鎌倉圓覺寺大巓和尚、俳名ヲ幻呼ト云、其角師トスル事新山家集に見エタリ。貞亨元年甲子正月死、翁卯月ノ頃尾張ノ國ニテ是ヲ聞テ卯の花拜ムの吟有リ。
『蕉門諸生全伝』(遠藤曰人稿) |
その比円覚寺大巓和尚と申が、易にくはしくおはしけるによりて、うかゞひ侍るに、或時翁が本卦のやうみんとて、年月時日を古暦に合せて筮考せられけるに、萃といふ卦にあたる也。是は一もとの薄の風に吹れ、雨にしほれて、うき事の数々しげく成ぬれども、命つれなく、からうじて世にあるさまに譬ヘたり。さればあつまるとよみて、その身は潜カならんとすれども、かなたこなたより事つどひて、心ざしをやすんずる事なしとかや。 |
礼者敲レ門ヲしだくらく花明か也
『虚栗』(其角編) |
此僧予に告げていはく、圓覺寺の大顛和尚今年陸(睦)月の初、遷化し玉ふよし。まことや夢の心地せらるゝに、先道より其角が許へ申遣しける。 |
梅こひて卯花拝むなみだ哉 |
『野ざらし紀行』(訃報) |
草枕月をかさねて、露命恙もなく、今ほど帰庵に趣き、尾陽熱田に足を休る間、ある人我に告て、円覚寺大顛和尚、ことし睦月のはじめ、月まだほのぐらきほどに、梅のにほいに和して遷化したまふよし、こまやかにきこえ侍る。旅といひ、無常といひ、かなしさいふかぎりなくて、折節のたよりにまかせ、先一翰投二机右一而巳 |
梅恋て卯花拝ムなみだかな はせを |
其角宛書簡(貞亨2年4月5日) |
寄幻吁長老 老僧の笋をかむなみだかな 其角 |
凡河内躬恒の歌に「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそみえね香やはかくるる」がある。 |