俳 書

『東華集』(東華坊支考撰)


元禄13年(1700年)9月、『東華集』(東華坊支考撰)刊。

東華集 上

山城

      洛陽

   うかれ出て山替するか本とゝきす
   去來

    梅津かつらの竹の子の雲
   支考

   六十の賀をあやかりに樽さけて
   正秀

    それは是はの狂歌折々
   野童

   窓揚て月を落さは野のやうに
   風國

    鶉の聲の江をへたてたる
   野明

   ひたるさを志らてや秋を好むらん
   泥足

    風に一葉の身こそやすけれ
   爲有



近江

      膳所

   麥の穂やさくらについて啼烏
   洒堂

    うくゐ凉しき水底の岩
   支考



      彦根

   うそつきの世の中になる牡丹哉
   許六

    小鮎の鮨の蓼にまたるゝ
   支考

   勝手むき若衆仕舞に拭たてゝ
   李由



西美濃

      大垣

   途中から鳴出す空や郭公
   木因

    麥の穂つらのやまはむら雨
   支考



      仝

   諫鼓鳥鳴や寺地のかけはなち
   荊口

    胡麻の日照に荏こらへぬ空
   支考

   鼾かく飛脚は食におこされて
   斜嶺

    手をひろけたる後家の身帶
   遊糸

   夜遊も伊勢の山田の火燵時
   支浪

    鹽にもならぬ雪の降なり
   文鳥



尾張

      名古屋

   麥からの笛や布袋の夕涼み
   露川

    臍を氣遣ふ六月の雲
   支考



      仝

   うとんうつ隣にくもる樗かな
   素覧

    田を植た手に赤き袖口
   支考



      鳴海

   華を吹風やかたまる櫻の實
   知足

    出茶屋を荷ひありく灌佛
   支考

   鷺のつく清き流に魚飛て
   如風

    入日の影に山の赤兀
   蝶羽

   初茸にたゝ一雨をまつ斗
   安宣

    灸志て戻る小僧漸寒
   龜世

   もらふたる鏡見て居る窓の月
  ボク言

    菊をいはふて志まふ椀家具
   自笑



三河

      新城

   風の香の出かけや軒の菖蒲草
   白雪

   長者夫婦のむかしたちはな
   支考

   小僧まて馳走のうへに寐ころひて
   露川

   一里の中に見ゆる砂川
   桃先

   豆畑の痩て乏しき秋のかや
   雪丸

   また新蕎麥の湯もからぬ也
   扇車

   毛氈はとなたのこさるけふの月
   桃後

   すへて伏見はこひた風俗
   白紙

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