越智越人
『鵲尾冠』(越人撰)
此發句は芭蕉、江府船町の囂(かまびすしき)に倦 |
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み、深川泊船堂に入ラれし、つぐる年の作な |
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り。草堂のうち茶碗十ヲ、菜刀一枚、 |
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米入るゝ瓢一ツ、五升の外不レ入、名を |
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四山と申候。 |
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似合しや新年古き米五升 | 芭蕉翁 |
雪間をわけて袖に粥摘 | 其角 |
紋所その梅鉢やにほふらん | 杜國 |
其角句は類柑子に出たる付合也 |
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杜國句は土岐一癖子家にて、椋梨一雪 |
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杜國が奇作を聞ンと、難句五句出しけ |
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る其一ツの付合也。 |
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元日の炭賣十ヲの指黒し | 其角 |
吹雪を祝ふあたらしき簔 | 杜國 |
辛崎の松は花より朧にて | 芭蕉 |
芭蕉・其角句は人の知たる發句也。 |
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杜國句は予、芭蕉と杜國草堂にて、 |
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三吟の時の付合なり。 |
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世の雜煮喰ふ時、雜水をくらふ草 |
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堂に |
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のさばつて肱を曲たり宿の春 | 越人 |
傳に曰袴着ぬ物ぞ宿の春 | 仝 |
神祇伯 |
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青柳の眉かく岸の額かな | 守武 |
古 |
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天花菜(ツクツクシ)摘ムとて蔓拾ひ梟 | 荷兮 |
濃垂井宿 |
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相撲とる名ぞ憂りけり菫草 | 規外 |
白芥子や時雨の花の咲つらん | 芭蕉翁 |
古 |
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朝顔は扇の骨を垣ほかな | 其角 |
古 |
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草の葉にころび遊べや露の玉 | 嵐雪 |
春は芭蕉翁と同じく、吉野の花、 |
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須磨・明石の朧月に杖を引、鞋を踏 |
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みしも射ル矢のごとくにて、翁は深川 |
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の芭蕉菴に歸リ、我は伊良古の吟 |
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など嘯きけるに、其所々に著し檜 |
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笠の壁にかゝりけるを見て、越人 |
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が方へ申つかはしける |
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年の夜や吉野見て來た檜笠 | 杜國 |
杜國が不幸を伊良古崎にたづねて、 |
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鷹のこゑを折ふし聞て |
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夢よりも現の鷹ぞ頼母しき | 芭蕉 |
鶴の巣にあらしの外のさくらかな | 芭蕉 |
二度草堂をいで、尾陽に來るとき |
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箱根にて |
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山路來て何やらゆかし菫艸 | 芭蕉翁 |
蝶行かたやさくら咲らむ | 越人 |
野渡无レ人舟自横といふ詩は無形の畫 |
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なり。空しき舟に鷺をのせて及第せし |
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畫は有形の詩也。此景情飲水冷暖自 |
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知するが如く、しる人は知り見る人は |
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見る。されば西行上人は秋の夕ぐれを、 |
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岨の立木の鳩の聲に五百年ノ前に聞、 |
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芭蕉老人は枯枝の烏に秋の暮を五百年 |
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の後に見る。たゞ一器の水を一器に移 |
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せり。 |
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枯朶に烏のとまりけり秋の暮 | 芭蕉翁 |
木棉(キワタ)且ツゑむ田の中の畑 | 越人 |