鶴田卓池



『奥羽記行』(自筆稿本)

岡崎市矢作町松下家所蔵の鶴田卓池自筆清書本。

 寛政3年(1791年)4月21日、鶴田卓池は岡崎を出立、「奥羽紀行」の旅に出る。7月3日、岡崎に帰るまでの旅日記である。

 『奥の細道』が156日間で476里余であったのに比べ、71日間で538里程の行程はかなりの強行軍であった。

各地の歌枕で古歌を収録。芭蕉の句や句碑も書きとめている。

最初の2頁が欠けており、それが『奥羽行』であろう。

『奥羽行』

三州街道(伊那街道)から杖突街道を経て諏訪へ。

 寛政三年亥四月

○二十一日 七り足助 宿綿屋与七



○二十三日雨降 三リ 平屋次部坂三リ並谷関所有七回八峠ト云処アリ三里駒場

○二十四日 三リ 飯田城主堀孝之進弐万石

座光寺へ半道不捨山如来寺と云百姓今村善右エ門と云者ノ家ノ後ロに石の御坐有本田善光の末也ト云

三リ大嶋松川と云処アリ

廿丁片桐 二リ宿飯島宿ノ名失念

○二十五日 雨降 二り上穂 大田切川 馬爪原 駒嶽 壱り宮田 弐り伊奈部 二リ十丁高遠 城主内藤大和守 二り四日市

宿 大治郎ト云者の家に泊

○二十六日 未の刻ヨリ雨フリ 杖突坂 四り上諏訪大明神

祭神ハ建御名力命ト申ス タケミナチカラノミコト也

社領千石 七不思議ト云コトアリ 弓島へ二り

   諏訪湖の海の氷のはしの通路ハ神のわたりてとくるなりけり

   今朝しもや諏訪の氷のひま分て尾をふる駒の道なつむらん

高島衣ヶ崎ト云 城主諏訪因幡守三万五千石 一り下諏訪大明神 祭ル御神体ハ下照姫ナリト云 此処ニ温泉あり

高島ニモアリ 二り六丁和田峠 諏訪峠トモ云

宿茶店尾口金右ヱ門

甲州街道から中山道に入り、大門街道を経て上田へ。

二十七日 午ノ時迄雨降 三り八丁和田 二り長窪

五り上田 城主松平伊豆守

五万八千石 宿油屋吉右ヱ門

北国街道を行き、姨捨山へ。

○二十八日 三り榊 此所村上義清ノ菩提所アリ 一り半戸倉 一り半八幡 八幡八幡宮 筑摩川

   ちくま川春行水ハすミにけり

   澄みていくかの峯の白雲

姥捨山 姨石ノモトニ小堂有 観世音也 長楽寺ト云

女石男石小袋石桂ノ木宝ヶ池

冠岩ヶ嶽 後は一重山也

前上田毎ノ田有向に有明山鏡台山アリ

   我心なくさめかねつ更科や姨捨山に照月を見て

   さらしなや姨捨山に月見ると都の誰か我を知るらん

   今よりハ秋姨すての山桜月と花との有明のころ

   さらしなや夜わたる月の里人もなぐさめかねて砧打らん

『奥羽記行』

北国街道を行き、関川の関所を越え高田へ。

   碑有   俤や姨ひとり泣月の友   翁

壱り稲荷山 三里丹波嶋 犀川丹波川トモ云

粂湖の橋ハ犀川ノ水上也壱り善光寺宿ハ山内

良性院三河ノ坊也ト云是ニ宿ス

二十九日 善光寺高サ十丈二重屋根

   表十五間奥行二十五間アリ

   山門仁王門経堂   知行千石

四門東定額山善光寺南南命山無量寿寺

   西不捨山浄土寺北北空山雲上寺

 大本願比丘尼上人也別当大寛寺一山天台四十六坊有

   翁の吟 月影や四門四宗も只ひとつ

         宿良性院



   是ヨリ奥至テ山深シ人ノカヨハサル峯々アリト云

   五り此間道さだかならず

野尻   宿坪井屋安兵衛

五月朔日 信濃越後ノサカイ一り関川関所アリ

一り田切壱り大田切壱り関山壱り

二本木壱り荒井弐里半高田 宿ハ

横町米屋 城主式部大輔十五万石

二日 高田町ノ内壱り半 浄教寺 浄興寺

本誓寺鸞上人川越ノ名号アリトイフ



二り五智竹ノ内国分寺天台宗也本堂十四間

大日如来 薬師如来 弥陀如来 釈迦如来 宝生如来

是ヲ五智ノ如来ト云

   山内ニ翁ノ碑

   

