれあゆみなれたる道のほど | 江都 | 栄路 |
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春の草むしらで門に蝶まけむ | 呉水 |
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はかなくて世を経んよりはわらびうり | 武蓮沼 | 似鳩 |
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はるの鳥に題す> |
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わするまじよ入江わするな帰る厂 | 也蓼 |
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巣のうちにあまる尾長の尾先哉 | 厚木 | 来之 |
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玄鳥啼て夜蛇をうつ小家かな | 京 | 蕪村 |
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古里や茶がらを捨る花のもと | 橋志 |
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桃咲て土居に酒うる女かな | 加賀 | 一菊 |
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折来しはさくらにあまるおもひかな | 江都 | 松什 |
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山吹や岩がね水の底あかり | 武飯能 | 轍之 |
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狭蓑ほす里のやすみや更衣 | 文郷 |
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ぬぐもつらし花にふれたる此ころも | 雨后 |
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衣さまさまほすを長女が卯木哉 | 乙艸 |
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舟苫の雨はものかは勧農鳥 | 蛙声 |
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かしらやむ夜もかたごゝろ杜宇(ほととぎす) | 呉水 |
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蜀魂(ほととぎす)晦日より後夜の鐘聞し | 柴居 |
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たそがれや市に印地のみだれうち | 柴居 |
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苗の長道にちつきの雨晴ぬ | 眉尺 |
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嵐つきて又わすれ啼夜のせみ | 蛙声 |
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竹睡日 |
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竹植る顔に葉わけの嵐かな | 素輪 |
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夜葛魚にかひある月の出しほ哉 | 馬門 |
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束鮒の流れおよぎに日のあつき | 馬門 |
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むしぼしの衣に蝶飛春恋し | 曾我野 | 民女 |
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うき海松や舟の徳しる離れ岩 | 白雄 |
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いけ鯛やうき木のごとき筌すゞし | 呉水 |
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舟ゆくまゝの芙峰市街にかくれたるを |
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うしろすゞし筑波はかくす家もなし | 白雄 |
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ひやし瓜母も目覚る頃ならん | 蛙声 |
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しづかさや団扇にくるゝ九十九髪 | 可明 |
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朔日の入日を秋のはじめかな | 也寥 |
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簾戸に秋たつけふの心哉 | 橋志 |
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杉の木は杉の香たてゝ秋たちぬ | 古慊 |
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生のこる身もまぼろしのとうろ哉 | 上田 | 麦二 |
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追加四時混雑 |
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雪解て隣の遠き山家かな | 江都 | 百卉 |
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わすれ音に啼妻猫や春のしも | 浪花 | 二柳 |
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馬のあとかれ野の野越いそがるゝ | 白雄 |
江都本石三町目 |
前川権兵衛 |
書肆 京寺町松原上 |
辻井吉右衛門 |