昭和30年 円虹を伴ふ機影雲に落し 雲の峰遠し空路の平凡に 炎天のかくふさはしき土佐に来し 旅にして蚊帳なつかしく寝まりけり 蟹の桶波に遊べる西日かな 梅雨晴の狂女が履けるちんば下駄 頬紅がをかし狂女が日傘さし 前よぎる蝶を狂女の目は追はず 昭和31年 句碑の句のその小六月来て見たり 由布が嶺の日裏となりし紅葉かな 昭和32年 帯塚はすでに古りたり木の実降る 行秋の八代日和蝶多し 英彦山の紅葉があての旅なりし 行秋の炭都の柳汚れた り 磧枯れ柿食ふ少女石に懸け 霧とべばすぐ雨比古の神の留守 キヤンプ早や閉して霧の流れをり 石垣はみな坊址や蔦紅葉 坊址も三日月池のあとも枯れ お遍路も椿林を抜けて行く 甘木なる虚子のゆかりの藤咲けり 黒川は温泉宿五軒に河鹿の瀬 昭和33年 柳原極堂翁を悼む(十月七日) その声のはたと消えたる秋深し |