   薬欄にいづれの花をくさまくら

   鸞聖人自作ノ像トテ萱葺ノ小堂アリ

   五年ノ間汲給ひしト云清水アリ

   国分寺ハ知行二百石也

十八丁今町今町ヨリ銭十百文南鐐不通用也

今町ヲ直江ノ浜ト云直江山城守住居ノ地ナリト云 一り

黒井 二り片町 二り七丁柿崎 宿大黒屋善右ヱ門

三り鉢崎 柿崎鉢崎ノ辺土ヲ堀て薪トス 匂ひ甚悪し



出雲崎 宿伊勢ヤ相沢九平衛 此処より佐渡へ

渡海ス 海上十八里ト云

四日 雨降 二り山田 二り寺泊 弐里半

野積村海雲山西浄寺ト云寺有 奥ノ院岩坂不動か

滝ニ入定し給ふ弘智法印星霜四百余年ニおよぶと聞と

今ニ形□然たり 今ハ本堂ノ上ニ草庵アリ 是ニ安置ス

壱り弥彦   宿問屋次郎右ヱ門

   弥彦山大明神

   此間渡し三ケ所有テ迷道多し 五里

三条 長久山本城寺ト云日蓮宗有り 壱り

妙法寺 百姓所右ヱ門囲炉裏ノ隅ヨリ火出る



三り新潟   宿大坂や次郎右ヱ門

新潟は北国一ノ湊也 家数三千軒ト云



十一日 壱り十一丁木の股 是ヨリ南に宮積山温泉

阿り 袖ノ浦鼠カ関近シ

   翁ノ吟 あつミ山や吹浦かけて夕すゝし

   旅衣立よる磯の松かけに涼しくかよふ袖の浦風



湯殿山から月山を経て、羽黒山へ。

湯殿山迄八十丁

湯殿山大権現本地大日如来 此山中落たる物ヲ

取事叶ハズ 参詣ノ者ノ賽銭土砂ノ如クアリ

月山ノ頂迄三里 月山大権現本地阿弥陀仏

湯殿山ヲ恋ノ山と云

   恋の山しげき小笹の道分てわけて入初るよりぬるゝ袖かな

   恋の山入てくるしき道ぞとは踏染てより思ひ知りぬれ

   翁ノ吟 かたられぬゆどのにぬらすたもとかな

   曽 良 ゆどの山銭ふむ道のなみだかな

   翁ノ吟 雲の嶺いくつくづれて月の山

月山ノ頂ヨリ羽ぐろ山を九里ト云 雪多くいまだ笹室

一つも作らず 此日行人ノ外ハ人ニ不逢 雪ヲふむこと凡七里斗

されど翁ノ細道に書き給ふ山ノさくらハ蕾もちて如月半の□し

         羽黒山麓ニ宿ル

十四日 羽黒山 祭ル御神ハ倉稲魂也 先達□学坊

仁王門 経堂 五重の塔 燈明石

羽黒大権現本堂十四間 本坊若王子ト云

一山天台三十一坊 衆徒三百余人 知行千五百石

釣鐘堂 銅ノ鳥居 百一末社

東照宮迄登り十八丁

奥ノ院荒沢大権現迄又十八丁

         

