俳 書
『東華集』(東華坊支考撰)
東華集 上 |
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山城 |
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洛陽 |
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うかれ出て山替するか本とゝきす | 去來 |
梅津かつらの竹の子の雲 | 支考 |
六十の賀をあやかりに樽さけて | 正秀 |
それは是はの狂歌折々 | 野童 |
窓揚て月を落さは野のやうに | 風國 |
鶉の聲の江をへたてたる | 野明 |
ひたるさを志らてや秋を好むらん | 泥足 |
風に一葉の身こそやすけれ | 爲有 |
近江 |
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膳所 |
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麥の穂やさくらについて啼烏 | 洒堂 |
うくゐ凉しき水底の岩 | 支考 |
彦根 |
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うそつきの世の中になる牡丹哉 | 許六 |
小鮎の鮨の蓼にまたるゝ | 支考 |
勝手むき若衆仕舞に拭たてゝ | 李由 |
西美濃 |
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大垣 |
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途中から鳴出す空や郭公 | 木因 |
麥の穂つらのやまはむら雨 | 支考 |
仝 |
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諫鼓鳥鳴や寺地のかけはなち | 荊口 |
胡麻の日照に荏こらへぬ空 | 支考 |
鼾かく飛脚は食におこされて | 斜嶺 |
手をひろけたる後家の身帶 | 遊糸 |
夜遊も伊勢の山田の火燵時 | 支浪 |
鹽にもならぬ雪の降なり | 文鳥 |
尾張 |
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名古屋 |
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麥からの笛や布袋の夕涼み | 露川 |
臍を氣遣ふ六月の雲 | 支考 |
仝 |
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うとんうつ隣にくもる樗かな | 素覧 |
田を植た手に赤き袖口 | 支考 |
鳴海 |
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華を吹風やかたまる櫻の實 | 知足 |
出茶屋を荷ひありく灌佛 | 支考 |
鷺のつく清き流に魚飛て | 如風 |
入日の影に山の赤兀 | 蝶羽 |
初茸にたゝ一雨をまつ斗 | 安宣 |
灸志て戻る小僧漸寒 | 龜世 |
もらふたる鏡見て居る窓の月 | ボク言 |
菊をいはふて志まふ椀家具 | 自笑 |
三河 |
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新城 |
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風の香の出かけや軒の菖蒲草 | 白雪 |
長者夫婦のむかしたちはな | 支考 |
小僧まて馳走のうへに寐ころひて | 露川 |
一里の中に見ゆる砂川 | 桃先 |
豆畑の痩て乏しき秋のかや | 雪丸 |
また新蕎麥の湯もからぬ也 | 扇車 |
毛氈はとなたのこさるけふの月 | 桃後 |
すへて伏見はこひた風俗 | 白紙 |