俳 書

『もとの水』(重厚撰)


落柿舎重厚自序。夏目成美校正。天明7年(1787年)、今日菴安袋跋。

95句が収録されているが、そのうち存疑78句、誤伝5句。

 天明7年(1787年)、重厚が20年の旅行中に『芭蕉句選』にもれた芭蕉発句を拾い集めた手牌を立砂に与えた。

 寛政7年(1795年)、芭蕉百回忌記念に立砂が『もとの水』を上梓した。

我俳時に旅の癖侍りて、東西にはしることすでにはたとせあまり、其とし月はせを翁の句選にもれたるほくひろひ物せる手牌あり。ひそかに兎園竜事とよぶ。さるをことしかしま行脚の頃、下つふさの国馬橋の立砂に是をあたへて、世にしらしむることは、ゆく水のながれ絶ず、しかもゝとの水にあらざるたぐひなれとて、双帋の名をも亦もとの水といふ。

芭蕉翁發句集

   季吟勧進巻頭

和哥の跡とふや出雲の八重桜

   遁世のとき

雲とへたつ友にや鴈の活わかれ

   猿雖に對して

もろもろの心柳にまかすへし

正月も美濃と近江や閏月

哥よみの先達多し山さくら

   贈杜國

笠の緒に柳綰る旅出かな

   嵐やま

花の山二町のほれは大悲閣

花の陰硯にかはるまる瓦

春かせやきせるくはへて船頭殿

古寺の桃に米ふむ男かな

   上醍醐にて

留守といふ小僧なふらん山さくら

暮遅き四谷過けり帋艸履

   芳野を下る時

飯貝や雨に泊りて田螺聞

   しなのの洗馬

つゆはれのわたくし雨や雲ちきれ

   画賛

裾山や虹吐あとの夕つゝし

子規なくや黒戸の濱ひさし

姨石に啼かはしたる雉子哉

名月や鶴脛高き遠干潟

淋しさや釘に懸たるきりきりす

   みちのくにて

くりからや三度起ても落し水

   中秋のころ敦賀に止宿雨ふりければ

月いつこ鐘は沈ミて海のそこ

一疋のはね馬もなし川千鳥

冬かれや世は一色に風の音

ゆく年や薬に見たき梅のはな

夏成美校正并書

天明七年初冬 今日菴安袋

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