   翁ノ吟 凉しさやほの三日月の羽くろ山

二り半狩川 四里新堀 宿茶店又八

最上川を渡り象潟へ。

十五日 午ノ刻迄雨降 酒田へ二り 最上川ノ末ヲ舟ニテ

ワタル

   翁ノ吟 五月雨を集て早し最上川

   最上川のぼれバくるるいな舟のいなともいはぬ恋もするかな

   もかみ川落くる滝の白糸ハ山の眉よりくるにぞ有ける

白糸の滝ハ此川上也

二里酒田港 城有酒井左衛門尉ノ預リ也ト云 壱り

小湊川 五り吹浦 吹浦ハ景地也 前四阿アリテ

遙ニ飛島見ユル 後鳥海山也

鳥海山大権現本地薬師如来 頂ニ湖水有テ登り九里ナリト云

         吹浦ニ霍ヶ領ノ関アリ

二里女鹿 霍ヶ岡領ノ関アリ重関也岩山ツタヒ

峡岨也 二里小砂川 宿与三郎

   小砂川ノ山手ニムヤムヤノ関跡アリ

   武士のいづさ入さにしをりするとやとや鳥のむやむやの関

   此間一里山越二里砂原也

三り汐越 本庄領ノ関有 宿問屋岡本与兵衛

   翁ノ句 汐こしや霍脛ぬれてうみすゞし

由利郡象瀉 鳥海山後ロニ高し 寺有皇后山

干満殊寺禅宗 本堂一九間 陵有 西行さくら

象瀉ハ八十八瀉九十九島ト云

   象瀉のサクラハ浪に埋れて花の上漕ぐあまのつりふね

   翁ノ句 きさかたや雨に西施がねぶのはな

   天にますとよおか姫に事とハン幾代になりぬ象瀉の神

   松しまや雄島汐竈何ならん只きさかたの秋の夕くれ

   世の中ハかくても□けり象瀉の蜑の苫やを我宿にして

   きさかたと思ひしほとにいだかれて帰る泪の袖ぞぬれける



尾花沢、天童を経て山寺へ。

二十一日 弐里八丁サバ子峠 新庄領ノ関アリ

二り半柳沢 二り八丁尾花沢 壱り半

戸中田 一八丁本飯田 一り八丁舘岡 舘岡ノ茶店ニヤトル

二十二日 申ノ刻ヨリ雨フル

天童 一り半山寺

山寺 宝珠山立石寺 慈学大師ノ開基

薬師堂 坐禅石 護摩ノ虚石 念仏堂 七福神岩

山王権現ト慈学大師ノ対面石 山上迄登九丁 知行

千四百二十石 奥ノ院 釈迦堂 開山堂 慈学大師

入定ノ窟トツカウ水天狗岩 拝ミ所都合四十八ヶ処

コトコトク岩山ニテ至テ清閑也

   翁ノ碑 しつかさや岩にしみ入る蝉の声

         

