三月十八日 曇――晴。
緑平居へ転げ込む。―― ボタ山なつかしく草萌ゆる 三月十九日 雨。 雀、鶯、草、雲。…… 愛憎なし恩怨なし、そしてそして、――愚! 若松へ、多君を煩はして熊本へ。 逢うて別れてさくらのつぼみ いつまた逢へるやら雀のおしやべり 熊本駅で一夜を明かす。
『其中日記(十)』 |
十一月廿七日 晴、読書と散歩と句と酒と、緑平居滞在。 緑平さんの深切に甘えて滞在することにする、緑平さんは心友だ、私を心から愛してくれる人だ、腹の中を口にすることは下手だが、手に現はして下さる、そこらを歩い見(ママ)たり、旅のたよりを書いたりする、奥さんが蓄音機をかけて旅情を慰めて下さる、――ありがたい一日だつた、かういふ一日は一年にも十年にも値する。 夜は二人で快い酔にひたりながら笑ひつゞけた、話しても話しても話は尽きない、枕を並べて寝ながら話しつゞけたことである。 ・生えたまゝの芒としてをく(緑平居) ・枝をさしのべてゐる冬木( 〃 ) ゆつくり香春も観せていたゞく( 〃 ) ・旅の或る日の蓄音機きかせてもらう( 〃 ) |
雨ふる子のそばに親の雀が来てゐる | 緑 平 |
枝をさしのべてゐる冬木 | 山頭火 |