俳 書
『誹諧續寒菊集』(杏廬編)
両 吟 |
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五人ぶちとりてしだるゝ柳かな | 野坡 |
日より日よりに雪解の音 | 芭蕉 |
春 之 部 |
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鶯やきのふの藪は風ばかり | 野坡 |
呉竹に花はなけれど鳥の声 | 杉風 |
梅咲や天窓(つむり)の上の人通り | 野坡 |
梅の花あの月ながら折ばやな | 惟然 |
梅かゝや見ぬ世の人に御意を得る | はせを |
此句ハ楚舟亭におハしたる時はしめて |
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まミへ(え)たる人に對してとのはし書有 |
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尼 |
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梅かゝは睡りを誘ふはしめかな | 諸九 |
溝越して手をふる猫の別かな | 野坡 |
大津の艸上子に留主をあづけて |
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草士が大津の留守を見舞ふ |
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飛かはづ草枕より草まくら | 嵐雪 |
名虎嘯説 |
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村竹に虎の欠(あくび)や春の風 | 嵐雪 |
笑はれに出ばや花に老の皺 | 杉風 |
見ませぬといふてだますか花盛 | 野坡 |
花見とはおぼしめすなら南無薬師 | 仝 |
田上の尼の庵に |
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花見にまねかれ侍りし時 |
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海を見た目付さへせず花の雲 | 野坡 |
餞別東華坊東行 |
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此こゝろ推せよ花に五器一具 | はせを |
其かへし |
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もゝすぢりゆがみて臥ん花の陰 | 支考 |
夏 之 部 |
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子規蟻も名乗を藤四郎 | 野坡 |
小坊主がひやりとさせしあやめ哉 | 野坡 |
諸九尼かみちのく行脚の |
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帰るさを石山にとゝめて |
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簔笠もほといて祝ふちまき哉 | 南花 |
つくしなる人にしらぬ火といふ事 |
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を句にせよと乞はれ侍りて |
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しらぬ火や我が湖の蛍ども | 丈艸 |
岱水亭影待に |
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雨折々おもふ事なき早苗哉 | はせを |
神苗やけふをうき身の忘れ草 | 蓼太 |
羽織さげて駕(のりもの)を出る暑哉 | 杉風 |
秋 之 部 |
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或人のもとにて姫こせの |
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□ひに打ましりて |
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>明月やおにこもるへきおくもなし | 諸九 |
大橋の袂は屋形舟其数を |
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しらずあつまりさはがしき聲 |
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に飽きて、ばせを庵にて閑なる |
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影を見んと、おのおの立歸りて |
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水草木月の数見る今宵哉 | 杉風 |
木犀の香は七夕の追風歟 | 野坡 |
魂祭みな若い衆につかはるゝ | 野坡 |
送り火や届くにしても水の泡 | 諸九 |
明くる夜やまたなかゝれと鳴竈馬 | 諸九 |
忍ひ人にまた寐ぬ寐ぬと砧哉 | 柳几 |
尻飛びに闇の螽や穂の頭マ | 野坡 |
草茎に鵙の心はしられけり | 野坡 |
くれなゐもかくては淋しからす瓜 | 蓼太 |
花山の僧正の我黒髪はといへるにはあら |
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で、めでたくかしらおろしたる人に申お |
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くり侍る |
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しら髪まで見て剃る秋のつぶり哉 | 野坡 |
竜が岡山姿亭 |
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蕎麦もミてけなりがらせよ野良の萩 | はせを |
支考死ぬと先うこくなり萩の露 | 野坡 |
此句ハ西花坊世をさりしなど、人々の沙汰 |
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したる時の吟なり |
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遊ぶなら酒振舞んあきのくれ | 野坡 |
紅葉見や猿つくばいの御所女中 | 野坡 |
冬 之 部 |
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生ながらひとつにこほる生海鼠哉 | 芭蕉 |
白雪の中に燈ともす野守哉 | 蓼太 |
ほどけば匂ふ寒菊のこも | 岱水 |
p角子の実ハ其まゝの落葉哉 | はせを |
ばせを庵にて |
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木の葉散り雪降うへに散る木の葉 | 野坡 |
ひそやかに鼻うちかみて御佛名 | 諸九 |
風誘ふ音は紙子の立居かな | 杉風 |
夢の間につい皺のよるふすま哉 | 諸九 |
冬こもり又寄り添ハん此はしら | はせを |
かへし |
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冬籠けふは其角や参るらめ | 野坡 |
おもひ羽やほしては鴛の又ぬらし | 諸九 |
岱水亭新宅にて |
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生壁に畳も青き火燵哉 | 野坡 |
古翁の像をかけて |
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無名庵に年を守る |
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除夜の燈や我か月の神花の神 | 浮風 |
雜 之 部 |
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トウ山(※「トウ」=「口」+「荅」)産業の為に江府に |
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居る事三月。予ハかれが朝寐をおどろかせば、 |
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かれは予が宵寐をたゝきて方寸をくみしり、寐 |
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食をともにしたる人に似たり。けふや故郷へ帰 |
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るを見おくらんと、杖を曳きてよろぼひ出でた |
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るに、秋の名残りもともにお(を)しまれて |
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むさし野やさはるものなき君が笠 | はせを |
送 別 |
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何となふ柴吹風もあはれなり | 杉風 |