出羽陸奥ノサカイ

二口越 登り三里余 甚々難所也 峠ヨリ二十丁斗

くたりて家二軒アリ 一軒ハ明家ニテ嶺札次第ト見ユ

一軒ハ仙台の山守ニテ板壁ニ鉄砲山刀ヲ引掛往来ノ者ヲ

助テ宿ヲカスナリ

仙台を経て、松島へ。

二十三日 午時迄雨降 三里余野尻大滝ト云アリ

落ルコト四十余丈ト云 仙台ノ関アリ 弐り馬場

三りアヤシ 弐里半仙台城下国分町福田ヤ与八泊

つゝじか岡 木下ノ天神

二十四日 廿五丁原ノ町今市 二り十府の里

   みし人も十府の浦風音せぬにつれなく澄る秋の夜の月

   みちのくの十府の萱菰七ふにハ君をねさせて三ふに我寝ん

   水鳥のつらゝの枕ひまもなしむべさへけらし十府の萱こも

多賀城ノ跡 壺ノ碑ハ市川村ト云ニアリ

奥ノ細道 緒絶ノはし

   人こゝろ緒絶のはしに立かへり木の葉降しく秋の通ひ路

   みちのくのいはてしのぶハえだしらぬ書尽してよ壺の碑

二り塩竈 塩竈明神 社人廿八家アリ

神前に南蛮鉄ノ燈籠アリ 文治三年和泉三郎寄進也

別当法連満寺坊十弐本アリ

町内ニ神ノ汐竈四ツ有 昔ハ七ツ有シト云

町家ノ裏ニ小池アリ 是ニ牛石ト云モノアリ

汐竈ノ浦 千賀ノ浦共云

   みちのくハいつくハあれと汐かまの浦漕舟のつなでかなしも

   雲の浪けふりの浪ハ立なから朧月夜の汐かまのうら

   我思ふ心もしるく陸奥の千賀の汐かま近つきにけり

   塩釜の浦吹風に霧はれて八十島かけて澄る月かけ

   子を思ふ声もかはらず汐かまのミしまか暮の松の友霍

松島 宿扇屋弥佐ヱ門

伊勢島 小町島 経ヶ島 二子島 江島 福浦島 烏帽子島

琵琶島 毘沙門島 蛭子島 裸島 大黒島 九ツ島 大内島 后島

鎧島 甲島 霍島 亀島 加古美島 布袋島 セイカヒ島 屏風島

五大堂 山王ノ社 西行戻シ

   西行法師牛牽童ニ対シテ歌ヲ詠ス

月にそふかつら男のかよひ来て芒はらむハ誰か子なるらん

   牛ひく童我もよむべしとて

雨もふり霞もかゝり霧もふりはらむ芒ハ誰か子なるらん

   牛牽童ハ山王ノ変身也ト云

雄島 其外島々多し 七浦八崎ト云コト有

松ヶ浦 梅ヶ浦 竹ヶ浦 霞ヶ浦 五徳ヶ浦 簫ヶ浦 是ヲ七浦ト云

月見崎 霍崎 亀崎 宝珠崎 像鼻崎 大津崎 蛇ヶ崎

是ヲ八崎ト云 月見崎ニ仙台公ノ御仮殿有 御舟小家アリ

瑞巌禅寺 本堂廿五間七尺 坊三十本

仙台公ノ御菩提所ニテ御魂屋数々有

   松しまの磯にむれゐるあし田鶴のおのかさまざま見へし千代哉

   踏分てわたりもやらず紫の藤咲かゝる松島のはし

   明わたる雄島の松の木の間より浪をはなるゝよこ雲のそら

   波かゝる雄島ヶ磯のかぢまくら心してふけ八重のしほかぜ

   秋のよの月やをしまの天の原暁方ちかき沖の釣ふね

   ちりぬべき雄島か磯のもみぢばにあらくもよする沖津波哉

   松島や雄島の磯にちる浪の月の氷に千鳥なくなり

   まつしまやをしまヶ磯の夕霞たな引わたせ蜑のたくなハ

   松島やをしまの磯に求食せし海士の袖こそかくはぬれしか



仙台に戻り、奥州街道を上る。

廿八日 巳ノ刻迄雨降 野田ノ玉川

   月うつる野田の玉川来て見れハ水影清くすめる世の中

   夕されハ汐風こえてみちのくの野田の玉川千鳥なくなり

紅葉山 阿部ノ松はし 末ノ松山 沖ノ石

末ノ松山ハとなりて末松山ト云 沖ノ石ハ人家ノ前にあり

   春の行末の松山吹風にかすまぬ浪の花やちるらん

   浦ちかくふり来る雪は白浪の末の松山こすかとぞみる

   霞たつ末の松山ほのほのと浪をはなるゝよこ雲の空

八幡八幡宮 三り半仙台福田町 壱り八丁

