八十村路通

『桃舐集』(路通撰)


元禄9年(1696年)、『桃舐集』(路通撰)。肥陽 白川長水序。

桃舐集序

勸進子路通、一箇の桃の實を拾ひて、壽域萬歳の風味をたのしむ。夫よりしてあまさがる常陸の海、しらぬひのつくしの果まで、誹仙の月花にあふれ、今已に洛中に遊ぶ。予も此こゝろざしに因む事としあるのみ。

肥陽 白川長水述

集をもゝねぶりとなづくる事は、九千歳をたもちしそのゝ桃、もろもろの仙人望て舐れども、東方柵が齡にひとしきをきかず。爰に俳仙桃青翁、又一顆の桃を得て生涯の賞翫とす。其あまりを舐る類ひあまたなれど、信(まこと)の味をしるものなし。此ごろ肥陽長水、京にのぼりて我と友たり。折ふし毎につぶやきあふ事、皆古き翁の俤をしたふなれば、舌に馴、心に染て感動する事有、かれ是思ひあはせて桃舐といはんもむべなり。

路通漫綴書

   名所雜

あさよさを誰まつしまぞ片こゝろ
   芭蕉

   翁、執心のあまり常に申されし、名所
   のみ雜の句有たき事也。十七字のうち
   に季を入、哥枕を用ていさゝか心ざし
   をのべがたしと、鼻紙のはしにかゝれ
   し句を、むなしくすてがたくこゝにと
   ゞむなるべし。



   工夫 兩吟之俳連
  路通
つつくりとものいはぬ日も櫻花

 鹿(カ)の角なふてまだ初心也
   長水



   本間丹野が家の舞臺にて

ひらひらとあがる扇や雲のみね
   芭蕉

 青葉ぼちつく夕立の朝
   安世

瀬を落す舟を名殘に見送りて
   支考

 はなれて家を造る原中
   空芽

月の前きぬたの拍子のゆて來る
   吐竜

 大かたむしの手をそろへ鳴
   丹野



   路通のわかれて京にゆくを送る

麩ばかりも京のを喰に夕すゞみ
   休計

 蛙もそらに高あがりして
   路通



鶯に口きかせけりむめの花
   路通
 ナニハ
とし毎やすゞなすゞしろ拍子利
   休計
  江戸
さく梅を作過たり横たをし
   杉風
 久留米
海の上にはるばる來ぬる胡蝶哉
   西与

呼にやる人も戻らず朧月
   北枝

   述 懐
越中有礒
藝もなき身のたぐひかや松毟
   拾貝

まんぢうで人をたづぬる山ざくら
   キ角

面白の花のみやこや青葉まで
   長水

ほとゝぎす枕もふまず子もふまず
   其角

   旅 行
  
幸のあせのごひ也すみごろも
   使帆
  
蚤蚊にもやどの名殘よ合歡の花

更る夜や薫物姫のうちはもち
   乙州

ことし竹も淋しき秋の初哉
   路通

   餞 別

手々にもつ菊とりかゆる別かな
   万子

かれはぎや柚みその釜のくらいさし
   從吾

   歳 暮

晦日やはや來年に氣がうつる
   路通

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