芭蕉の句
鎌倉を生て出けむ初鰹
出典は『葛の松原』。
詩哥に名所を用る事たやすからじ。「かまくらの初鰹」は、支考が東より帰けるとき、かゝる事ありとて見せ申されしを、「生て出るといふに鎌倉の五文字、又その外あるべくとも承わ(は)らず」と申したれば、うれ敷きゝ侍るとて阿叟もにくみ申されしが、みづからも徼幸にいひ明しぬらむ。
元禄5年(1692年)、芭蕉49歳の時の句。
山口誓子は、この句について書いている。
この句は私の好きな句だ。鎌倉で捕れたとき、そのはつ松魚はいきいきしていた。江戸へは早荷でとどけられたろう。若狭の鰈を京都へとどけるのに、若狭街道を走って搬んだように。
しかしこの句は、江戸で作られた句にちがいない。初松魚を喜ぶ江戸の人々を代表して詠ったような句だ。「鎌倉をいきて出てけむ」は芭蕉の言葉であると同時に江戸の人々の言葉である。
富塚八幡宮の句碑
初鰹は当時鎌倉に水揚げされ、戸塚宿を通って江戸に運ばれたそうだ。
『類柑子』、『俳諧一葉集』には「鎌倉は」とある。
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