原ノ町 玉田 よこ野 宮城野

   宮城のゝ野守の庵にうつ衣萩ガ花すり露や置らん

   秋萩の下葉の露に色付て鶉鳴也宮城のゝはら

壱り長町 三十二丁中田 此間 名取川

   子規おのがさつきの名とり川はや埋木に顕れてなけ

三十二丁増田 二里岩沼 宿すかいや宅兵衛

   道祖の社 笠島ノ実方墓近シ

   朽もせぬその名ばかりをとゞめ置て枯野の芒記念にそ見る

二十九日

   武隈ノ社 松ハ植カへニテチサシ

   武隈の松ハ二木を都人いかゝと問ハ右とこたへむ

   武隈の松ハこの度あともなし千とせを経てや我ハきつらん

一り廿五丁槻ノ木 阿武隈川

   君ヶ代にあぶくま川の埋木も氷の下に春をこそまて

一り十丁舟狭間 はゞかりの関 壱り十壱丁大川原 三十丁

金ヶ瀬 此間ニテカミ山と云アリ 此所ニテ大白雨

     雷甚々強シ 白雨晴テ地震ス シバシ木草ニスガルホドナリ

壱り廿二丁葛田宮 壱り廿二丁白石 城主片倉小十郎

壱り十五丁歌川 義経鐙摺ノ石 鞍ワリ石

一り半越河 宿安部屋佐蔵

六月朔日 廿六丁貝田 義経腰かけの松

   碑有 よしつねのほまれハこゝに腰かけの松に名残る末ぞ久しき

   弁慶の硯石ト云大岩アリ

二重塔 伊達の大切戸

古名下紐ノ関 銀山 国見山近シ 此日氷売ニ逢

東路のはるけき道を行めぐりいつかとくべき下ひもの関

壱り十一丁藤田 壱り七丁桑折

   鯖野村医王寺 什物義経ノ笈太刀弁慶ガ太刀アリ

   鯖野村ニ佐藤庄司カ館ノあとアリ 南殿ノさくらと云アリ

   古木也

   甲冑堂ハ次信忠信ガ妻ノスカタナリ

壱り十八丁瀬ノ上 あふくま川ヲわたりて信夫ノ里ニ入

信夫ノ里 文字摺ノ観音 文字スリノ石

翁ノ碑 早苗とる手もとやむかししのぶすり

      信夫山

   しのぶ山しのひてかよふ道もがな人の心のおくも見るべく

   おのれのミ春をやひとりしのぶ山花にこがるゝ鶯の声

   人しれずくるしきものハしのぶ山下はふ葛の恨なりけり

一り半福島 城主板倉内膳 三万石

   福島の町ニテ文字スリノ短冊其外ヲウル

壱り廿五丁若宮 壱り八丁八丁目

         宿中島幸蔵

二日 壱り三十壱丁 二本松

         城主 丹羽加賀ノ守 十万石

   安達ガ原 黒塚ノ窟

   しぐれゆくあたちか原の薄霧にまだ朽果ぬ秋そのこれる

   みちのくのしのぶの鷹を手に居て安達ヶ原をねるハ誰子ぞ

壱り十一丁杉田 壱り十八丁本宮 弐り十二丁

日和田 浅香山 あさかの沼

   みちのくのあさかの沼の花かつみかつミる人に恋やわたらん

   春野のあさかの沼にあさりしてかつミの下葉ふみしだくなり

   浅香山かげさへ見ゆる山の井のあさくも人を思ふものかハ

   あやめ草引手もたゆく長き根のいかであさかの沼に生けん

壱り十一丁郡山 廿三丁日出山 弐り

須ヶ川     宿柳屋吉右ヱ門

三日 二り半矢吹 壱り廿九丁大田川 是ヨリ

百文ニ九十六文通用也 二り四丁白川

   白川城主松平越中守 十万石

壱り丗弐丁白坂     宿

四日 殺生石へ入事道法二里半斗ト云

白坂ヨリ関ト云処へ八丁余りアリ 陸奥下野ノ国境

   翁ノ碑 風流のはじめやおくの田うゑ歌

         

是ヨリ山手へ二十余丁入て宿村ト云所アリ 此所

白川ノ古関也ト云

   都をば霞とゝもに出しかど秋風ぞふく白川の関

   紅葉ばの皆紅に散しけば名のみなりけり白川のせき

三り芦野

   此所に清水流るゝの柳あり

   翁ノ碑 田一枚うゑて立去る柳かな

         

