旅のあれこれ文 学


芝不器男ゆかりの地

『定本芝不器男句集』

 春

汽車見えてやがて失せたる田打かな

永き日のにはとり柵を越えにけり

卒業の兄と来てゐる堤かな

うまや路や松のはろかに狂ひ凧

ふるさとや石垣歯朶に春の月

白藤や堀りやみしかばうすみどり

 夏

  中禅寺湖より戦場ヶ原への途上

山霧や黄土(はに)と匂ひて花あやめ

  戦場ヶ原三句

隠沼(こもりぬ)は椴(とど)に亡びぬ閑古鳥>

虚国(むなぐに)の尻無川や夏霞>

郭公や国の真洞(まほら)は夕茜>

風鈴の空は荒星ばかりかな

沢の辺に童と居りて蜘蛛合

桑原に登校舟つく出水かな

泳ぎ女の葛隠るまで羞ぢらひぬ

 秋

柿もぐや殊にもろ手の山落暉

川蟹の白きむくろや秋磧

  仙台につく みちはるかなる伊予
  のわが家をおもへば

あなたなる夜雨の葛のあなたかな

ふるさとの幾山垣やけさの秋

  病室にて 三句

秋の日をとづる碧玉数しらず

かの窓のかの夜長星のひかりいづ

夜長星窓うつりしてきらびやか

野分していづかにも熱いでにけり

 冬

  蔦温泉

八つどきの助炭に日さす時雨かな

寒鴉己(し)が影の上におりたちぬ

筆始歌仙ひそめくけしきかな

一片のパセリ掃かるゝ暖炉かな

大舷の窓被ふある暖炉かな

ストーブや黒奴給仕の銭ボタン

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