俳 書
『熱田皺筥物語』(東藤編)

| 桑名に遊びてあつたにいたる |
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| あそび来ぬ鰒釣かねて七里迄 | 芭蕉 |
| 旅亭桐葉の主、心ざしあさからざりければ、しばらくとゞまらせむとせしほどに |
| 此海に草鞋(わらんぢ)すてん笠しぐれ | 芭蕉翁 |
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| むくも侘しき波のから蠣 | 桐葉 |
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| 凩に冬瓜(とうぐわ)ふらりとふらつきて | 東藤 |
| 三吟一巻満しぬ。次の日、 |
| 馬をさへ詠むる雪の朝かな | 翁 |
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| 木の葉に炭を吹おこす鉢 | 閑水 |
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| はたはたと機織音の名乗きて | 東藤 |
| 是も同じ。又神前の茶店にて、 |
| しのぶさへ枯て餅買ふ舎かな | 翁 |
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| しわびふしたる根深大根 | 桐葉 |
| 尾張の国あつたにまかりける比、人々師走の海みんとて船さしけるに |
| 海くれて鴨の声ほのかに白し | 翁 |
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| 串に鯨をあぶる盃 | 桐葉 |
| おなじく二年の春、又わらんぢをときて、景清が屋敷をとぶらひ、頼朝誕生の旧跡見んとのたまひければ、人々それに応ず。道のほとりにて、 |
| つくづくと榎の花の袖にちる | 桐葉 |
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| ひとり茶を摘む藪の一つ屋 | 翁 |
| 翁これより木曽に趣(赴)、深川にかへり給ふとて、 |
| 思ひ出す木曽や四月の桜狩 |
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| 京の杖つく岨(そば)の青麦 | 東藤 |
| おなじく四年の冬来り給ふとて、 |
| 寐覚は松風の里、呼続は夜明てから、笠寺は雪の降る日 |
| 星崎の闇を見よとや鳴千鳥 | 翁 |
| 此句、輩(ともがら)の土産に見せたまひ、まづ御終(修)覆ありし(う)でたまひて、 |
| 磨(とぎ)直す鏡も清し雪の花 |
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| 石しく庭の寒(さゆ)るあかつき | 桐葉 |
| 程なく幻住庵を見捨、武陵に趣たまふ折、支考・桃林(隣)の二法師をともなひて梅人子が許へおはして、 |
| 水仙やしろき障子のとも移り | 翁 |
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| 炭の火ばかり冬の饗応(もてなし) | 梅人 |
| 又、貞徳・宗鑑・守武の画像に東藤子讃を乞けるに、「何を季に、なにを題に、むつかしの讃や」とゑみたまひ、やがて書てたびけり。その句、其こと葉書、 |
| 三翁は風雅の天工を受け得て、心匠を万歳に伝ふ。この影に遊ばんもの、誰か俳言を仰がざらんや |
| 月華の是やまことのあるじ達 | 芭蕉翁 |
| 白鳥山 |
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| 何とはなしになにやら床し菫草 | 翁 |
