高浜虚子の句

『小諸百句』

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   序

 昭和十九年九月四日鎌倉より小諸の野岸といふところに移り住み、昭和二十一年十月の今日まで尚ほ續きおれり。鎌倉の天地戀しきこともあれど小諸亦去り難き情もあり。二年間此地にて詠みたる句百を集めたり。

昭和二十一年秋
小諸山廬
高浜虚子

紅梅や旅人我になつかしく
昭和二十年四月十四日。立子と共に懐古園に遊ぶ。

薪を割る人に殘雪遠くあり
昭和二十一年三月十三日。迷子、孔甫、泰、章子と共に。

蓼科に春の雲今動きをり
昭和二十年三月十一日。偶成。

山國の蝶を荒しと思はずや
昭和二十一年五月十四日。年尾、比古來る。

桃咲くや足なげ出して針仕事
     昭和二十一年四月二十六日。二十五日素十と共に歸諸。此日小諸散
     歩所見。

見事なる生椎茸に岩魚添へ
昭和二十年三月十六日。

熱き茶をふくみつゝ暑に堪へてをり
     昭和二十年六月二十八日。宮坂古梁主催小句会。小諸懐古園内、山
     城館。

虹立ちて忽ち君のある如し

虹消えて忽ち君の無き如し
     昭和十九年十月二十日。虹立つ。虹の橋かゝりたらば渡りて鎌倉に
     行んかといひし三國の愛子におくる。

誹諧の火は涼しとも暑しとも
昭和二十一年六月三日。俳小屋開き。

秋晴の殘間仰ぎて主客あり

諸君率て小諸町出て秋の晴
昭和十九年十月九日。土筆会員と近郊散策。

大根を鷲づかみにし五六本
昭和二十年十一月四日。土筆会のつゞき。

一塊の冬の朝日の山家かな
昭和十九年十一月十日。同上。

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