三り鍋掛 二り三十丁大田原

   大田原城主大田原飛騨の守 一万三千石

那須野ヶ原ニカゝりて日光山ノ道ニ入 那須野ヶ原ハ

東西四里南北八里有ト云

   武士の矢並つくろふ小手の上に霰たばしる那須の篠原

二り八丁沢村 一り矢板 宿ヨシミヤ間助

那須野から日光北街道を行き、中禅寺へ。

五日 一り高打 二り玉入 二り不入 此間舟渡有

一り大渡 二り今市 弐り日光

         宿仏岩竜観坊

六日 雨降 山菅ノ橋 霧降滝 大日堂

中禅寺迄三里 湖水アリ 諸堂多し

黒髪山 登三りト云 男体大権現

花散ノ滝 中禅寺より荒沢へ三里 裏見ガ滝

   翁ノ句 暫くハ滝にこもるや夏の始

   身の上にかゝらんことぞ遠からぬ黒髪山に降る白雪

   鳥羽玉の黒髪山の山菅に小雨降しきまなくぞ思ゆ

   うば玉の黒髪山のを今朝こえて木の下露に濡れにけるかな

荒沢より仏岩迄壱り 宿竜観坊

七日 日光山入口ニ朱ノ反橋有 本宮

新宮 三重ノ塔 御旅所 御殿地

別当大楽院 坊中百本 社人六家

五重ノ大塔 酒井氏ノ寄附石ノ大鳥居

二抱半有 黒田氏ノ寄附仁王門 後ニ風神雷神アリ

御厩 御水屋 御庫三本 経堂 銅ノ鳥居

鐘楼 鼓楼 朝鮮鐘 蓮の台 燈籠

阿蘭陀廻シ燈籠 阿蘭陀釣燈籠

御本地堂 神楽堂 陽明門 俗ニ日暮シ門ト云

護摩堂 神輿舎 唐門

東照大権現 相輪塔 別ニ燈籠一対アリ

大猶院殿御霊屋 別当竜光院ト云

滝男ノ権現 素麺滝ト云アリ 三本杉

子種石

   翁ノ句 あら尊わか葉青葉の日の光

弐里今市 弐里大沢 二り徳次郎

         宿問屋

宇都宮から真岡を経て、筑波山へ。

八日 三里一八丁宇都宮 城主八万石

戸田因幡守 正一位一方明神ト云アリ

此間原多く迷ひ処道々あり

五里 真岡     宿大黒屋

九日 壱り半高田 此辺沼多シ

入口ニ小橋アリ 外門 楼門 南勅号専修寺

西勅号阿弥陀寺 東太子寺 北無量寿寺

如来堂 東向六間四面 御前立アリ

太子堂 寝釈迦堂 鐘楼堂

開山堂 南向十三間 前ニ菩提樹有リ

聖人自植給ひし柳ニテ刻給ひしト云五十三之

木像有 左右に顕智真仏自作ノ木像アリ

鸞上人御廟所 左右に九代目迄ノ墓あり

椎尾山ハ筑波山ノ登り口也 柏(ママ)武天皇ノ勅願所ト云

椎尾山薬師如来 仁王門 三重ノ塔 鐘楼堂

観音堂 弁天堂 別当山田西生寺

念仏堂     知行百石

筑波山 山ノ内かけこし百六十丁あり

男体山大権現 女体山大権現

ミなの川 さくら川 香取 鹿島 若国山 霞ノ浦

板敷山 皆眼下也

   桜花咲やしぬらん筑波根のこのもかのもにあまる白雪

   今ハとて心つくはの山見れハ梢よりこそ色色かハりけれ

   つくはねの嶺のさくらやみなの川流て淵とちりつもるらん

   常よりもはるへになれハさくら川花の浪こそ立まさりけり

   白波のあとこそ見へね天の原霞の浦にかへる雁がね

   ほのかにもしらせてしがなあづまなる霞の浦のあまの燈火

   春霞かすみの浦を行舟のよそにも見へぬ人を恋つゝ

   夏衣かとりの浦のうたゝねに浪のよるよるかよふ秋風

筑波山ノ麓に板東二十五番ノ千手観音あり

家光公の御建立なりと云

   奥ノ院 十一面観音

 詠歌 大御堂鐘ハつくばの音にたて

     かた夕くれに国そこひしき

麓に筑波の神社有て勅額天地開闢トアリ

