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荻原守衛 單純な子供荻原守衛の世界観がそこにあった。 坑夫、文覚、トルソ、胸像。 人なつこい子供荻原守衛の「かあさん」がそこに居た。 新宿中村屋の店の奥に。 巖本善治の鞭と五一会の飴とロダンの息吹とで萩原守衛は出来た。 彫刻家はかなしく日本で不用とされた。 萩原守衛はにこにこしながら卑俗を無視した。 單純な彼の彫刻が日本の底でひとり逞しく生きてゐた。 ――原始、 ――還元、 ――岩石への郷愁、 ――燃える火の素朴性。 角筈の原っぱのまんなかの寒いバラック。 ひとりぽっちの彫刻家は或る三月の夜明けに見た、 六人の侏儒が枕もとに輪をかいて踊ってゐるのを。 荻原守衛はうとうとしながら汗をかいた。 粘土の「絶望」はいつまでも出来ない。 「頭がわるいのでろくなものはできんよ」 荻原守衛はもう一度いふ、 「寸分も身動きができんよ、追ひつめられたよ」 四月の夜ふけに肺がやぶけた。 新宿中村屋の奥の壁をまっ赤にして、 荻原守衛は血の塊を一升はいた。 彫刻家はさうして死んだ――日本の底で。
昭和11年 高村光太郎 |
