俳 書
『しぐれ会』(明和7年刊)
明和七寅年十月十二日於義仲寺興行 |
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此塚の松いく度か時雨の日 | 汀雨 |
坐具に折しく霜のかれ草 | 蝶夢 |
足る事は覚へす旅を常にして | 後川 |
大きな家の物しつかなり | 文下 |
鋤鍬をつらりと懸て光らする | 諸九 |
堪忍ならぬ春の寒さよ | 魯江 |
十月八日於岡崎五升庵興行 |
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こゝろさすけふや時雨の音まても | 文下 |
蔦枯のこる壁に夕陽 | 蝶夢 |
当坐探題 |
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石蕗の花暖そふに延にけり | 只言 |
埋火やつゝめと出る膝かしら | 蝶夢 |
文通奉納 |
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はせを忌や袂は染ぬ硯箱 | 二日坊 |
夕しくれ暮ゆく鳰の物あはれ | 阿雖 |
しくるゝやなめかし山に夕日さす | 蝶酔 |
豊後 |
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また落ぬ木の葉ぬらすや初時雨 | 蘭里 |
はせを忌やむかしを今にうつくまり | 旧国 |
嵯峨 |
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夕しくれ急ぬかほて戻る牛 | 重厚 |
出席捻香 |
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降ものゝはや消るかと初しくれ | 桐雨 |
洛尼 |
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その椎の木陰にぬるゝ時雨かな | 諸九 |
とりとりの筆を時雨に染にけり | 文下 |
芭蕉堂の造営も、そこはかとなく一 |
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年の春秋を歴けれは |
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軒にやゝ物ふりにけり夕しくれ | 蝶夢 |