かく吟して我に力を付けるに、予は十町斗のかけ路につかれて、
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見習ひの行脚は暑し九折
| 文雄
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寶暦癸未之夏
| 陽明社 文雄書
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辞世
蕉門三世 湖白菴浮風居士
つれもありいまはの空にほとゝきす
| 千鳥菴後婦
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暮むつはその暁やほとゝきす
| 諸九
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追 悼
湖白菴浮風居士、此六とせ我九十九菴に仮寐して諸州の月花にあそひ給ひしに、後の卯月末つかたより、例ならぬいたはりに、都浪華の門葉の人々残るかたなき神薬もしるしをうしなひ、皐月中の七日、入日とゝもに連もありの辞世を残したまひぬ。この老人のはなしも多かめれと、古老のかたかたよくしれるところなれはと、いたみの一章に袖をしほり侍るのみ
| 洛九十九菴
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ほとゝきす其一聲をかたみとは
| 文下
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鶯や佛の國へ音を入る
| 蝶夢
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蚊を追ふてあかぬ時あり枕經
| 南花
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百ケ日にもとゝりをはらひて
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| 諸九尼
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掃捨て見れは芥や秋の霜
| 蘇天
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九州行脚の名残に廟参して
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行秋のさらはも松の谺かな
| ゝ
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その行脚 下
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諸邦追悼
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| 湖南
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枝に葉にたへぬ涙や栗の花
| 文素
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けふは又淋しく悲しかんこ鳥
| 可風
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哀 傷
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| 備中倉敷
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五月雨や傘より上は凌けとも
| 暮雨
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湖白菴主をいたむ
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| 藝州廣島
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はゝきゝやまたぬれて居るきみか笠
| 風律
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初月忌、連中各つとひ集り、西徳寺にして法
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筵の俳諧を催して
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此道と覗けは濡るゝ泉かな
| 文雄
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| 住持
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連は空行蓮の葉の笠
| 水翁
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きさらぎ中の七日、諸九尼の笈に守まいら
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せる浮風居士の画像を閑室の床にかゝけ、
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茶菓をすゝめ句をさゝけて往年を慕ひ侍る。
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花生ももゆるなみたの木の芽かな
| 文雄
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煎茶の友のたらぬ春雨
| 諸九
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郭公の一聲に心つくしの枕をおとろかし給ふ
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湖白庵を哭し奉る
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橘をこゝろ尋ねや鳥の聲
| 杏扉
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湖白庵の法筵、諸九尼の行脚を待て青陽菴
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の窓下に膝を折て
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| 七十七翁
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啼捨をおしむ世なれや杜宇
| 杏雨
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汗に潤ふ襟の有明
| 諸九
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山越の茶に来る水の封を解て
| 杏扉
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ほとゝきす見もせぬ雲や此別れ
| 既白
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| 筑後善導寺
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つくつくとひとり醒たり蓮の花
| 而后
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諸國混雜
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浮風のぬし、ほとゝきすを句の終りとして、
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身まかりたまひぬと聞ゆ
| 東武
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月は西枕は北へほとゝきす
| 凉袋
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ことし中夏の頃、洛下湖白菴の主人、つれもありいまはの空にほとゝきすと一章をとゝめて無為に帰る。予は東西の旅にあり、漸神無月の半、柴門に草鞋をほとけは、可因子より告越されし文さえ干あへぬ五月雨の空を今はたおもひ出て
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