沢露川
『北國曲』(巻耳撰・燕説補)
享保6年(1721年)、露川は門人燕説を伴って北越地方を行脚。
享保7年(1722年)、『北國曲』(巻耳撰・燕説補)。遊園堂露沾序。
北國曲集 巻之一
|
| イセ山田
|
似我蜂の巣や罪多き此世界
| 曾北
|
| ミノ大垣
|
しとしととしばらく降て梅の花
| 此筋
|
|
搗立に白粉かけてや春の月
| 居士
|
| ナゴヤ
|
涅槃會にはづれまひ迚燕かな
| 五條坊
|
| 越後高田
|
美尾谷が錣になくや猫の聲
| 巻耳
|
| ナゴヤ
|
櫻には餅こそつかね桃のはな
| 巴雀
|
| 江戸
|
下風とはいへどふかぬよ雲の峰
| 衰杖
|
| 奥ъK折
|
松明の聲や夜討の夜水引
| 馬耳
|
| 筑前内野
|
篝火に目を取られたる鵜船かな
| 助然
|
| 筑前博多
|
凉しさや水影見ゆるところ迄
| 女 まん
|
|
北國曲集 巻之二
|
|
宿替に猫も流浪や秋の暮
| 正秀
|
| 鴫立澤
|
白雲によごれ目早し後の月
| 朱人
|
| 豊後日田
|
法談は其座に置て踊かな
| 野紅
|
| 同所 女
|
織物の糸ぬく音やきりぎりす
| りん
|
| 大坂
|
女郎花側の旅寐やかゞ見やま
| 野坡
|
|
いかにとも山路の菊のあぶら筒
| 露沾子
|
| 奥сXカ川
|
氣ちがひの直道戻る時雨かな
| 晋流
|
咲迄は梅に慮外や雪のはな
| 嵐技
|
北國曲集 巻之三
|
|
表 山中
|
| 居士
|
五月雨の爰ぞ咄しの無盡藏
|
|
茶袋ほどの蚊屋に一ぱい
| 桃妖
|
|
餘興
|
|
切麥のまちかね山やほとゝぎす
| 桃妖
|
|
かけあふた秤のうへや二つ星
| 仝
|
|
表 元吉
|
| 居士
|
傳ひ來てねまる葭原雀かな
|
|
肥たが貴からでなでしこ
| 半睡
|
|
朝嵐鍬つかふ手もなぐさみに
| 左上
|
|
餘興
|
|
世の願ひ糸の限りや鳳巾
| 若水
|
|
白壁の霜やこぼれて蔦の網
| 仝
|
| 女
|
池の雪鴨あそべ迚明てあり
| ちよ
|
|
歌仙一折 井波
|
| 居士
|
たちばなの後に物あり藤ばかま
|
|
袂に影のたまる初月
| 桃化子
|
|
鴈金を千疊敷によびかけて
| 路健
|
|
餘興
|
|
手の物は落さぬ風の柘榴哉
| 路健
|
|
歌仙一折 魚津
|
| 居士
|
末座から諫言申す野菊かな
|
|
青貝壁に秋しらぬ家
| 倚彦
|
遊誓法山金前寺万景縮看一望中
|
|
涼しさの要やてらのかねが崎
| 居士
|
|
日は若葉月の波うつ金が崎
| 無外
|
敦賀の湊は仲哀天皇の御船さしよせたまひし跡絶ず、數千艘の出舟・入船に浦富み里賑ひて、北國一二の浦とかや。山は西方に丸く、海を圍みて廣き事六七里、其奇麗さ底の鯛・鱸もかぞへつべし。名にあふ色の濱はますほ貝に名高く、常宮の燈籠たえず明にして、氣比の鳥居聳て青葉をうがち、風も神徳のふかきを薫るならん。櫛川の松原は汐風に練れ、木毎の風流藍を流すかと。金が崎には新田將軍の昔を語り、天筒の峯は月に便よく、安玉の清水の歸帆を見をろす。野坂道口春によろしく冬におかし。佳景ひとつとして手を打ておどろかざるはなし。熊澤氏の何某すぐられたる十題に、
道口行人
|
|
浮沈む笠や霞のみちの口
| 無外
|
|
金崎晩鐘
|
|
明六つや紅葉碎けて金が崎
| 居士
|
朝六つの橋と聞て、
|
|
あさむつの橋や田植のむら雀
| 居士
|
吉祥山永平寺に詣
|
|
諫鼓鳥山は千衆を入れながら
| 無外
|
皐月六日三國に入て、幡東昨嚢子をた
|
づねて、永昌寺をあるじとす。新保・瀧
|
谷・三國の中にあそぶ事日あり。
|
|
藻の花の尻のすはりや水の縁
| 居士
|
|
翌日興行
|
|
夏をもつて鳴る里もあり賤の聲
| 無外
|
|
日和山にのぼりて
|
|
あやかしものくや五月の日和山
| 居士
|
|
兩濱讃
|
|
海より北を三國といふ。海よりみなみ
|
を新保と云。あなたよりはこなたの景
|
をうらやみ、こなたよりはあなたをう
|
らやむ。是もろこしの兩婦が紅顔をあ
|
らそふに似たり。まねかれては行、く
|
どかれては歸る。
|
|
海ひとつへだてゝまねく扇子哉
| 居士
|
|
東盡坊十題中 七塚
|
|
晝顔のつなぎに咲や七ツ塚
| 無外
|
|
十四日、大聖寺のかたに杖を引。砂鉾
|
四里をたすけて、汐こしの松見せんと
|
や、見送り十余人、未の下刻に着。松
|
陰に物打敷て盃取かはし、おのおの汐
|
こしの松に矢たてを動す。
|
|
汐こしの松や葉で漉す風凉し
| 居士
|
|
木綿帆の汐こし凉し鷺の聲
| 無外
|
湯本の山中に移る。主の桃妖子と紙面
|
に談(マゝ)る事廿余年、其宅に入て雜
|
話の口を失ふ。
|
|
五月雨の爰ぞ噺の無盡藏
| 居士
|
|
何某長氏は先師授名の門人、四十有餘
|
にして流行に後れざるは、是桃妖の二
|
字むなしからざる物か。
|
|
植られて涼しや竹の獨だち
| 無外
|
蟀 橋
|
|
かうろぎの細き橋あり秋の霜
| 無外
|
|
醫王林花
|
|
糸遊にやしなふ華の林かな
| 居士
|
|
北國の名山那谷寺にまふでゝ、折ふし
|
むら雨を聞く。
|
|
那谷寺の雨や廬山の蝉の聲
| 同
|
|
石山の圖や吹立て雲の峰
| 無外
|
二十五日小松の連衆に對す。
|
|
小松とは風ににほひの便より
| 居士
|
|
八幡に詣でゝ實盛の甲冑を見る。
|
|
空蝉のなみだや生た時よりも
| 同
|
|
麥畑の音にこそ鳴かねかぶと虫
| 無外
|
安宅舊關
|
|
麥秋の關はゆるさじ勸化牒
| 居士
|
|
盗人の關に繩とや瓜ばたけ
| 無外
|