俳 書
『芭蕉句選』(春の部) ・ (秋之部)
元文4年(1739年)、刊。637句を収録。
風國か白地に泊船集をゑらみ、その足らさるを支考か笈日記尓補ふ。予はそれらを見て志るし。其餘りを聞て記し。都合六百三十余奈りけり。
風國か例にならつていまも五老井か譏りあらは、述而不作信而古しへを好むといはん。
五老井は森川許六のこと。許六は「此泊船手にとる物にあらず、学者偽書とすべし。」と『泊船集』を非難している。
春の部
空乃名殘おしまむと舊友乃來りて酒興志けるに元日の晝迄臥て曙見はつして
うへ野へ花見にまかり侍りしにひとひと幕うちさはきものゝ音小唄の聲さまさま奈りける蕎の松陰をたのみて
伊賀の國花垣の庄はそのかみ奈良の八重櫻の料に附られけるといひつたへ侍れは
花を宿にはじめ終や廿日ほど
物皆自得
花に遊ふ虻なくらひそ友寿ゝめ
蝙蝠も出ようき世の花に鳥
子に飽くと申す人には花もなし
龍門にて
龍門の花や上戸の土産せん
酒のみにかたらんかゝる瀧の花
松島の月見心にかゝりて住める方は人尓譲り杉風か別墅に移る
前途三千里のおもひ胸にふさかりて幻のちまたに離別のなみたをそゝく
夏の部
圓覺寺大顛和尚ことし睦月のはしめ遷化し給ふよし誠や夢のこゝ地せらるゝに先道より其角が方へ申し遣しける
日既に暮けれは封人の家を見かけて舎を求む三日風雨あれてよしなき山中に逗留寿
經堂は三將の像を殘志光堂三代の棺をおさめ三尊の佛を安置寿
松しま鹽かまの所に畫に書て送る且紺の染緒付たる艸鞋二足餞寿されはこそ風流のしれものこゝに至りて其實をあらは寿
國破れて山河あり城春にして草青みたりと笠うち敷きて時のうつるまてなみたを落し侍りぬ
陸奥に下らんととして下野の國また旅立ける那須の黒羽といふ所に翠桃何かし住みけるをたつねて深き野を分入るほと道もまかふはかり艸ふかけれは
伊豆の國蛭か小嶋の桑門去年の秋より行脚しけるに我名を聞て草の枕の道つれにもと尾張の國まて跡をしたひ來りけれは
栗といふ文字は西の木と書て西方浄土に便ありと行基菩薩の一生杖にも柱にも此木を用ゐ給ふとかや
山形領に立石寺と云山寺あり佳景寂寞として心寿み行くのみ
名にしおへる鵜飼といふも能を見侍らんと暮けていさ奈ひ申されしに人々稲葉能木陰に席をもうけ盃を挙て
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