男体女体山大権現堂 三重ノ塔 石ノ大鳥居

知行弐千七百石ト云

壱り北城 廿三丁君島 一里今ヶ島 三里

間瀬     宿文右ヱ門

守谷から小金、松戸を経て、江戸へ。

十一日 弐りをばり 壱里青木 舟わたしあり

蚕飼川ト云 常陸下総ノ境也 弐里守谷

   此所ニ平親王将門ノ屋敷あとあり 堀ノ形 御殿地

   ナト云所アリ 則相馬郡也

壱り戸頭 此間坂東太郎ト云川アリ 利根川ノ末也

壱り布瀬 三里八丁小金 壱り廿八丁松戸

         宿吾妻や半兵衛

十二日 此間又利根川ノ末ヲ越ス 武蔵下総ノ境也 三里半

江戸     宿浅草唯念寺

十三日 両国回向院 本庄五百羅漢 深川八幡宮

霊岸寺 法専寺     宿同

十五日

御城 大名小路 安芸黒田ノ屋敷 向カ丘

霞ヶ関

   おなしくハ空に霞の関もかな雲路の雁をしはしとゝめん

芝明神 増上寺 愛宕山 築地西門跡

桜田長専寺 高田宗溜池トモ云

         宿会津屋

十六日

長門ノ馬場 山王権現 市貝八幡宮 聖堂

神田明神 湯島ノ天神 東叡山 山王 弁財天

不忍の池 高田宗正念寺 浅草東門跡 浅草観音

十七日 十八日 十九日 廿日 廿一日 廿二日

飛鳥山 日暮シノ里 (ママ)子ノ稲荷 綾瀬川 庵崎

佃島 隅田川 木母寺 梅若 三囲 吉原 梅屋敷

其外休足ノ日有リ

   誰か方による啼雁の音にたてゝ泪うつろふむさしのゝ原

   草枕同し旅ねの替らねハ日数わするゝむさしのゝ原

   むさしのゝ向の岡の草なれハ根を尋ても哀とそおもふ

   行末ハ空もひとつのむさしのに草の原より出る月影

   春のきる霞のつまやこもるらんまた若草のむさしのゝ原

泉岳寺 浅野公ノ墓 義士四十六人ノ墓左右に有り

御殿山 東禅寺 東海寺 二里品川

         宿上州屋林右衛門

江戸を立ち、東海道を上り藤沢へ。

廿三日 弐里半川崎 弐里半神奈川 一里九丁

程ヶ谷 境木村地蔵堂有リ 武州相州ノサカイナリ

弐里九丁戸塚     宿鎌くらや安右衛門

廿四日 午ノ刻迄雨降 三里鎌倉

鎌倉頼朝公ノ御殿跡 霍ヶ岡八幡宮 知行

   三千石 坊十九本 社家も有り 頼朝ノ社

   丸山稲荷 唐経堂 薬師堂 檀かつら 銀杏ノ木

   若宮権現 二重ノ大塔 一ノ鳥居 二ノ鳥居 霍亀石

   女石 初瀬ノ観音 御丈五丈ノ銅仏ナリ

   由比ヶ浜 星月夜ノ井 袖ノ浦 滑川 谷々

   塔ノ辻ト云所 所々ニアリ 土ノ牢 大小名屋敷跡

建長寺 頼朝公ノ陳(ママ)鐘陳(ママ)太鼓アリ

         西明寺 時頼公ノ御建立ト云

円覚寺 大鐘アリ 北條家ノ菩提所也ト云

   霍ヶ岡木高き松を吹風の雲井にひゝく万代のこゑ

   宮柱ふとしきたてゝ万代に今そさかえんかまくらの里

壱り六丁 江ノ島

弁財天 奥院迄十八丁あり 窟有 弐丁入ト云

児ヶ渕 蛙石

壱り半藤沢     宿 蔦や

遊行寺 小栗判官ノ墓アリ

大山道に入り、富士山に登る。

廿五日 壱り四ツ谷

是ヨリ大山道ニ入 弐り田村川 三り子安

子安ハ大山ノ麓也 前不動迄登リ壱リ 不動明王

本堂迄又十八丁登ル 家光公御建立ト云

雨降山石尊大権現迄登廿八丁 蓑毛面ト云所迄

下り壱り半 田原へ壱り 宿酒屋金兵衛

廿六日 未ノ刻白雨アリ コウ山へ弐里半 関元へ

二里 道了権現へ一里余 大雄山最乗寺ト云

禅宗也 道了権現ヨリ矢倉沢ノ関迄壱里半余

是ヨリ足柄山

   さらに今都も恋し足からの関の八重山猶へたてつゝ

   秋まてハ富士の高根に見し雪を分てこへぬる足柄の関

   ふかき夜に関の戸出て足からの山もとくらき竹の下みち

地蔵堂ト云所迄登り壱里 宿与五兵衛

こゝ相模駿河ノサカイナリ

廿七日 辰ノ刻迄雨降 足柄の嶺へ登る事又壱里

公時谷ト云所アリ

竹の下ト云所へ下り壱里 午ノ刻白雨甚シク 雷鳴山ヲ裂カコトシ

三り余須走 甲州屋善右ヱ門ニテ休足

   須走ヨリ強力をたのミ夜の防ニ貸布子ヲカル

富士登山 駒立迄登二里 本山ノ口迄登壱里八丁

本山ノ口ヨリ壱合弐合九合壱升ト云 其夜七合目ノ

岩室ニ籠   走道ト云ハ外ニ一筋有砂走口斗也

   富士ヶ根に降置雪ハ六月の昼に消てハ其夜降つゝ

   不二の山雲ハ雪気の雲ながらすそのゝ原ハ秋風そ吹

本山ノ口迄峯ヨリ又九合壱升トイヒ中宮迄二里下る

村山へ三里下る 村山ニ修験ノ一ツ家アリ 是ニ宿ス

東海道を上り、岡崎へ。

廿九日 大宮ヘ弐里下ル 富士川ヘ二里下ル

富士川急流也 巳ノ刻ヨリ午ノ刻白雨ツヨシ

七難坂 義経公ノ硯水トテ清水アリ

壱リ蒲原 壱リ由井 田子ノ浦ハ倉沢寺尾ナト

云所也ト云

   知せはや恋を駿河の田子の浦恨に浪のたゝぬ日そなき

   夏草ハ茂にけりな駿河なる田子の浦雨今やひくらん

      興津川 清見潟

   清見潟関にとまらて行舟ハ嵐のさそふ木葉也けり

   みし人の俤とめよ清見かた神に関守る浪のかよひ路

弐り六丁 興津 清見寺 禅宗也

      袖しか浦 有渡の浜

   鹿の音ハ尾花か浪になかれきて袖師の浦の玉藻とそなる

壱リ江尻     宿鹿島屋甚右衛門

江尻ヨリ舟ヲカリテ三保ノ松原にワタル

      三保ノ明神

夕日影入海涼し沖津風松にことふる三保の浦なみ

弐リ半久能山

   東照宮ヘ登九丁 社領三千石

   五重ノ塔 神楽堂 薬師堂 鐘楼堂

弐リ余府中 しつはた山 不二浅間の宮山也

   誰か為そしつはた山の永き日に声のあやをる春の鴬

安倍川 木からしの森

   木枯の森の梢のあさなあさな名に顕ハるゝ神無月かな

壱リ半 鞠子     宿大文字屋

七月朔日 宇都の山

   都にも今や衣をうつの山夕霜はらふ蔦の細みち

   おもふ事蔦のわかはに書付て都へ告んうつの山こえ

弐里岡部 壱リ九丁藤枝 弐里九丁島田

   大井川 駿河遠江ノ国境也

弐里岡部 壱リ九丁藤枝 弐里九丁島田

   大井川 駿河遠江ノ国境也

壱リ金谷 金谷坂 初倉山 新茶屋 子育ノ観音

小夜の中山 夜泣ノ石 菊川

   岩かねの床に嵐をかた敷てひとりや寝なん小夜の中山

   東路のさよの中山中々にいつしか人を思ひそめけん

   かひか根をさやにも見しかけゝれなくよこをりふせる小夜の中山

壱リ廿九丁日坂 壱リ廿九丁掛川 二里十六丁袋井

         宿 四ツ目屋

二日 一里半見付 天竜川 四里八丁浜松

三里舞坂 新井ノ関所 一里荒井 汐見坂

壱リ十六丁白須賀 宿     伊勢屋

三日 遠江三河ノサカイ 境川ト云アリ 壱リ十六丁

二川 岩屋ノ観音 一リ半吉田 弐里半御油

十六丁赤坂 弐リ九丁藤川 壱リ半岡崎

   総中之道法凡五百三十八里程

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